船員さんは恨まれます
一週間後。
「あ~~~~~依頼ないな~~~」
「ザガーになってから『引っ張り』すら来ない……」
そんなことをいい合いながら、ぼーっとしていたら。
ぺし!
はがきでたたかれた。
「仕事がないからって、ぼーっとしてていいのかお前ら!」
どなるコアン船長。はっきり言って、様にならない。貫禄がレインさんの半分でも付いたらいいのになあ。
はっ!そんなことを言っている場合じゃない!!!
「コアン船長、そのはがき……」
「「赤くない!?」」
「ああ……強制命令書だ。」
強制命令書――代金は無駄に高い。その分強制的に難しいことをさせられる、船員センターそのものからの依頼だ。まあ、そんなもんめったに来ない。来たとしてもせいぜい族の縄張りの海水浴場なんかの警備ぐらいだ。
なんて余裕だったのも、コアンが読み上げるまでだった。
「新大陸を発見せよ。主を一匹以上殺すこと。また血を採取すること。できなければ船は取り壊し、解散とする。もし成功した場合の報酬は一億カイン。」
「はあああああああ!? ヌシって、あのヌシよね!?」
『ヌシ』とは。かなり大きな、水棲竜だ。この小さな島国の周囲の半分を囲み、そちらへ行くのを阻み、めちゃめちゃ強いとだけ聞いたことがある。でもそんな無茶な指令をよこすってことは。
「まさか……あの日の……」
ミガンが思わずといったように言った。
「もう一枚、イウクフからの手紙もあるぞ。
なになに?『この命令を取り消してほしくば、ミガンを譲ること。お前らの船にオレの船は負けない。』だって。」
「ぷ」
ニーナが噴出した。
「あはは!あの船員だけ多くて、バカでかくて、デザインに凝り過ぎて性能の悪すぎな船が!?、ほぼ真面目にやってないから!負けるにきまってるでしょバーカ!ってか、その手紙の文面何!?キモすぎ!」
おとなしそ~な外見にそぐわない暴言を吐くニーナ。
「そーだそーだー!あたしは物じゃないぞ!なんだ譲ることって!頭おかしい!」
ミガンが馬鹿にするような口調でハガキに向かって笑う。あはははとみんなでひとしきり笑った。分かりやすく言うと、あいつは自信過剰なのだ。もう一つ言うと、親のすねをしゃぶりまくっている。
自分の船の管理もできない船長が、コアン船長、もといスキードブラトニル号に負けるわけがない。あ、そういえば。
「コアン船長、何でイウクフってコアン船長のことを敵視してるの?」
「ああ、それは……」
そこで言葉を切って、顔をしかめる。
「試験の同期だったんだ。船長養成学校を 首席で卒業して、まあアイツはコネ入学だったらしいけど、それで修行に出て、同時に試験を受けたんだ。こればっかりは、ずるも何にもできない。実力勝負だ。死ぬ気で勉強したよ。船長認定の最後の一人を決めるペーパーテストで、オレが大差をつけて勝ったんだ。それでイウクフは一年遅れで船長になった。船長になってからはコネを使いまくって見かけは豪華な成功した船長になったけどな。そういう理由じゃないか?」
船長の過去。初めから船長になろうと思っていたコアンは、船長養成学校の試験に、実力だけで合格した。大差をつけるのも無理はない。
「さすが船長だね。私には到底無理だよ。いくらコネ入学でも、退学にならなかった分成績は良かったんだろうしね。」
わたしは、この難しい顔をしている船長に、拍手を送る。
「うんうん、そう思うよー。だってそれって逆恨みじゃーん?」
可愛い声で正論を言うミガンに、場の空気が再びなごみかけたとき……
「それはそうと。これどうすんの?」
床に落ちて踏みつけられまくっていた命令書を汚いものでもつまむようにしてオルカットが言った。
場の空気が凍り付いた。
読んでくださりありがとうございます。良ければ評価、ブクマお願いします。




