船員さんはパーティーに出席します。
二日後――パーティーの日。
わたしは、パーティードレスに何とか見える程度のドレスを完成させ、待ち合わせ場所で待機していた。バラの花付きショールを、同じくひらひら増量のドレスのうえから羽織る。ピンクと黄色がまるでお花畑。ニーナのせいで胸元が無駄に空いている。恥ずかしい。何とか許容範囲ではあるものの、ニーナの手が滑ってか知らないけれどトイレへ行って帰ってきたら、胸元が大きく切り裂かれていたのだ。ひどいことするよ、ニーナも。自分のドレスはお堅いビジネス風なのに。これじゃ舞踏会にでも行くみたい。
「みんな遅い……」
何度目かのつぶやきを漏らしてから、ふと遠くを見ると。
「おおーい!きたよーん!」
ミガンがとんでもなく派手なドレスを着て走ってきた。もはや私の比ではなく胸元もあき、レースも増量どころかお徳用パックだ。髪型までゴージャスにアップにされている。
「っちょ、汚れる!もったいないぃぃ!ド レスで走るな~~~~!」
裾を何回も踏んずけながら走ってくるミガンに慌てて忠告。
「え?うわあああ!」
慌てて走るのをやめ、しずしずと歩き出したがもう遅い。ぐしょぐしょとドレスは泥がついている。
「あぁもう、勿体ないなあ。」
「うう……急いだのがダメだったか……」
そんなの考えればわかるでしょー!
仕方なく近くにいた人に声をかけるが、もちろん裁縫セットを持っている人なんていない。フロントに声をかけてみたら、なんと貸し出してくれた。あーやさしい。
受付お姉さんに手伝ってもらって、なんとかドレスの見た目をもとに戻す。まったく。ちょっと裾は濡れているが、待っている間に乾いたのでこれで良しとしてもらおう。
そして間もなくニーナ、コアン、オルカットが来て、合流できた。
「いよっ、アディナ!」
あーもう、まともに顔見れないじゃない!
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、あくまでコアンは陽気だ。
「うっひょー、広いとこだな~!」
「ほんとね!」
ニーナやオルカットにみられていないのが幸い。へんなおせっかいされたら、それこそ恥ずかしい。
というわけで何事もなかったように和気あいあいとホールに入っていくと。中央で多くの人に囲まれている人影を発見!間違いない、あのちょい丸っこいフォルムは!
「あっ!レインさんだ!」
いうが早いか私はタタッと駆け寄った。
「レインさーん!」
背後からミガンが叫ぶ。
「おお、スキードブラトニル号のみんなか!久しぶりだなあ!」
そしてしばらく思い出話に花を咲かせる。
「ええ、フリーの私に初めて船長に名指しで来てほしいって言われて行ったら、幼馴染じゃないですか。びっくりしましたよほんと!」
「ああ、知っててやったわけではないが、あの公園でお舟さんごっこをしていた五人がもう一度集まってほしいと思ってな。」
「やだそれいつの話ですか~?」
いくらか話した後、話に区切りをつけるようにレイン元センター長は言った。
「これからもがんばれよ!影ながら応援し ているからな!ほら、新センター長にもあいさつに行って来い!」
はっはっはという笑い声と共に送り出された私たちは、さっきとは天と地の差ほどもある重~い足取りでザガー新センター長のところへ向かった。レインさんに背中を押された方向には、一人で周りに声をかけてはドン引きされている人影がいた。
私たちが近づこうとすると周りにいた人がさっと道を開けた。憐れむような眼で見られているのは気付かないことにしよう。
「コンニチハ……」
一言声をかける。これで見逃してくれたらいいんだけどなあ。目指せこんにちはで終わるコミュニケーション。だけどザガーは見逃してはくれなかった。
「ええ、こんにちわぁ!今日も綺麗な人がそろってるね!元気そうで何より。っところで君たち誰だっけ?あはは、度忘れだねぇ。」
そして一人であッはッはと笑う。正直気持ち悪……いえ、何もないです。
わたしたちは返す言葉がなくて、苦笑いするだけ。名前も覚えていない。というか名前も覚えていないのに息をするようにお世辞を吐く。レイン元センター長は名前をすべて暗記していたというのに。一人一人の名前についてはいいけど、船の名前くらい覚えておいてほしい。
「ぼくたち、スキードブラトニル号の船員です。」
ため息を押し殺してから、コアンが言う。
「なに、スキードブラトニル号……」
一瞬目付きが厳しくなって、眼の笑っていない笑顔になると、(気持ち悪以下略)
「息子にもあいさつしてきてもらえるかねぇ。」
などという。そんな顔になると普段から嫌われているのにもっと嫌われるぞ、センター長。まあこれ以上嫌われるにはどうすればいいのかってぐらい嫌われてるけどね。
さらに足取り重く歩く。息子のイウクフは、さらに性格が悪い。皮肉を言う頭がなまじっかあるだけ面倒だ。
「やあこんにちは、レインのお気に入りの スキードブラトニル号の皆さん。さぞかし残念でしょうね、頼みの綱がいなくなって。」
皮肉なあいさつにカチンとくる。名前を憶えているだけザガーよりましか。いやそもそもどうしてそんなにライバル心むき出しでいてるんだろう……。あライバル心あるから名前覚えてたとか?面倒なやっちゃな~。おっと方言が出てしまった。
さらに皮肉を言うつもりか、イウクフが口を開く。
「こじんまりしてて、ウチの船より断然性能も悪い、デザインも適当。人気のない船。最低な船長。君がそんなところにいるのは もったいないよ……」
アイツっ!なんか地味にコアンのことを侮辱したな!許せない。一瞬殴りつけようかとも思ったが、周囲の目にハッと我に返る。形容できないような怒りが徐々に収まると、いやらしい手つきでミガンの手を取るイウクフのねめつけるような視線に、胸が悪くなる。さてはあいつ、あんまり純粋ではない理由でミガンに恋してるな。
他の皆も怒りを通り越して呆れている。はあ。やんわりと否定することを伝えよう。
その時。
すっぱあああん!!!!!
鋭い音がホールに響き渡った。ホールにいる人が全員こちらを向く。
「バッカにすんな!こっちは長年スキードブラトニルでやってんの!うちの船を馬鹿にするってことは、あたしを馬鹿にするっ てことだからね?このバッカやろー!あんたなんか、叩くのだって気持ち悪いわよ!」
で、でたミガンの啖呵……というか暴言。やってしまったなミガン。
実は口の悪い兄弟とけんかして育った中身であの外見だからなあ。そりゃ騙されるわな。ってかイウクフの顔!顔!間の抜けた顔よ!よくやったミガン~!ああー!思いっきり笑えないのがつらい!!
「くくっ……」
隣を見るとニーナが腰を折って忍び笑いを漏らしている。
「こ、こ、この……覚えとけっ!」
はねのけられた手とビンタされた頬を抑えながら、捨て台詞を残してザガーの方へ走っていった。ちょっとかわいそうに……ならないね。もとはといえばお前が悪いんじゃあ。というか女性に向かって捨て台詞。モテんな。この親の七光り野郎が!
その後は何事もなくパーティーは終わった。あんなに大勢の人が見ていたのに何事もなく終わったのは、きっとあの親子が嫌われていたからだろう。裏で拡散されてたけどね。それに女子に言い寄ってはねのけられたことを公なんかにしたら、メンツはザガーの分もまるっと潰れるだろう。そんな理由で復讐なんかを考えたわけではないのだろうと思って安心しきっていた。
それが間違いだと分かったのは、一週間ほど後のことだった。
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