船員さんの大脱出。
更新遅くなり本っっっっっ当に申し訳ありません。こんなえくれあの作品を読んでくださる方は、聖人君子です。本当にありがとうございます。
「もうすぐ出発だぞ、荷造りしとけよー。」
コアンは、その日の夜九時ごろ、言った。
「いいか、ここのコインは意地でも一枚、持って帰るんだぞ。帰ったところで、嘘だろうと言われれば終わりだからな。」
ミガンは、嫌なことを思い出したかのように顔をゆがめている。
「けっ、失脚すればいいのよ、あんな奴ら。」
既に荷造りは終わっているが、コアンは念を押すように言った。
「もし万が一、海に落ちたりしたら迷わずに残りの金貨を捨てるんだぞ。」
ニーナは金貨を一枚だけ、服の内側に縫い付けてくれている。
「よっしゃ、全員オッケーか?」
「はーい!」
威勢良く返事して、気持ちよく眠りについた。
明日は私たちだけでまた出港する。ついてくるなと言ったのは、ヌシのいない場所を知られたくなかったからだ。
真っ暗な世界に、私はいた。
なんだか背中が不安定だ。
ゆらゆらと船の上にいるように揺れている。
かぶっていたはずの布団もなく、寒いような気がする。
ああ、夢だ。これはすべて夢なんだ。
眠ってしまえ、そして違う夢をみよう。
私は安心してもう一度眠気に意識を委ねようとしていた。
そのとき、遠くから声が聞こえた。
めろ!放せ!やめろ!放せってば!
とてつもなく怒りを秘めたその声に、聞き覚えがあるような気がして、目を開けようとしたが、すでに意識は眠りへと引き込まれていった。
どんっ!
背中に鈍い痛みが走った。
どさ、どさささっ。
立て続けにその音がしたかと思うと、かしゃんという金属質な音がして、足音が去っていった。
「ん……んぐっ?」
声が出せない。さるぐつわだ。体中を縄が縛っている。
誘拐。――監禁。
その二文字が、頭に浮かんだ瞬間私は即座に縄抜けの体制をとっていた。
床に縄をこすりつけて、右肩を上げて、左肩を上げる。
手首まで縄が下りてきて、しゅるっと取れた。
さるぐつわを外すと、呼びかける。
「みんな、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。抵抗したから、縄はアディナより抜けやすかったよ。」
コアンがぱんぱんと体全体を払いながら、オルカットの縄をほどいている。
「ミガン、ニーナ!起きて。起きて。」
「んぐうっ!んんー、んんー!!」
二人は体が動かないことに気付いて目を見開く。
「ちょっと待ってね。」
縄を手首まで下げて、みんなを開放する。
「ぷはぁっ!ここはどこなの!?」
「しっ。大きな声を出すな。状況を整理しよう。」
コアンはちゃっと人差し指を口につけて、静かにしろのポーズ。
「いいか、夜に城門を抜ければ衛兵につかまる。だからここは城の中だ。そして、俺はだいぶ派手に叫んだ。誰も来ないのはおかしい。だから、これは城中の奴らを黙らせられる権力を持つもの。」
コアンが的確にポイントをつく。
思わずといった様に、ニーナが口を押える。
「じゃあ、これはまさか—―」
「そうだ。――まず九割、国王陛下の仕業だろうな。」
イウクフにあんなことを言われた事の次にむかつくわね。
「そんな、ロゼ――!」
ニーナが鉄格子に取りすがって、力いっぱい引っ張るが、もちろん破れるわけはない。
「錠があるわ。ピッキングすれば――。」
コアンは力なく首を振る。
「だめだ。よく見ろ。見たことのない錠だ。おそらく最新技術で、ピッキング防止してあるだろうな。」
万事休す!
その時、暗い室内に知らない声が響いた。
「おい、異国の船長。お困りのようだな?」
月明かりに照らされて、白髪の研究者然とした老人が立っていた。
異国の船長――って、コアン?
「あんたか――。何しに来たんだ?」
研究者のような老人は、肩をすくめる。
「何しに来たんだとは、ご挨拶だな。助けに来てやったにきまってるだろ?」
そういうと、にやりと笑う。
ポケットから、知らない器具を二つ取り出して、鍵穴に突っ込み、何やらねじねじといじくっている。
「やめとけよ、最新技術なんじゃないのか?」
「は、は、は。任せとけ、最新技術には最新技術だ。」
かちゃり。
音を立てて錠が外れ、扉が開いた。
「ほら、でろでろ。荷物はここにある。」
すっと右手で五つのリュックを掲げると、ぽうんと放った。
「裏道から行くぞ。――ここにはいろんな裏道があるんでね。」
「こんなことしていいのか!?あんたの地位はどうなるんだよ。」
コアンが食って掛かるが、もうすでに牢屋から出ているから意味がない。
「はっ。こんな王のところで働く意味もないね。いままでここにいたのは密偵の意味もあったのさ。」
「ロゼ!?まさか、そうなの……?」
ニーナが再び知らない名を叫んで、口を押える。
「お前、どうしてそれを知ってるんだ?どこで知ったか知らないが、そうだ。今日が決起の日――。王には、今日を境に罪人となってもらうんだ。」
ちょっとびっくりしたように、研究者さんが言った。
「ま、大丈夫さ、君らは心配すんな。」
研究者さんは、地下への階段を降りると、右に3回曲がって、左に4回曲がって、――いろいろあった後に、地上への階段を示してくれた。
「いいか、私はここまでしかこれない。――だが、心配するな。」
ニーナ以外全員が頷いた。
「あなた、ロゼを知ってるの!?じゃあ、言づけて。――無理しないでね、って。」
「承知した。」
闇の中に、研究者の姿が消えると、コアンはたったっと階段を駆け上がる。
「走るぞ。――いつ船が燃やされるか分からん。地下通路のおかげでいくらか速く着いたが、それでも時間がない。全力ダッシュだ。」
そういうと、再びコアンは階段を一段飛ばしで駆け上がった。
夜の街に五人分の足音が、響いた。
『何もない』ビーチに着くと、そのままの姿でスキードブラトニル号はたたずんでいた。
「乗るぞ、急げ。」
階段をハッチから降ろすと、そのまま駆け上がる。
船の明かりに火をともして、コアンは大急ぎでエンジンをかけた。
「最速で行く。」
そして、レバーをぐいっと一番上まで上げた。
遠ざかってゆく城を、感慨深く眺めると、――城からは、煙が上がっていた。
「あれは、――なに?」
その問いに、答えが返ってくることはなかった。
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