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船長、陸が見えましたっ!  作者: えくれあ。
新大陸、データンライヒ帝国編
28/32

船員さんの大脱出。

更新遅くなり本っっっっっ当に申し訳ありません。こんなえくれあの作品を読んでくださる方は、聖人君子です。本当にありがとうございます。

「もうすぐ出発だぞ、荷造りしとけよー。」


コアンは、その日の夜九時ごろ、言った。


「いいか、ここのコインは意地でも一枚、持って帰るんだぞ。帰ったところで、嘘だろうと言われれば終わりだからな。」


ミガンは、嫌なことを思い出したかのように顔をゆがめている。


「けっ、失脚すればいいのよ、あんな奴ら。」


既に荷造りは終わっているが、コアンは念を押すように言った。


「もし万が一、海に落ちたりしたら迷わずに残りの金貨を捨てるんだぞ。」


ニーナは金貨を一枚だけ、服の内側に縫い付けてくれている。


「よっしゃ、全員オッケーか?」


「はーい!」


威勢良く返事して、気持ちよく眠りについた。


明日は私たちだけでまた出港する。ついてくるなと言ったのは、ヌシのいない場所を知られたくなかったからだ。


真っ暗な世界に、私はいた。

なんだか背中が不安定だ。

ゆらゆらと船の上にいるように揺れている。

かぶっていたはずの布団もなく、寒いような気がする。

ああ、夢だ。これはすべて夢なんだ。

眠ってしまえ、そして違う夢をみよう。

私は安心してもう一度眠気に意識を委ねようとしていた。


そのとき、遠くから声が聞こえた。

めろ!放せ!やめろ!放せってば!

とてつもなく怒りを秘めたその声に、聞き覚えがあるような気がして、目を開けようとしたが、すでに意識は眠りへと引き込まれていった。


どんっ!


背中に鈍い痛みが走った。


どさ、どさささっ。


立て続けにその音がしたかと思うと、かしゃんという金属質な音がして、足音が去っていった。


「ん……んぐっ?」


声が出せない。さるぐつわだ。体中を縄が縛っている。


誘拐。――監禁。


その二文字が、頭に浮かんだ瞬間私は即座に縄抜けの体制をとっていた。


床に縄をこすりつけて、右肩を上げて、左肩を上げる。


手首まで縄が下りてきて、しゅるっと取れた。


さるぐつわを外すと、呼びかける。


「みんな、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。抵抗したから、縄はアディナより抜けやすかったよ。」


コアンがぱんぱんと体全体を払いながら、オルカットの縄をほどいている。


「ミガン、ニーナ!起きて。起きて。」


「んぐうっ!んんー、んんー!!」


二人は体が動かないことに気付いて目を見開く。


「ちょっと待ってね。」


縄を手首まで下げて、みんなを開放する。


「ぷはぁっ!ここはどこなの!?」


「しっ。大きな声を出すな。状況を整理しよう。」


コアンはちゃっと人差し指を口につけて、静かにしろのポーズ。


「いいか、夜に城門を抜ければ衛兵につかまる。だからここは城の中だ。そして、俺はだいぶ派手に叫んだ。誰も来ないのはおかしい。だから、これは城中の奴らを黙らせられる権力を持つもの。」


コアンが的確にポイントをつく。


思わずといった様に、ニーナが口を押える。


「じゃあ、これはまさか—―」


「そうだ。――まず九割、国王陛下の仕業だろうな。」


イウクフにあんなことを言われた事の次にむかつくわね。


「そんな、ロゼ――!」


ニーナが鉄格子に取りすがって、力いっぱい引っ張るが、もちろん破れるわけはない。


「錠があるわ。ピッキングすれば――。」


コアンは力なく首を振る。


「だめだ。よく見ろ。見たことのない錠だ。おそらく最新技術で、ピッキング防止してあるだろうな。」


万事休す!


その時、暗い室内に知らない声が響いた。


「おい、異国の船長。お困りのようだな?」


月明かりに照らされて、白髪の研究者然とした老人が立っていた。


異国の船長――って、コアン?


「あんたか――。何しに来たんだ?」


研究者のような老人は、肩をすくめる。


「何しに来たんだとは、ご挨拶だな。助けに来てやったにきまってるだろ?」


そういうと、にやりと笑う。


ポケットから、知らない器具を二つ取り出して、鍵穴に突っ込み、何やらねじねじといじくっている。


「やめとけよ、最新技術なんじゃないのか?」


「は、は、は。任せとけ、最新技術には最新技術だ。」


かちゃり。


音を立てて錠が外れ、扉が開いた。


「ほら、でろでろ。荷物はここにある。」


すっと右手で五つのリュックを掲げると、ぽうんと放った。


「裏道から行くぞ。――ここにはいろんな裏道があるんでね。」


「こんなことしていいのか!?あんたの地位はどうなるんだよ。」


コアンが食って掛かるが、もうすでに牢屋から出ているから意味がない。


「はっ。こんな王のところで働く意味もないね。いままでここにいたのは密偵の意味もあったのさ。」


「ロゼ!?まさか、そうなの……?」


ニーナが再び知らない名を叫んで、口を押える。


「お前、どうしてそれを知ってるんだ?どこで知ったか知らないが、そうだ。今日が決起の日――。王には、今日を境に罪人となってもらうんだ。」


ちょっとびっくりしたように、研究者さんが言った。


「ま、大丈夫さ、君らは心配すんな。」


研究者さんは、地下への階段を降りると、右に3回曲がって、左に4回曲がって、――いろいろあった後に、地上への階段を示してくれた。


「いいか、私はここまでしかこれない。――だが、心配するな。」


ニーナ以外全員が頷いた。


「あなた、ロゼを知ってるの!?じゃあ、言づけて。――無理しないでね、って。」


「承知した。」


闇の中に、研究者の姿が消えると、コアンはたったっと階段を駆け上がる。


「走るぞ。――いつ船が燃やされるか分からん。地下通路のおかげでいくらか速く着いたが、それでも時間がない。全力ダッシュだ。」


そういうと、再びコアンは階段を一段飛ばしで駆け上がった。


夜の街に五人分の足音が、響いた。


『何もない』ビーチに着くと、そのままの姿でスキードブラトニル号はたたずんでいた。


「乗るぞ、急げ。」


階段をハッチから降ろすと、そのまま駆け上がる。


船の明かりに火をともして、コアンは大急ぎでエンジンをかけた。


「最速で行く。」


そして、レバーをぐいっと一番上まで上げた。


遠ざかってゆく城を、感慨深く眺めると、――城からは、煙が上がっていた。


「あれは、――なに?」


その問いに、答えが返ってくることはなかった。


読んでくださりありがとうございます。良ければ評価、ブクマお願いします。

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