ニーナの恋【3】
さー、ニーナさんの恋の結末は!?どうなるんだろう。(笑)
二人っきり、かあ。んじゃあ、ついでにうちのカップルどうし、一緒にしちゃおっかなー!
ふふふ。ミガンが明日楽しみだね、なんていうから想像しちゃったじゃない!
あははは、ひーひっひひ。
面白!
でもそうやって軽口をたたいていても、思い出すのはあの人のこと。
ロゼさん――。
そんなふうに思いを伝えようとしてるみんながまぶしい……。そもそも会えないなんて、寂しすぎるよ。
今夜は、ロゼさんのことを思って、寝よう。
さて、と。計画スタート!
「ミガン、あそこの雑貨屋さんかわいくなーい?おすすめだよ!」
アディナには、ミガンとオルカットを二人っきりにさせたいからわざとはぐれるようにいってある。
「あ、ほんとかわいー!いいね、これ!」
一人できゃいきゃいしながら雑貨屋さんに夢中になるミガン。うん、かわいい。
「ねえオルカット、あそこのネックレスなんか、」
ん?と耳を寄せたオルカットの耳に、そっとささやく。
「ミガン好みだよ?」
オルカットは、目を見開くと、財布の中身を確認しながらショーウィンドウに張り付いた。
「さんきゅ、ニーナ!」
まあ、あそこの宝石は多分無理だろうなー……。
よし、準備完了!
「行こ―!」
私はコアンとアディナと共に反対方向へ。
そして、二人が盛り上がりそうな話題をあらかじめ考えてある。
「ねえねえ、この国ってやっぱり格差、あると思う?」
そう話しかけると、
「あると思う!なんかさ、こういうところで隠されてる貧しさが、結構怪しいと思うんだ。」
屋根のほころびを指さしながら、聞かれない自国語で話すアディナ。
「そうだな……わざわざ見学して来い、なんて陛下が言うってのもおかしいもんな。でも待てよ、ってことはそれだけ格差のなさに自信があるってことだぞ?」
「いやいや、かくすのに自信があるんだよきっと。」
あーでもないこーでもないとかってにしゃべりながら歩いていく二人を見送って、わき道にそれる。そこから何個か角を曲がって、もう大丈夫というところまで行くと、探しておいた本屋へ向かうことにした。
あーあ、やっぱり私、ひとりぼっち。
『僕は、本が好きだ。』
「会えないかなー……ロゼさん――」
声に出して呟いてみる。
「会えるよ?」
ひょっこりと本屋から顔を出したのは、――ロゼ。彼だった。
「わあああ!って、なんでこんなところに――!いやそれ以前に、あなた誰――!」
私は混乱して変なことを口走る。
「あはは。僕は本が好きだと言ったろ?」
そうか。あれは、次いつ会える、という問いへの答えだったんだ。
彼はいたずらっぽく笑った。
「そこの、カフェでも行こうか?ふふ。そうだね、この本なんかデータンライヒ文学の最高峰だよ?読みながら話そうよ。」
派手なポップの付いた本を彼は指さす。
私には、何と書いてあるのかさっぱりわからない。
でも、私はこれじゃなくて。
「私はロゼの国の文学が読みたいな。」
本屋の中に入ると、ロゼをじっと見る。
「そうか、僕の国――」
ふいに悲しそうな顔になったロゼは、一冊の本をレジへもっていった。
ちゃりーん、と音を立てて金貨をレジに落とす。
「ちょ、払うって――」
ロゼはすっとお釣りを受け取ると、にっこり笑った。
その顔には、決意が満ちていて、思わず目を見開いてしまったの。
「うん、君になら、話したい――」
言われるままカフェに入って、本の中を見ると、作者の写真が載っていた。
そこにあったのは、――エルフの写真だった。
彼は、ゆっくりと髪の毛に手をかけて、豊かな金髪をぐいっと引っ張った。
肩まである金髪が、ふわりと上に上がると、細長い耳があらわになった。
「僕は、エルフだ――。」
確かに、金髪碧眼はエルフによくみられる特徴だ。でも、だからといって人間にいないわけではないから、エルフだとは少しも思っていなかった。
「なぜ、僕があの舞踏会にいたのか。どうして、留学していたのか――。今なら、すべてを話せる。聞いてくれ。」
ロゼは、ゆっくりと話し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕の本当の名前は、ローゼンタール・ロイロット。小さな村の、族長の孫だった。
ロイロット家は、エルフの中でも聖三家に入る。崇高な家柄で、厳格な家風で、知られていた。
時は、二十年、いや、それより前だろうか。だいぶさかのぼって話をする。
ある日、僕の母がまだ娘だったころ――。
野原で草を積んでいた母は、向こうからやってくる美しい白馬と、それに乗る王子様を、見つけたんだ。
始めは、話しかけたりするつもりはかけらもなくって、ただじいっと見ていたんだ。
エルフ領と、人里は離れているから、普段はめったに会うことはない。でも、言葉は同じものを使うから、コンタクトをとれないわけじゃなかった。
母は、珍しかったんだろう、草に隠れて少し、近づいてみたんだ。
王子は、馬から降りたところだった。
「綺麗――」
思わず一つ、そう漏らすと、王子がこちらを向いたそうだ。
「そこの――エルフ。少し、話をしないか?」
見えていたの――?
母は、顔を真っ赤にしながら王子のところへ行ったそうだ。
顔がほてって、これが恋なのかな、と思ったそうだ。エルフの婚約者もいたけれど、全然それとは違った、と言っていた。
「おそ、れ、多い……。」
母は、目を伏せて立ち上がった。でも王子は、母の顎に手をかけて、母の顔をじっくりと見た。
もう母は緊張して、緊張してそれこそ、イチコロだったらしい。
「おう、じ、で、んか……?」
「私は、そなたに恋をした。よければ、付き合わないか。」
あってものの三秒で、王子は母に告白した。
それは、禁断の恋だったんだ。
そういうと、安っぽい小説みたいに聞こえるかもしれない。けれど、母は止められなかった。
「私には、そなたしかおらぬ。けれど、けれど――私には、婚約者が出来てしまったのだ。すまない、本当にすまない。でも、分かれるしか、道は、ないのだ――」
付き合いを初めて五年後に、突然に王子は言った。
でも、母のお腹にはもう、新しい命が宿っていたのだ。
なおも王子は自分のことをたくさん話したらしい。
「私は、将来王になる身なのだ。そなたのような、異種族のものと付き合っていては、すぐに弾圧されてしまうのだ。だから、頼む。身を引いてくれ――」
その、異種族、という言い方に悪意があったのを、少し後になって母は気付いたらしい。
でも、何も気付かず母は、
「私のお腹にはもう、赤ちゃんがいるの。もう遅いのよ、ひどいですわ、責任をとってください!」
王子は、突然に無表情になったそうだ。
「ふん、そんなもの知るか。それは私の子ではない。証拠でもあるのか?――おい、連れていけ。」
王子は、控えていた兵士に母を引っ張らせて、初めて会った草原まで連れていかれたそうだ。
読んでくださりありがとうございます。良ければ評価、ブクマお願いします。




