ミガンの恋(2)
次はニーナだー!ちゃんとストーリーも絡めていきますので、ご安心を!
「ついた~!!」
数分走った先には、こぎれいなカフェがあった。
見晴らしのいい丘の上に立っていて、町が一望できる。
「わー……」
思わず一つ、声をもらす。
「へっへーん。穴場だろ?」
そういってオルカットが鼻の下を人差し指ですりすり。どや顔やめい。
店内は人のよさそうなおじいさんが一人いて、お客さんと話していた。
「いらっしゃい!」
親しげに言われて戸惑ったものの、愛想よく。
「こんにちは。」
と返しておいた。
人のいない隅っこの方に座ると、オルカットが私のめをじぃっとのぞき込んできた。
「なっ、何よ。」
顔を背けて言った。何が面白くて私をガン見するんだ。
その瞬間。
大きな手がこちらに伸びてくる。オルカットの手が、私の頬に触れて、そのままぐいっとオルカットの方を無理矢理向かせる。一瞬にして頬に血が上る。
「それは」
いつになく低い声でオルカットが言う。
「こっちの台詞」
え、ええ??なに、やだ……
またさっきのように手を振り払いそうになって、ぐっと抑える。これじゃ、また同じことの繰り返し。
「なんでそんなに悩みありげな顔してんだよ。らしくないぞ。」
え!?私そんな顔してたっけ!?
「あのなー、何年の付き合いだと思ってんだ?分からないとでも思ったのか?」
あ……。またこの感じだ。
普段は見せない、オルカットの表情。なんでも見通してしまいそうなひとみ。
昔からずっとそうだった……。
それを思い出した瞬間、私の中で何かが切れた。
「素直になれない自分が嫌いなのよっ――」
感謝しようとして、傷つけて。気付けば友達もいなくて。
高慢ちきな奴だと思われて。勝手に嫉妬されて。
それが、今一番いやになった。好きな人がいたって、ろくに告白なんかできない。絶対に無理だ。好きなのに、傷つけて、それに気づかなくって。
今、一番分かった。素直に自分の気持ちを、心を言えるみんなが、羨ましい。天邪鬼、って自分でもわかってる――でも、やめられない。
あれは、私がまだ普通の学校に通っていたころだった。ニーナやアディナ、オルカットとはクラスが分かれ、新しい友達が2、3人できたころ。
「好きです!」
「ごめんなさい。」
顔しか知らないクラスメートに告白された――。
後から聞いたところ、その人はクラスでもモテモテの奴だったらしい。
当然断った。別に好きな人もいなかったけど、この人とは一緒になれない、となんとなく思ったからだ。それに、なんとなくあって数週間で告白できるような人間は根本的に合わないと思う。
そんなもの、普通断られるだろうに、なんということでしょう、そいつは私の悪いうわさを流したのでした。あーあー……はあ。
それを聞いた私の友達が暴走した。
曰く、なんであんたが私の彼を!私の方が好きだったのに!友達の好きな人を盗った!ひどい女だ!!らしい。
そこから私はクラスで孤立させられた。
いじめみたいだったと思う。
それに私は、真っ向から反抗した。
何も悪いことをしていないのに、なぜ私がいじめられなければならないのか。
いじめの証拠を集め、先生に提出した。
学年総会で、急に手を上げて、こういった。
「私はいじめられています!証拠はあります。しかるべき処分をしてください!」
そのことに対して、暴力を振るってきた女子がいた。
私は思いっきり戦った。そりゃもう、ひどいもんだった。
感情の抑制ができなくて、自分が自分じゃないみたいになって。
結果、私が補導された。
後から聞いたところ、その女子は有名ないい家の出身だったらしい。
彼女から仕掛けてきたという事実は握りつぶされて、私は圧倒的に不利な立場に立たされた。
机に落書きされた時、私はにやにやと笑っている彼女らに、私は満面の笑みで殺意を返した。本当
にあんなに顔をゆがめたのは、初めてだったと思う。
机に落書きされた内容は、そりゃもうひどいもんだった。
八股してるだとか、彼氏はいないのに友達の彼氏を奪ってるとか。
気づいたら、学校を卒業するまでずうっとそんな感じだった。
そんなとき、助けてくれた人がいた。
「いいじゃん、いじめられたって。ミガンはミガンなんだからさ。」
にっこりと笑って、ぽんっとかたに手を置いて、頼もし気に笑って彼女らのいじめを跳ね返してくれたその手を――
私は振り払ってしまった。
やめてよ――。ひとりで大丈夫――触らないで!
今思い返しても、激しい自己憎悪が心に渦巻く。
感謝したかったはずなのに。
本当に、助かったはずなのに。
そして、その人は、去ってしまった。悲しそうな顔をして。
こんな自分が、嫌いだ――――――
それ以降、私は泣かないようになった。
何をされようと、与えられた課題を淡々とこなす。
「感情がない、なんて言われたこともあったわ……こんな自分、変えたいのにね。」
私は力なく笑った。
こんな、弱さを、オルカットにだけは見せたくなかったな――――。
「え?」
オルカットがきょとんとしている。
え?
「そんなところも、いいと思うけどな……」
え?
かああああーっ。
思わず頬が熱くなるのを感じる。今日何度目だろう?
ソンナトコロモ、イイトオモウケドナ。
不思議と嫌な感じはしなかった。
いままで嫌われ続けていたこんな私を、真っ向から『いい』と言ってくれたのは、オルカットが初めてだ。
「だって、自分の感情を出せなくたって、ちゃんとミガンは感謝してるし、そんな自分を変えたい、って思ってるんだろ。それに気づかない方が、俺はひどいと思う。それに、感情がない?しっかりしてるだけじゃないか。ひがまれてるだけだよ。」
驚きと、嬉しさで、呆然とする私に。
「つか、悩みってそれ?」
それ以外に何がありましょうか。あはは。数年来の悩みとはこのことですよ。はあ。
もうだいぶ昔からこの悩みだよ。
ほーーっっとオルカットが息をつく。
「何、どしたの?」
「その、恋愛……の悩みかと。」
はぁ??それってどういう……
「コアンが、アディナと付き合うことになったから、……その。」
それで何で私が悩むんだろう?むしろ祝福なんだけど。
「その、ミガンはコアンのことが好きなんじゃ……ないよな?」
ぶふーーーっ!
思わず吹き出してしまった。
「なんでよ!そんなわけないじゃない!」
でも、オルカットの瞳の光を見てはっとする。その目は、確かに“私”に向けられていた。
他の誰のことを考えているのでもない。“私”を見ている。
「俺さ、実は、ミガンのことが……」
自分の瞳孔が開く。
オルカットの口が、縦になり、横になり、大きく開く。
ゆっくりと、刻むように。
「好きだ」
オルカットの気持ち――。確かに、受け取った。
不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
オルカットとなら、やっていける気がする。
きっと、好き同士で、やっていける――。
ぼそりと、本当に小さな声で。
「いいよ。付きあお。」
「まじで!?ほんとに!?ドッキリとかじゃない!?」
オルカットが身を乗り出した後、くうーっっと唇をかみしめた。
「やった……今、人生で一番うれしいかも……」
ふふっ。オルカットを見てると、なんだかおもしろくなってきちゃった。
「それはプロポーズ成功の時にとっといた方がいいんじゃない?」
「え、それってどういう「とにかく、これはみんなには秘密だからね?言ったら別れるから!」
「ええ……分かったよ……」
どうだか。ぜぇったい自慢するつもりだったろ。
「すみませーん、ワイン!」
オルカットがワインを頼んで、乾杯。
今日が私の、かけがえのない記念日だ。誕生日よりも、何よりも大切な、記念日――。
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