船員さんの二日目です!
ゆっくり、歩く。しずしずと。
おしとやかに、失礼にならないように。
でも、小声で耳打ち。
「コアン、曲。……わかんないよ……。」
エスコートするコアンは、肩があがって、緊張でがちがちだ。
そりゃ私だって、国賓として出る舞踏会なんか初めてに決まってる。ああ、貴族の皆さんの視線が痛いです……。
「ワン!トゥー!ワントゥースリッ」
音楽隊が演奏を始め、まわりの美男美女が一斉にくるくると回り始める。
コアンが私の手を握る力が強くなる。
「心配すんな。俺がリードするよ。」
右。左。右、左からの右。前からの横、それから後ろ。ここでターンっ!
「あ!」
長いドレスの裾を踏んでつんのめりそうになった時、コアンがさりげなく手を回してダンスの一部のようにしてくれた。
「ごめん」
小声で謝ると、二人でにっこりと笑った。
5曲ほど踊っただろうか。
コアンの顔を見ながらしていたら、一瞬で時間が過ぎるみたいだ。
「――これにて、閉会とさせていただきます。」
人の波が一斉に出口へと向かう。
「わわ!」
私はこういうのはあとから行く派。
「あ、ニーナ!」
ニーナがたたずんでいた。
「こっちこっち!」
手を引っ張ると、なんだかニーナの顔が赤い。
「イケメンでもいた?」
冗談めかしてそういってみると、こくりとうなずくではないか。
まあそりゃ、まわり全員イケメンやったけど。
「あ、ミガーン!一緒に帰ろ!」
見るとミガンまで恥ずかしそうにオルカットのズボンのすそをつかんでいる。
いーなー、スキンシップ!あれ、厳密には違う?
ってか、舞踏会って、思ってたより疲れる……?
廊下で別れて、ベッドに倒れこむ。
一瞬そのまま眠りこみそうになってしまったが、こらえてお風呂に入り、パジャマになってから寝ることにした。
「おはようございます皆様。それでは、今日の朝食はお部屋でお食べ下さいませ。」
綺麗な声のモーニングコールで起こされた。やれやれ。
本当においしそうな、目玉焼き……。
さて、今日することと言えば、……特に何もないね。
「うーん……」
着替えがないかなとクローゼットを物色。
「あっ、これいい!」
さわやかなパールブルーのワンピース。
手染めの用で、ところどころ綺麗な紫がまざってる。
あー、素敵。
ところで、ニーナとミガンは、この広いお部屋の別のベッド、別のクローゼットで着替えをしているはずだ。
ちなみにクローゼットはウォークイン。ありえないぐらい金持ちだね、この国。
こんこん、と誰かがドアをたたく。
ちょうど着替え終わった私は、はーいと返事する。
「コアン様からの伝言です。至急ロビーに来てほしい、とのことです。」
へえ。
「ミガン、ニーナ!ちょっとロビー行ってくるね!」
私はかちゃり、と扉を開けると、ロビーに向かって走り出した。
「あ、コアン!」
「お、アディナ。今から話すことをみんなに伝えてくれ。」
ちょっと弾んだその声は、とても楽しそうだ。
「あのな、今日、陛下がお金を下さって、好きなところへ行くといい、だって。それから、明日も、明後日もいいそうだ。ここと貿易するか、城下町を見てから考えてくれ、ってな。」
「ふうん、気前がいいのね。」
ここには、何かある――。
長くこの船の頭脳としてやってきたアディナは、すこしきな臭いものを感じました。
その言葉の裏に隠されたものを敏感に感じ取ったのか、コアンは笑顔で言いました。
「裏があるなら、その裏を見抜くだけだ。」
うん、探偵ものになってきてるね。ってか笑顔で言うセリフじゃないし。
でも。
「気を付けてね、いい、まわりをしっかり観察してよ?」
ぽん、とコアンの肩をたたくと、私は部屋へ戻ることにした。
やっぱり、ここには何かあるんだ。
優しくてイケメンな国王、一見平和に見える国々。
でも、ここにきて日の浅い私たちをだますことなんか容易いだろう。
「わ!」
考えながら歩いていたら、誰かにぶつかった。
「す、すいません!!」
慌てて謝ると、異種族らしい見慣れぬ衣をまとったその人は、まぎれもなくエルフだった。
長い、ひとつながりの衣をまとい、頭には冠らしき羽飾りが載っている。
切れ長の目に、シャープな輪郭、すっと伸びる鼻。いずれも国王とは正反対だ。
こつり、と音を立てて、その人は振り返った。
「ん、……ノンナン……向こうの国、……言葉、か……」
ぼそり、となにかつぶやいたようだが、アディナの耳には届かなかった。
「失敬。でも気を付けるんだ。ここの国との貿易は、慎重に考えるんだよ。」
「え、あ、はあ……」
私たちの言葉!?
エルフ。……何かある!
私の中の違和感は、強くなった。
かつーん、かつーん。
特徴的な、大きな靴音は遠ざかり、王の間へと向かっていった。
大丈夫、しっかり考える。私たちの国は、いま私たちの判断に任されてるんだから。
部屋のドアを開けると、見慣れない金庫が私たちのベッドの横にあった。
「あの、ニーナ、これは……?」
奥の部屋からぴょこっとミガンが顔を出して、にっこり笑った。
「あのね、内線でコアンが言ってくれたんだけど、この金庫は国王が貸し出してくれて、中のお金は観光に使っていいらしいわ。」
へえー。って、だめ!借りを作るのは、絶対ダメ。と言おうとしたんだけど、ニーナに先を越された。
「いい、このお金を使うってことはこの国に借りを作る、ってことよ。私たちの行動は国単位で影響するんだからね。分かる?」
「あのね、あたしだってバカじゃないの。それぐらいわかるわ。だから、こういう時は、私たちの国のお金がどの程度の価値なのか。それを見極めるのが大切なんじゃなくて?」
ミガンが腕を組んで反論する。
「私たちは今お金を持ってないわ。この国が味方しているのは、ひとえに貿易の可能性。こっちから私たちの国には来れるけど、私たちの国からこっちには行けないし、こっちの人は無駄に私たちの方へは来ない。わかるでしょう。貿易するとき、少しでも有利になれるようにしてるのよ!どちらの国にせよ、始めが肝心なのよ。」
ふーむ。どうやらニーナの方が上手だねー!
ま、この不安についてはいくらか分かってる。そのためには、船長さんがはたして機転を利かせているかどうか。
私は、確認すべく隣の客室へと歩いた。
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