船員さんは出港します!
ご都合主義っぽいかな?まあ気にせずにお楽しみください!
「何!?」
ニーナのおびえた声が聞こえる。
「甲板へ出ろ!」
同じだ――あの時と。
甲板へ出ると、船が島から遠ざかっていた。
何ってことだ!どうしてこんなことに……
「――エンジンの誤作動かもしれない。」
コアンが深刻な表情で言った。
「え?」
そんな誤作動あるの?
「わからない。とにかく見てくる!」
「おい待てよコアン!それはないはずだぜ、オレがさっき手動モードに切り替えたからな。」
オルカットが襟首をつかむ。
「そうなのか?ならやっぱり何かあったとしか考えられない!」
コアンが再度駆け出す。
オルカットもあわてて後を追う。
「えー、ちょっと!」
私たち女子も急いで追いかける。
「やっぱりだ……」
エンジンが、自動制御、「発進」モードになっていた。
「念のため聞くが……このモードにした人なんていないよな?」
コアンがみんなを見回しながら言った。
「当たり前じゃない!さっきまで昼食食べてたのよ。」
それもそうだ。私たち全員にアリバイがある。なんだか、急に探偵ものになりそうな雰囲気だ。
「外部からだれか、何かが侵入したという可能性は……限りなく零に近いな。」
コアンがうーむとうなった。
「待てよ、ここの配線、こんぐらがってるぞ。」
さっきから無言で回線のチェックをしていたオルカットが、はーいと手を上げて言う。
「ん?本当だ。これじゃ、手動モードにしたら、自動運転になってしまう。しかも、エンジンを開始させるまでに時間差のあるタイマーモードになってたようだ。」
よくそんな偶然なこと起きたわね。なんてことよ。まったく。まあ水につかった状態から、エンジンを復活させるのが至難の業だということは分かっているから、オルカット一人を責められない。っていうかそのモードほんとダレトクよ。
「悪ぃ、みんな、迷惑かけちまった。」
素直にオルカットが謝る。いつもふざけている彼だが、いつも悪いと思った時はきちんと謝るのが彼のいいところだ。
「いや、エンジンの修理をきちんとできなかったオレが悪いよ。ごめん、みんな。」
オルカットに続いてコアンまで頭を下げた。
「ちょっとコアン、こいつが謝んのは当たり前だけどさ、コアンは悪くないよ。」
「ふごっ。」
ミガンが頭を下げているオルカットのその頭を、ぐいっと押し下げる。オルカットが妙な声を上げた。
「まあ別にいいんじゃない?食料も積んであるし。」
ニーナがほけーっとした顔で言う。
みんなの楽観的な主張に、二人がほっと顔を上げる。まあ責任感はあるだろう。
「おっと、回線、戻しとかなくちゃな。」
オルカットがひょいと回線をいじると、船の振動が止まった。
「手動モードになったな。では遅ればせな がら、各自、持ち場につけ!出港!」
「イエッサー!」
いつもの台詞を船長が言う。なんとなく安心した。
「はあ。コアン船長、このままここで運転 しますか?」
「おう!じゃ、ヌシに遭遇するまでの時間
を割り出しといてくれ!」
船長が明るく答える。
いつも使う据え置きコンピューターは、……当たり前のことながら壊れている。そりゃあんだけ水につかったら無理だな。
ヌシのことをまとめたノートを取り出す。
「よし、ここで筆算しよう。船の速度は船長!」
「時速六十ミール!」
舵を切りながら船長が言う。
「航路は?」
私が書きとめて聞くと、短い返事。
「勝手に決めてくれ!」
はいはい。ちょっとは見りゃいいのに。地図に鉛筆で線を引く。
距離割る六十は、八十四。八十四時間は、約三日半。
「三日半よ、船長。航路はここから、ここ、でここ。」
地図を見せながらとんとんと説明する。
「じゃ速度固定運転で。」
航路の部分をこくなぞってある地図を、横にあるクリップボードに止める。本来ならばコンピューターに入力するのだが。航路はもちろん最短距離だ。早く終わらせたいような、まだ行きたくないような。なんだろう、卒業式みたいな感覚かな?
「時速六十ミール、ヌシ圏内まで約三日間半」
船長が脳内のコンピュータに刻み付ける。
「この数値をみんなに伝えてくれ。」
コアンがさっという。もう、全部私に任せっきりじゃない。船内放送のマイクを取る。
「時速六十ミールで走行中、ヌシと遭遇する可能性のある場所まであと三日間半。」
私の声が船中に響く。
コアンが私に親指を突き出した。
そのしぐさは、妙に決まっていて、私は気恥ずかしさを紛らわすためにぐっと親指を突き出して応えた。
その日の夕食。
「明日は、作戦のために。まず予備も含めて湿っていない火薬を頑張って探す。なけば乾燥させる。余裕が出来れば、船を止めて泳ぎと飛び込みの練習をしよう。」
船長がびしっと全員を指さして言った。
「イエッサー!」
私は嬉しくなっていった。コアンが段取りをきっちりと決めていくのはいつものことだけど、逆境下においてはそれがとっても心強い。
食堂で解散した後は、自由時間になっていた。
明日のために、早く寝よう。そう思ったのだけれど。
「寝れない……」
なんで?もうすぐ決戦の日だから?それとも私、緊張してる?もう、ここに来てから調子狂うよ……。
今まで一度だってそんなことなかったのに。私は寝つきがよくて、枕が変わろうが、すぐ近くで楽器を演奏されようがすぐ眠れた。
もちろん緊張したこともほぼなかった。……コンクールなどの面では。
「はああ。」
眼を閉じて、寝ようと試みるが。
「寝れないぃぃっ!」
寝れないという感覚を味わったのは、人生で数回しかないってのに。
仕方なく、体を起こす。船の上だし、夜風、浴びれないことはないけど、みんなを起こしちゃうかもな。
ふと横を見ると、ヌシのことをまとめたノートがあった。ぱらりとそれをめくる。
「本当にこの作戦でいいのかな。」
コアンの立てた作戦は、分かりやすく簡潔、それに上手くいきそうな感じもする。
「でも。」
口の内側で小さくつぶやく。私には、一抹の不安があった。単純明快で簡潔。そのせいで、いや、だからこそ、
「過去にはしなかったのかな?」
今これだけのデータがあって、そこから導き出される最良の方法はまさにコアンの考えたそれだ。でも、今簡単に私たちが思いついた答えは、先人たちもきっとその結論に至っているはずだ。
「なら、……なんで?」
何か、失敗する要因があったのかもしれない。
そのことが、私の心の中で重くのしかかっていた。コアンの言葉に納得はしたものの、コアンが死んでしまうかもしれない可能性を考えると、どうしても冷静になれない。
今は、ヌシに関する資料もほとんど濡れてしまって、読み取ることさえ困難だ。開こうとしたとたんに破れるような状態の物ばかり。
「あぁ~もうっ!」
寝ぐせのややついた真っ黒な髪の毛をかき回して叫んだあと、我に返って口を押えてしまう。
結局、まだ明日のことではないからと自分を無理に安心させて寝ることにした。
不測の事態、というものは必ずあることを、初めてのヌシとの遭遇でまなんだんじゃないのかと警告する声もあったが、無理矢理蓋をして、私は偽物の安心に浸って眠った。
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