船員さんの秘密の夜。
今回はシリアスなシーンがめっちゃ多いです。ってかそれしかありません。
ちょっと書いてて恥ずかしかったです(笑)
更新が遅くなってすみません。これからすこし忙しくなるので、更新のペースは遅くなると思います。
でも、これからも温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
しゃこしゃこ。
掃除している間も、辺りが暗くなって、グルグル回っているかのようだった。
……ショックだった。矛盾しているかもしれないが、ショックなどという言葉では言い表せないほどに。
そんなに簡単に命を投げ出していいの?
いつまでも仲間だと思っていたのに。
大切なものがあるんでしょ?
いくらこの旅に出たときから覚悟が出来ていたとはいえ、そんなに簡単に命の覚悟は付けられない。
私だってそう。未だに命の覚悟はつかない。
いつの間にか数時間が過ぎていた。物が散乱した部屋は、清潔な美しい部屋に姿を変えた。もっともそれは内面だけで、エンジンは未だに壊れているが。
ぼーっとしたまま食べた夜ご飯は、ほとんど味がしなかった。
「ちょっとアディナ、大丈夫!?」
ニーナが心配そうに顔をのぞき込む。
ベッドに入っても、悶々といろいろ考えてしまって、寝付けなかった。
周りのみんなが次々と寝ていく中、私だけが起きている。
「なんだか、目が冴えちゃったな……」
何とか寝てみようとするのだが、どうしても寝付けない。
「夜の散歩でも行くか……」
本当は危ないからという理由で、一人で出歩いてはいけないとみんなで決めたのだが、そんなことを思いやる余裕はなかった。
ふらふらと入り口まで歩く。
たった数分のはずの道のりが、ずいぶん長く感じる。
ぱっと月光が目に飛び込んでくる。
「綺麗な月……」
思わずつぶやく。ここでは、何もかもが特別だ。
足が勝手に森の方へと歩く。森は危険だとか思いやる余裕もなく放心状態のまま歩くと倒木が見えてきた。
「昨日……ここでコアンがウクレレを弾いてたっけ。」
否応なく思い出してしまった。コアンの恥ずかしそうな笑顔。ウクレレを弾く時の楽しそうな顔。アルカーナさんの海の歌って曲のメロディー。港町の潮騒。コアンの、涙ーー。
いろんなものがこみあげてきて、思わず倒木に取りすがる。
泣いちゃ……だめ……みんなが、心配。大切な、大切な……
「うっ」
でも、やっぱり涙は止まらなかった。頬を伝って、涙が落ちる。
「うっ……ああああっ……うええん……」
私は、泣いた。倒木に取りすがって、ひたすら泣いた。遠い記憶の中のコアン、砂場で遊んだコアン。私が怖がってたら、前に立ってかばってくれたコアン。
全部、全部。
「死んだら、消えちゃうんだよ……」
また涙が込み上げてきた。
私にとってコアンが、それほど大事な存在なんだ……ぼんやりした、『好き』が、私の心の中でむくむくとはっきりしたものになってゆく。
そうか。前からずぅっと、感じてた気持ちは、『好き』だったんだ。
ああ、あの時。誰がパンチをしに行くかという時。コアンが名乗りを上げる前に、私が手を上げればよかったなあ……大切な人が、目の前で死んでしまうのを見て、自分は逃げて助かるなんて、そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。
「いやだ……」
だめだ。本格的に涙腺が崩壊してしまう。
「コアンが死んだら。私も一緒に死ぬ!」
しゃくりあげながら、私のたった一つの選択肢を叫ぶ。もう、何も考えられなかった。
コアンのいない世界で……私は、生きていけない。せめて……天国で会おうよ……。
「やめてくれ、アディナ。」
ひゅうと自分が息をのむのが、他人事のように分かった。もう声だけで……わかる。ゆっくりと首を後ろに向けて、それを見る。
「やめて、くれ……」
「コ、ア、ン?ひっく……」
目の前にいる人影の存在が、信じられない。でも、どれだけ驚いたって、涙は止まらなかった。
「そっか、夢……」
わたし、泣き寝入りしたんだ。
「夢じゃない!夢じゃない、アディナ!俺だ!コアンだ!」
「コアン……」
コアン……何で……何で?なんで?疑問が私の中であふれる。今までずっと考えていたこと。聞きたいことをそのままに、全部、全部吐き出してしまう。
「なんで自分から命を投げ出すようなこと したの!?私とか……残された人の気持ちは考えなかったの!?ひどいよ、こんなの ……ずっと一緒にいたいよ……」
「落ち着け、アディナ!」
「無理だよ、落ち着けないよ。死んじゃうかもしれないんだよ!私は、私は……」
「俺だって!」
眼に涙をいっぱい溜めて叫ぶコアンの迫力に、圧倒された。思わずといった様に涙が止まる。
「俺だって……誰かが、命を懸けているのを、ただ安全なところから見守るなんてで きないよ。仲間を差し出して、自分だけ助かるなんて。だから……さ……」
「!」
はっと息が止まる思いだった。あの時。あの朝……コアンは確かにそういった。仲間と……自分。天秤にかけたら、いつでも仲間を大切にする人なんだ……コアンは。
「だから、だから死ぬなんて、言うなよ!アディナが死んだら……アディナと同じように、アディナが今泣いていたように!俺は悲しむんだぞ!……うっ……」
コアンの目から、涙が零れ落ちた。今見ていることが、全く信じられない。どうして?
何で、何でどうして?状況が理解できない。悲しみの感情はまだ根を張っているけれど、戸惑いの種が私の中で芽吹いている。
「だから、だから。」
その先の言葉が続けられないまま、コアンはわたしの方へ歩み寄る。そしてがくんと膝をつき、かすれた声で言った。
「一緒に、生きよう、アディナ。」
いつの間にか、涙は止まっていた。がむしゃらに涙をぬぐって、私は立ち上がる。
「うん!……コアン!」
月明かりが、私をやさしく照らしてくれた。
「思いっきり泣いたらすっきりしたよ……どうして分かったの?」
頭がクリアになってくると、今浮かんだ疑問をぶつける。
「ああ、俺も寝付けなくてな。どうしてアディナにあんな態度、取っちゃったんだろうなって。どうしてアディナ、あんなに落ち込んでたんだろうって考えてたら、寝付けなくてさ。夜の散歩に行こうと思ったら、泣き声が聞こえてきて。ーーほんの少しの音だったけど。」
空を見上げてコアンが言った。
「そこで初めて、アディナが寝床からいなくなってることに気付いたよ。もうびっくりして、走ってここまで来たんだ。」
そうだったんだ。そんなに大きい声で泣いてたかな。やっと心が落ち着いてきた。
「心配してくれて、ありがとね……」
心配かけちゃったかな。こんな姿見られちゃって……かあっと顔が赤くなる。今までできる人のような振る舞いをしてきただけに、余計恥ずかしい。こんなに泣いたのは、赤ちゃんの時以来だろう。っというか、自分がコアンのことを、好きだということを自覚しただけに、余計恥ずかしい。
「ほんとに。」
照れ隠しに、もう一度頭を下げる。
「いいよ、全然。」
珍しくコアンが慌てたように顔の前で手を振る。
「もう戻ろう。みんなが心配する。」
コアンがぱっとすたすたと歩き出す。その背中は、私に安心をくれた。
まだ辺りは暗いけれど、月明かりのおかげで足元は大丈夫だ。
洞窟へ戻る途中で、コアンが言った。
「大切なものがあるから、それを守りたいから、……うまく言えないけどっ、俺はこの役をするんだ。」
珍しく思いつめた顔のコアンが隣を歩いている。どうしよう……
「わかってるよ!一緒に、……生きよう?」
こくりとコアンは頷いた。
「死ぬって決まったわけじゃないから、ね!」
にっこりと笑ってコアンを見ると、コアンもにっこりと笑い返してくれた。コアンの気持ちが理解できたことで、不安が綺麗になくなっていた。というよりむしろ、絶対に生き延びてやろうという気持ちの方が強くなっていた。
頬が火照るのを感じながら、洞窟の中で別れて、毛布にくるまる。
今まで起きていたせいか、すぐに眠りに落ちてしまった。
気づけば、朝だった。
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