船員さんの苦悩。
今回はちょっと短めですが、アディナの心を掘り下げ(?)ます。自分の気持ちが、自分で分からない、ということにアディナが気付く回です。よろしくお願いします。
「ううーーん……」
大きく伸びをする。
辺りを見回すと、まだ暗い。どうやら目が覚めてしまったようだ。あんなに一瞬で寝付いたのに……
寝る前の出来事を思い出して、思わず顔が赤くなる。ほんっとに、ひどい。悲しい。ああもう。あれじゃ告白してんのと一緒じゃん。もし時が巻き戻るなら、差出人不明のまま男子部屋に置いとくわ。あーあ。
「夜風に、当たろう……」
火照った顔を覚ますために、そっと寝ているニーナをまたいで外へ出る。数分歩くと、
外だ。
「ふう……」
夜風が心地いい。
「あ!」
夜明けだ……ちょうどいいタイミングだなぁ。
じゃあ今は四時くらいかな。
ぽろん……ぽろん。
はっ!
物思いから覚めると、不意に弦楽器の音が聞こえてきた。
誰だろう?
音は森の中から聞こえる。
ぽろん……ぽろろん。
柔らかい調べにうっとりとしてしまう。
さく、さくと落ち葉を踏んで、ゆっくりと森の方へ歩を進める。
森の中で、誰かが倒木に座ってウクレレを弾いている。いや、後ろ姿でももう分かる。
「コアン」
後ろから声を掛けると、コアンは驚いたように振り返った。
「よくここがわかったな。……アディナ」
ウクレレを弾く手を止めて、コアンが言う。
「そのウクレレはどうしたの?」
「うん、オレの愛用してるやつだから、朝一番で船に探しに行ったのさ。奇跡的に、
宝箱の中で無事だったよ。」
「よかったね。」
思わずにっこりと笑う。いろいろツッコミたいことはあるが、とりあえず宝箱ってどこで売ってるの??
「はは。」
少し恥ずかしそうにコアンが頭をかく。そしてぱっと顔を上げて、顔を少し赤く染めていった。
「毛布、ありがとな。」
なによ。感謝されちゃうと、なんて言っていいかわかんないじゃない。
その言葉は帰さずに、そっと倒木に座る。
「――ね、ウクレレ、聞かせて。」
コアンは軽くうなずき、またウクレレを爪弾き始めた。
ぽろろん、ポロ……
さっきとはまた違った感じのいい曲だ。
「ねえ、なんていう曲なの?それ……」
眼を閉じて聞き入ったまま聞く。
「アルカーナって人の、海の歌って曲だよ。寄せては返す波をイメージしたんだっ て……」
そういわれると、なんだか潮騒が聞こえてくるような気がした。いや、すぐ近くに海岸があるのだが、そうではなく。
「あの町が、懐かしいな……」
この曲を聴いていると、思い出すのは、騒がしい港の波と、騒音……行き交う人の、噂話やちょっとした愚痴。
「にぎやか、だったなあ。」
思わず涙ぐみかける。
いけないいけない。私が泣いたらだめだ。……みんな頑張っているんだから。私が泣いたらそれこそ。そうだよね。私が泣いたときの皆の反応を考えると、ふと笑みがこぼれてきた。
……ろんろんらん、りんろんろん。
最後は少し物悲しく、曲が終わった。
「大丈夫……か?俺、港町を思い出しちゃったよ……。あの頃に戻りたいな。」
朝日に、涙が光っていた。
「私も。きっと、あの頃が一番、幸せ、だった。」
――幸せ?
「でも、俺、いつも思う。何があろうと、“今”が大切だって。もし、過去に戻れる、と言われたって、きっと同じことをするだろうって。」
――“今”……
少し前に、コアンに毛布を渡した時のことを、後悔した。でも今は、何故だか時を巻き戻したいとは思わない。どうしてだろう。お礼を言われたからかもしれない。その言葉一つで、心が軽くなったことに、今やっと気づいた。
「俺、ときどき思うんだよ。あの時、ミガンをイウクフに差し出して、こんな危険な旅に出るのをやめていたら、どうなってたんだろうって。」
思わずコアンを凝視する。そんなことを考えたんだ。でもコアンだって、人間だもの、やっぱり自分の命だって、大切だ。私だってきっと、同じことを考えた。
でも、許せなかった。もしこれで、このまま消息不明になってしまったら、きっと後世の人はコアンのことを間違った決断をした人物として残すだろう。
「……俺は、そう考えるたびに、自分が嫌になるよ。そっちの方が、ずっと後悔してた。仲間を差し出して、自分だけ助かるなんて……そんなの嫌だからさ、俺。」
「うん……私もそう思うよ。コアン。コアンはきっと……間違ってない。」
コアンも、顔には出さないけど、悩んでたんだろうな。小さい時から正義感が強くて、困ってる人を見るとほっとけない性質だった。そのせいで損することがあろうがなかろうが、いつだって、私たちのことを大切に考えてくれていた。
こういうところが、きっと。
……きっと……何?
自分の気持ちが、分からない――。
私は、コアンのことを、どう思っているんだろう。
――わからない……。
――しばらくの沈黙。
お互いに、物思いにふけっていた。
気持ちって、なんだろう。
なんだか、自分の中にもう一人の自分がいて、そいつが感情を支配してるみたいだ。
自分なのに、自分じゃない、この感じ――。
なんだろう?
――わからない。
ええい、こんなんじゃだめだ!元気に行こう!
私は涙をぬぐうと、立ち上がる。
太陽の光が、少し上から指してきている。
「そろそろみんな起きてくるかな!」
コアンはひとつ頷くと、
「そろそろ戻って朝食の準備をしないとな。」
という。
ううん、朝食か……きっついなぁ……
フルーツと魚だけでいいんだろうか?
それより船は?あーあ、もう。
少し名残惜しいが、歩いて洞窟まで戻った。
歩きながら、一つ、考えたことがある。
あの、夜と朝のはざま……というのはきっと、普段の自分ではない自分が、出るのだろう。
まるで、自分が、自分ではないような、感覚。
それは、夜と朝の間の空の色のように、不安定なんだろうな。
でも、きっと、すごく、何よりきれいなんだろう――。
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