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幸田露伴「荷葉盃」現代語勝手訳(2)

 其 二


 その年も暮れ、新三郎九歳、お小夜七歳、新三の異母(はらちがい)の弟富之助は五歳となった。眞里谷一家で優しいもてなしを受ける一方、ケチで思いやりの欠片(かけら)もないお力から理屈も何もなく(ひど)い仕打ちを受けているためか、新三は普通の子どものように無邪気にすんなりとは生長(おいた)たなかった。知らない人を見る時は身を遠ざけ、物陰に隠れてひそかに覗うといった可愛げのない挙動(ふるまい)が多く、自分の父母(ちちはは)に言い付けられる用事を聞く時も大分距離を置いた壁の隅や戸の(きわ)などに身を小さくして(かが)んでいたりする。すべてのことにはっきりとした返事をすることなどさらに無く、堅く口を閉じたまま上目遣いにジロジロと人の顔色を見る様子は、哀れむべきとは言え、同時に又、憎らしくもある。


 しかし、眞里谷の家に来て、お静やお小夜に接する時は、幼な心にもお静、お小夜を好く思っているのだろう、その挙動(ふるまい)は、これは別の子どもかと思われる程活発になって、(すず)しい眼から愛嬌の光を溢れさせ、冴えた声は時に伸びやかな笑いも添えて、平常(つね)は氷のように引き結んだ口の(あたり)は春の(うみ)の波が軽く揺らぐようで、さも楽しそうに笑い興じる。その様子を見て、愛らしいことを言うだけではないので、お静がますます(いつく)しめば、愛しまれて新三郎はますますなついて甘える。しかし、眞里谷の家の者ではあるけれども、お勘や木工助等に対しては、そのような態度をまったく示さず、自分の家での継母(ままはは)などに対するのと同じ挙動(ふるまい)をしていた。


 こうなれば自然と誰彼(だれかれ)無く新三郎を愛する者もいなくなり、新三郎も又、愛されたと感じることも無く、お静とおとわ以外はどんな人が出て来て、優しい言葉を掛けても、それを本当のこととは取らないため、『本当に手をつけ難い餓鬼だ』と村中の噂、評判となって、話し掛ける者さえもいなくなった。遊び仲間の子ども等も、『意地悪根性、つむじまがり』と、渾名を付けてからかい者にしたり、爪弾きの除け者にしたりして馬鹿にするので、そうされて堪え忍ぶようなことは無い新三は、時には自分より三歳(みっつ)四歳(よっつ)も年上の者を相手に必死に争って、執念深くまとわりつき、初めは大層酷く叩かれて足腰も立たないようにされても、最後には相手を根気負かせで負かすことも一度や二度では無かった。

 始末に負えないねじけ者は、これから先どうなることやらと、大抵の者が忌み嫌い、避けるのもうなずける新三だったが、また一つ旋毛(つむじ)を曲がらせ、根性を悪くさせる出来事が起こった。


つづく

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