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幸田露伴「荷葉盃」現代語勝手訳(11)

 其 十一


 良いとも悪いとも一言の言葉も出さず、ただ、

「さようでございますか」とだけ挨拶をして、お力を帰らせた後、お静は何となく世のさまざま、人のいろいろをあれこれと考えていたが、玄関にざわざわと子どもの笑いさざめく声がして、年甲斐も無くお勘までもが笑い崩れる様子が(うかが)えるような声がどっと響いて聞こえてきた。


 どうしてそれほどまで楽しそうなのかと、立ち上がって小窓から外の様子を見れば、()()()()の三太が蓮の葉を頭に被って、太腿が出るのも構わず、()(すそ)を高く掲げ、何かは分からないが跳ね舞い、その傍で、お小夜が手を打って歌い(はや)し、お勘と新三は腹を突き出して太鼓を打つように打ち(たた)いて拍子を取りながら、皆、何とも分からない鄙俗歌(ひなうた)を面白がって歌っている。流石の慎み深いお静さえも、吹き出さずにはいられないくらいで、三太の高く躍り、低く舞う身振りといい、開いたり閉じたりする手つきといい、それが余りにも馬鹿馬鹿しくも可笑(おか)しいので、皆それを笑っているが、それに加えて三太自らも嬉しがってか、顎も(はず)れかねないくらいにカラカラと笑い騒いでいる。


「おいらの家のお背戸(せど)さ出て見れば、松の樹三本に杉三本、合わせて六本根を見れば、根さは根草(ねぐさ)()いかかる。(うら)さは(かも)めが巣をかける。昨夕(ゆうべ)生まれた鴨の子が今朝は這い出てちよちよと……」と、歌うのに合わせて、お小夜は手を打ち、新三は腹を叩く。三太が無茶苦茶に躍る様子はまるで蛙の子のよう。お勘さえ浮かされて、(かめ)のように肥え太った腹を叩けば、皆々わっと笑い出し、余りにも跳ねて跳ねて疲れたか、地面にどさりと寝転んだまま、三太はしばらくキョロキョロと眼ばかり動かし、

「ああくたびれた」と独り言を言うのであった。


 太腿も露わに捲り上げた裾を下ろしもしないで、鼻の頭に玉の汗をかきながら、蓮の葉笠を被り(ゆが)めて、身体を「へ」の字、手を「く」の字にして、土の上に横たえながら、鼻息ばかり荒くしたその様子に、皆又笑う時、お勘は主人が窓の中からこちらを伺っているのをフト見つけて、慌てふためき、首を縮め、勝手口へと走って行けば、お小夜と新三もそれに気がつき、急に落ち着いた顔を作るけれど、額の汗は生憎(あいにく)髪も濡らさんばかり。

「ホホ、ほんに面白そうな。新ちゃんの囃しも上手だけども、三ちゃんの踊りはまた本当に巧い。皆くたびれたろうに。さあ、こらからは家に入って遊ぶがいい。勝手へ廻ってお勘に足を洗ってもらってお上がり、お上がり」と言うのを半分聞いたくらいで、今まで死んだように寝ていた三太はむくむくと起き上がるが早いか、物陰にさっと逃げ込み、新三とお小夜は裏へ廻った。


つづく


次回、最終です。

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