第一次社会大戦
日本の87%がサラリーマンでいる中、世界を救った偉大なる勇者と僧侶メイの次なる戦いは
人間社会……?
「勇者よ、此度の活躍……誠に大儀であった」
白銀に輝く王宮から、王の透き通った声が館内へ響き渡ると同時に歓声が湧き上がった。
「勿体無きお言葉です。 ですが私だけの力ではなく、常に私の傍にいる僧侶、メイの尽力があってこそでございます」
腰まで延びた白髪の女性……若干18歳ながらも国で随一の回復能力を持つ僧侶。
彼女は立膝をついたまま、勇者の労いにも表情を変える事なく微動だにしない。
「僧侶メイよ、長きに渡りよくぞ頑張ってくれた」
「わ、私は私の役目を果たしただけでごしゃります。 こ、こんな私など……ぐ、愚の骨頂でございますわ!!」
「……おい、意味分かって使ってないだろ」
「な、なに……?」
「あと、少し噛んでるしキャラも違う」
耳まで紅潮した顔と、恥ずかし涙なのか嬉し涙なのか潤んだ瞳が左右に激しく動いている。
……おそらく後者だろう。
「よいよい、二人には褒美を遣わそう。なんでも良いぞ、なんならこの国の王と姫となり全てを渡しても良いと考えておる」
「そ、そのような! 身に悶える光栄ですわ!」
「身に余る、な。悶えてどうする」
勇者の静かだが何のフォローにもならないツッコミにメイは最早赤らむところがないほど、まさにゆでダコ状態になっていた。
「では、決まりでよいな?」
先程の歓声とはうって変わり、物音一つしないほどに館内は静まり変わっていた。
それもそのはずである。 いくら世に危険を及ぼした魔王を討伐したとはいえ、誰に相談するもなく、まさに王の独断で王位継承の儀式などを一切合切飛ばした上での話である。
驚きと迷いと嫉妬……その全てが沈黙となって館内を包んでいる。
「王よ、折角のご厚意ではありますが辞退させて頂きたく存じます」
「なんと……では何が欲しい。 まさか何もいらぬと愚かな事は言うまい?」
国、いや世界を救った勇者に何も与えないというのはまさに王ではなく国の恥。 理由はどうあれ絶対に引けないのである。
「私の望みは1つ」
王の眼を曇り一つない目で見つめ、勇者は言った。
「人間になってサラリーマンになりたいのです」




