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エンジェルタウン

目覚めた真斗はいままで何をしていたのか、これから何をするはずだったのか思い出せず、現在世界の記憶を失っていた。

さらに現在世界では神木亮が動き出し、街がパニックに陥って行きm、警察の捜査が難航して行くーー。

鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から太陽の光が漏れて部屋を明るく照らしていく朝。

真斗が目を覚ますと、見知らぬベットの上に居た。

部屋の広さは8畳程あり、テレビやテーブルなどの家具が置いてある。

扉を開けた先には廊下があり、右側には台所、左側には浴室とトイレの扉が付いていた。

(ーー・・・なんだ・・・・・・。

俺、アパートに帰って来てたのか・・・・・・)

そう思った瞬間ーーーー。

見たこともないはずの部屋なのに、何故かこの部屋が自分の部屋だと思ってしまった。

何か違和感を感じた真斗は、頭を整理しようと部屋に戻り、ベットの上に腰を下した。

(あれ・・・・・・? ・・・・・・俺って、昨日何してたっけ?)

昨日何をしていたのか? 誰と何の話しをしていたのか? これから何をする予定だったのか? 思い出そうと思っても頭の中が真っ白になり、何も思い出せない・・・・・・。

何も思い出せないけれど、何か大切なことを忘れている気がする・・・・・・・・・・・・。

まるで暗くて深い海の中に大切な物を落としてしまい、押し寄せる波が行く手を阻み、何度も何度も潜って手を伸ばすが、大切な物は見つけられず、落とした物が本当に大切な物だったのかわからなくなっていくーーーーそんな息苦しさが真斗の中にあった。

ふとテーブルの上に視線を向けると、1枚のカードが置いてあった。

それはエンジェルタウンで生活する為にとアポロから貰ったカードだった。

「そうだ! アポロに聞けば何か思い出せるかもしれない」

真斗はカードを持って部屋を飛び出し、アポロを探し始める。

街中を走り回り、喫茶店やレストランなどの店をのぞいて見たり、裏通りに行って見たりしたが、アポロの姿はなかった。

「ハァ、ハァ・・・・・・。

くそっ、アポロに聞きたいことがあるのに・・・・・・何で、何処にも居ないんだ?」

そう言った瞬間、持っていたカードから声が聞こえた。

「ハーイ!

只今、伺イマース!」

声が聞こえた後、聞き覚えのある機械音が上の方から聞こえて来た。

真斗は上を見上げると、背中に2枚の白い羽を拡げて飛んで来るアポロが居た。

「オ待タセシマシタ」

アポロは背中の羽を収納して地面に降りてくる。

「・・・・・・頭の羽で飛ぶんじゃないんだな?」

「頭ノハ耳デスノデ」

アポロは耳を触って真斗に見せる。

「デ? ゴ用件ハ何デショウカ?」

「ああ。昨日俺と会った時何を話したか覚えてるか?」

「ハイ。昨日ハ真斗サンニコノ街ヲゴ案内シテ、街ノ説明ニツイテ、オ話シマシタヨ」

「それだけ?」

「ハイ。ソノ後、真斗サンハ自宅ニ帰ラレマシタ」

アポロは首を傾げて真斗の顔を覗く。

「・・・・・・何カゴ不明ナ事デモ?」

「あ、いや・・・・・・。

昨日何をしてたのか覚えてなくて・・・・・・」

「ソウデスカ・・・・・・。

初メテエンジェルタウンニ来ラレタ方ハ、皆ソウ仰ラレルンデスヨ。

デモ、私ト話シタ事ハ覚エテイイラッシャル様デスノデ。

忘レテシマッタ内容ハ、ソレ程大切ナ事デハ無カッタノデハナイデショウカ?」

「ん〜・・・・・・。 そうかもしれないな・・・・・・」

「他ニ何カ聞キタイ事ハ、アリマスカ?」

「いや、ないよ。

ありがとうアポロ」

「デハ、マタ私ニ用ガアル時ハ、カード二向カッテ呼ンデクダサレバ、直グニ駆ケツケマスノデ」

アポロは一度お辞儀をして去って行った。

(考え過ぎだったかな・・・・・・?)

アポロの言った通り、昨日アポロと話しをしていた事は何故か覚えていた。

何かを忘れていると思った感覚は気のせいだったと思い、真斗はその感覚を忘れることにした。

気分転換に店で何か食べようと思い、後ろを振り返ると、細い何かにぶつかった。

「きゃっ!」

ぶつかったものは小柄で細い体型の女性だった。

真斗の力の方が強かったらしく、女性は真斗の足下に倒れていた。

「すいません! 大丈夫ですか?」

真斗はそっと手を伸ばして助け起こす。

「あ・・・・・・ご、ごめんなさい。

私前をよく見てなかったから・・・・・・」

「怪我してない?」

「大丈夫です」

女性が髪を搔き上げた時、真斗は彼女の腕に擦り傷が付いていたの見つける。

「あっ、怪我してんじゃん。

ほら、腕のとこ」

「え?」

女性は腕を見て怪我の位置を確認する。

「これくらい大丈夫です。

私絆創膏持ってますので」

女性は鞄から絆創膏(ばんそうこう)を取り出して真斗に見せる。

「俺が貼ってあげるよ」

真斗は絆創膏(ばんそうこう)を受け取ると、そっと傷口に貼り、ゴミをズボンのポケットにしまった。

女性は顔を赤く染め恥ずかしそうに目線を下に向ける。

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

「いや、俺が怪我させちゃったんだし・・・・・・。

ねえ。お詫びに何かおごらせてよ。

時間ある?」

「うん・・・・・・」

女性は小さく頷き、一緒にカフェに行くことにした。

真斗は初めて使うカードに戸惑いながらも、なんとかコーヒー2つとホットドックを注文し、その品をプレートの上に乗せ、席で待つ彼女の元へ向い、テーブルの上に乗せようとした時ーーーー。

キュルルルルル・・・・・・ーー。

真斗のお腹が鳴った。

「ふふっ・・・・・・」

真斗のお腹の音を聞いた彼女は、今まで緊張して強張っていた顔が緩み、くすくすと小さく笑った。

「ごめん。

俺、朝から何も食べてなかったから・・・・・・」

「あ、いえ。私こそ笑ってしまって・・・・・・。

コーヒーありがとうございます。

私、葉月香(はずきかおり)です」

「俺は東條真斗(とうじょうまさと)。よろしくね。

ねえ、葉月さんはこの街に詳しい?

俺昨日この街に来たばっかで、雑貨とか日用品グッズとか買いたいんだけど。

何処か良いお店知ってる?」

「あ。それだったら近くに雑貨専門店があって、可愛いものが沢山置いてありますよ。

あ・・・・・・。

もちろん男性用のカッコいいのとかもありますよ」

葉月はつい女友達と話している感覚で話してしまい、少しあたふたしながら言い直した。

「ありがとう。

すっげー助かるよ」

真斗はにっこりと微笑む。

葉月は真斗の笑顔を見て一瞬顔を赤く染める。

「あ、あの〜・・・・・・。

もし良かったら、案内しましょうか?」

「えっ、いいの?

この後予定とかあるんじゃない?」

「いいえ。

私も何処かショッピングに行きたいなぁ〜って思っていたので・・・・・・」

「じゃあ、これ飲んだら一緒に行こうよ」

「はい♪ 」

「ん! ここのコーヒーうまいっ」

2人はコーヒーを飲みながら、お互いの趣味やエンジェルタウンにある店の話しをして過ごした。

コーヒーを飲み終えると、店を出て目的の雑貨店に向う。

その途中で真斗の横を男女のカップルが通り過ぎた。

そのカップルはあゆみと亮だった。

「・・・・・・ねえ、亮。

今のって、ストーカーの奴だったよね?」

「え?」

亮は振り返り、通り過ぎた真斗の顔を確認する。

「ああ・・・・・・。彼ね」

「あいつ、あたしのこと完全にスルーしてたよね?」

「彼、あゆみのことを誰かと勘違いしてたんだってさ。

彼と話した時そう言ってた。

だからもう付きまとわれたりしないよ」

「そう・・・・・・」

あゆみは、ホッとため息を溢し、振り返って真斗の方へ視線を向ける。

(・・・・・・でも、あたしの名前呼んでたし・・・・・・。

ホントに誰かと勘違いしてたのかな?)

あゆみは以前エンジェルタウン(ここ)ではない場所で同じ様に腕を掴まれて、名前を呼ばれたことがあったような・・・・・・そんな感じがしていた。

(いや、いや、真斗(あいつ)はストーカーじゃん。

何であいつのこと考えてんだろ、あたし・・・・・・)

あゆみは顔を振って真斗のことを忘れようとする。

(今は彼氏()とデート中なんだから、楽しまなきゃ)

あゆみと真斗の距離は次第に遠ざかって行く。

その様子を見て亮は薄く笑っていた。



その頃、現実の世界で警察が神木亮(かみきりょう)の身元や素性を調べ、名前が本名であることと住所を突き止めていた。

だが、神木亮の自宅である小さな古いアパートに本人の姿は無かった。

それどころか、ここ最近部屋は使われた形跡がなく、テーブルや椅子の上にホコリが溜まっていた。

仕事先も5ヶ月前に突然退職届けを出され、理由も告げずに辞めていったという。

神木亮の両親は既に他界しており、友人も居なかったらしく、彼の行方を知る者は誰も居なかった。

わかった事は、ゲームやプログラム情報に強くIT業界では優れた才能の持ち主だと噂が流れていたことだけ。

神木亮の行方の手がかりを見失った警察は振り出しに戻るかと思われたが、事態はもっと最悪な方向へ進行して行くーーーー。


ある日、突然日本中のスマートフォンやパソコンやテレビなどインターネットを経由している物全ての画面にスーツ姿の神木亮が映し出された。

『こんにちは、僕はLOVE・エンジェルを管理している神木亮と言います』

「な、何だこいつは⁉︎」

「電源が切れない・・・・・・」

日本中の人達が一斉に画面を見つめて動揺する。

「神木亮⁉︎ 何でこいつが・・・・・・?」

守谷警部や警察達も唖然として立ち尽くし、画面を見つめる。

『皆さんの誤解を解きたいと思い、今回この様な形で報告させて頂きます。

皆さんはLOVE・エンジェルを誤解しています。

LOVE・エンジェルは決して危険なものではありません』

亮は目を閉じて暗い表情をする。

『僕がもっと詳しく注意事項記載しなかったせいで、LOVE・エンジェルにリンクするためのコントローラーであるーー通称VLC(virtual link controller)によって死亡者を出してしまったことを申し訳なく思っております。

VLCは特殊な電気を使用しているので、乱暴な扱いを受けると電気が漏れて出てしまうんです。

ですが、LOVE・エンジェルに入って来られた方たちは、皆さん自身の決断で入っておられるのです』

亮は胸ポケットから1枚のカードを取り出す。

『LOVE・エンジェル内では、このカードに溜まったポイントでものを買って頂きますが、ポイントは毎日午前0時に千ポイント貯まる様になっていますので、食べものに困ったり、住む家に困ることはありません』

亮の映っていた画面が切り替わり、エンジェルタウンの街の様子が次々と映し出されていく。

『LOVE・エンジェルでは辛い仕事も無く、一人一人の部屋と食べ物がご用意してあります。

幸せな人生を大好きな人と一緒に過ごせる世界。

それがLOVE・エンジェルなのです』

再び亮の姿が映し出される。

『LOVE・エンジェルは無料でダウンロードできますがリンクする場合は近くのCDショップなどでVLCをお買い求め下さい。

是非一度LOVE・エンジェルへ来てみて下さい』

亮の告知が終わると日本中の人々がVLCを買い求め、各店に置いてあるVLCが一瞬で完売になった。

これ以上被害者を出してはならないと、警察は各店に販売中止の忠告をするが、警察に隠れてVLCを売って儲ける店やインターネットなどの裏ルートからVLCを入手する者もいれば、VLCを買う金が無い者は店や持っている人から盗む者もいた。

そして、1ヶ月程で約一千万人がLOVE・エンジェルの被害者になった。

被害者の中でホームレスや一人暮らしをしている者に対しては、裏路地やマンガ喫茶などでVLCを付けて倒れている人が居ると警察に通報が来るようになったのだ。

これにより、警察は店の中や裏路地などで倒れている人がいないか見回る様になり、神木亮の捜査に廻せる人員が減り、捜査が難航して行った。



LOVE・エンジェルの中では、多くの住人が入り、街は活気に溢れていた。

真斗はエンジェルタウンでの生活に慣れ、カードの使い方やタッチパネルのメールのやり取りなどスムーズにできるようになっていた。

そして今日は葉月と一緒に街で人気のパンケーキを食べに来ていた。

「何か最近、人が多くなった気がするな・・・・・・」

「活気があっていいじゃないですか。

東條さんは人混みとか苦手なんですか?」

「そりゃ・・・・・・。できれば静かにのんびりと過ごしていたいかな〜」

話をしていると真斗の後ろから定員が注文したパンケーキとコーヒーを運んできた。

「お待たせしましたー!

たっぷりチョコマシュパンケーキとベリーメリーパンケーキです。

それと、コーヒー2つになります」

真斗の注文したパンケーキの上にはマシュマロが乗って、隣にチョコのソースが添えられており、葉月の方はパンケーキの上にブルーベリーやラズベリーと山の様にホイップクリームが乗っている。

定員が品を置き終わると、真斗はパンケーキにチョコシロップをたっぷりかけて、美味しいそうに食べる。

「ホントここのパンケーキ美味しいな」

「真斗さんはチョコが好きなんですか?」

「好きだよ。

チョコだけじゃなくて、甘いものは何でも好きかな。

葉月さんも甘いもの好き?」

「はい、大好きです。

特にいちごとホイップクリームの組み合わせが好きなんです」

「それわかるなー。

いちごの甘酸っぱさとホイップクリームのホワッとした食感と甘さが、いいんだよね」

「はい、そうなんですよ。

・・・・・・真斗さん。

明日予定空いてますか?」

「明日?

うん、空いてるよ」

「じゃあ、明日一緒にボーリングに行きませんか?」

「ボーリングか・・・・・・。

いいよ」

「あ、私の友達も来るんですけどいいですか?」

「うん、大丈夫だよ。

大勢の方が楽しいし。

葉月さんはボーリング得意?」

「私やったことないんです。

楽しいから絶対やった方がいいって友達に誘われてて」

「確かにやった方がいいよ。

ストライク出た時とかチョー嬉しいし。スカッとするんだよ」

「へぇ〜・・・・・・」

しばらく2人はボーリングの話で盛り上がった。



翌日、真斗が待ち合わせ場所に着くと既に葉月が待っていた。

「あ、おはよう。真斗さん」

「おはよう」

「私の友達とはボーリング場で待ち合わせしているので、早速行きましょう」

葉月に案内されてボーリング場に着くと、葉月の友達が待っていた。

葉月の友達は真斗の顔を見て、驚いた顔を見せた。

葉月の友達とは北川あゆみと神木亮だったのだ。

「おはよう」

「おはよう。

ちょっと、こっち来て」

あゆみと葉月は真斗に背を向けて、ひそひそと小声で話す。

「何であいつと一緒なの。

もしかしてかおり付き合ってるの?」

「あゆみ真斗さんのこと知ってるの?」

「知ってるも何も、この前話した痴漢の人だよ」

「そんな酷いことする人には思えないけど・・・・・・」

2人はちらっと真斗を見ては、ひそひそと話を続け、残された亮と真斗は2人で挨拶を交わした。

「お久しぶりです、真斗さん」

「あ、ども・・・・・・」

「この街には慣れましたか?」

「ええ、まあ・・・・・・。

神木さんってーー」

「僕のことは亮でいいですよ。

これからは街長としてではなく、友達として付き合って貰えると嬉しいな」

「・・・・・・じゃあ敬語は無しで。

亮ってあの子と付き合ってるんだっけ?」

「うん、そうだよ。

彼女は池川(いけがわ)あゆみ。

僕の可愛い彼女。

あ、話終わったみたいだね」

2人はこちらに向かって歩いて来る。

「池川さん。

はじめまして、俺東條真斗(とうじょうまさと)っていいます。

今日はよろしくね」

「は?

はじめましてじゃないでしょ?

この前あんなことしたくせに」

「え? この前・・・・・・?」

あゆみは首を傾げる真斗を見て、イライラと感情が込み上げて来る。

「覚えてないわけ?」

「あ・・・・・・えと・・・・・・ーーーー」

(俺何かしたか?

会うの今日が初めてだよな?)

「最悪!」

声を荒げるあゆみを止めるように葉月が割って入る。

「ねえ、早く中に入ろう。

ね、あゆみ」

「う、うん・・・・・・」

葉月はあゆみの手を引っ張ってボーリング場に入って行く。

真斗は訳もわからず、きょとんとしたまま立っていると、亮は微笑んで真斗の方を見る。

「さあ、僕たちも行こう」

「ああ・・・・・・」

気まずい空気のままボーリングが始まった。

「じゃあ、僕とあゆみ。葉月さんと真斗のチームで対戦しよう」

あゆみは真斗を睨みつけながら、心の中で闘志を燃やす。

(絶対負けない!!)

「真斗さんいろいろ教えて下さいね」

「あ、うん」

最初は亮が投げてスペアを取った。

「今日は調子いいね亮」

「あゆみも頑張って」

『ストライク!』

賑やかな効果音と共にモニターから音が聞こえた。

亮の隣でプレイしていた真斗がストライクを決めたのだ。

「すごーい。一発目からストライクなんて」

葉月は真斗に小さく拍手をする。

「まぐれだよ。まぐれ。」

あゆみはにやけ顔の真斗を見て、更に闘志を燃やす。

(あいつにだけは負けたくない!)

勢い良くボウルを投げるが、投げた瞬間に指が穴に引っかかってしまい、ボールは勢い良く溝に落ちた。

悔しさと恥ずかしさが込み上がり、次の投球では3本しかピンを倒すことができなかった。

ボールを投げ終わったあゆみが隣のレーンを見ると、かおりは真斗にボールの投げ方を教わっていた。

「うわっ、結構片手で振ると重いんですね」

「その重さだけでも前に転がって行くからね。

勢いを殺さないように指の力を抜いて、手から離してやればいいんだ」

かおりは投げの動きを数回繰り返してからボールを投げた。

「あー、惜しい。9本か」

「すごいじゃん!」

「でも、残りの1本だけ狙うのは難しいです」

「こういう時は、カーブとかできればいいんだけど・・・・・・。

身体の位置をずらして、真っ直ぐ投げることだけ意識するといいかも」

「わかりました」

かおりは言われた通り、身体の位置をピンが立っている位置と合わせてボールを投げた。

ボールは真っ直ぐ転がって行ったが、ピンをかすめて通過してしまった。

「あー、惜しい!」

「もう少しだったね。

初めてなのに、9本も倒すなんてすごいよ」

「そんな、真斗さんの教え方が上手だからですよ。

すごくわかりやすかったです」

「あゆみどうしたの?」

「え?

あ、何でもない」

ずっと真斗たちを見ていたあゆみは亮に声をかけられて、視線をモニターの方へ向けた。

「今日はずーっとカリカリしてるけど、真斗のことが気になるの?」

「っ・・・・・・。

ち、違うから!」

(あたし何やってんだろう。

今日はかおりにボーリングの面白さを知って貰うために来たのにーー・・・・・)

あゆみはスッと席を立つ。

「あたし皆の分の飲み物買って来る。

亮は何がいい?」

「じゃあ、コーヒーで」

「ん。

かおりと東條さんは何がいい?」

「あ、俺も行くよ。一人で持つの大変だろ?

池川さんは何飲む?」

「私はフルーツジュースで」

「了解」

あゆみと真斗は飲み物を買いに入り口付近に置いてある自動販売機へと向かう。

あゆみがカード認証パネルにカードをかざしてコーヒーとコーラのパネルをタッチして購入していると、隣で真斗がフルーツジュースとコーラを購入していた。

「あ、池川さんもコーラ好きなの?

ストライク出した後に飲むコーラってスカッとしてうまいんだよね」

「うん。あたしもスポーツとかした後はコーラ飲んでスカッとする感覚が好きなんだ」

「だよね。

乾いた喉にビリビリ来る炭酸がいいんだよね」

「そうそう」

意外なところで共感し合えた2人はさっきまでの気まずい空気が嘘の様に無くなって、いつの間にか笑い合っていた。


「2人共遅いね」

「そうですね・・・・・」

飲み物を買いに行った2人を待っていた亮と葉月はボーリングの球を布で拭きながら待っていた。

「この布ってボールを拭くために置いてあったんですね」

「うん。手汗とかでボールが滑ったりすると思うように投げれなくなるからね」

「へえ〜。ボーリングも奥が深いんですね」

「葉月さん。

その後調子はどうですか?」

「すごくいいですよ。

ここに来て楽しいことばっかりです」

葉月は楽しいそうに微笑み、亮も微笑みを返す。

「それは何よりです」

「お待たせ!」

飲み物の缶を両手に持ってあゆみが戻って来た。

「はいコーヒー」

「ありがとう」

亮はあゆみからコーヒーの缶を受け取る。

「はいフルーツジュース」

「ありがとうござます」

葉月はあゆみ真斗からフルーツジュースの缶を受け取る。

「何か話してたの?」

「ん?

んん・・・・・コーラっていいよねって話してた」

「コーラ?」

「あ、次あたしの番じゃん!」

あゆみは飲んでいたコーラの缶をテーブルに置いて、ボールを掴んでレーンの前に立った。

隣では真斗がボールを構えて立っており

、ボールを投げる直前だった。

迷い無く勢いをつけてボールを投げるフォームは見ていても気持ちがいいと感じた。

そのフォームの結果から得られるスコアも良く、一気に8本のピンを倒す。

あゆみは真斗のフォームを参考に、気持ちを落ち着かせてからボールを投げた。

先程までとは違い、勢い良く真っ直ぐに転がって行くボールは、7本のピンを倒した。

「よし!」

「調子出て来たね。あゆみ」

その後もあゆみはどんどんスコアを伸ばして行き、スペアを連発で取れるようになって行った。

「きゃっ!」

葉月がボールを投げようとした瞬間、足を滑らせて尻もちをつく。

「かおり⁉︎」

「大丈夫?」

真斗が急いで駆け寄り、手を差し伸べる。

「あ、ありがとうござます」

葉月が転んだ時に手放したボールがゆっくりと転がって行き、ピンを全て倒した。

『ストライク!』

賑やかな効果音と共にモニターから音が鳴る。

「すごっ」

「・・・・・まじスゲー。

奇跡だ」

あゆみ、真斗、亮の3人は唖然としてピンが倒れて行く様子を見ていた。

葉月の初めて獲得したストライク、意外な展開で獲得したため、嬉しさと恥ずかしい気持ちが溢れて、葉月の頬が真っ赤に染まって行く。

全20戦が終わり、トータルを計算した結果葉月と真斗チームが勝利を納めた。

葉月が初めて体験したボーリングは、あまりスコアを上げることはできなかったが、また皆でやりたいと思える程の楽しいものだった。

「また皆で一緒にやろうね」

葉月は楽しそうに微笑む。

「うん、今日のかおりすごかったもんね。

東條さんもまた一緒にやろうね」

「うん。また是非誘ってよ」

「今度はあたしにも投げ方教えて下さい」

「えっ? あゆみボーリング初めてじゃないでしょ?」

「かおり初めてだったのに結構スコア良かったじゃん。

きっと東條さんの教え方がうまいんだなって思ってね。

あたしだってもっと上手くなりたいもん」

「俺あんまり経歴長くないから、いいアドバイスとかできないと思うけど・・・・・」

「いいんです。今日かおりに教えてたみたいに指の動かし方とか教えて貰えれば」

「う、うん・・・・・。

じゃあ、今度ね」

「やったー!」

あゆみは嬉しそうに笑う。

「そうだ!

今度亮の家で仮面パーティーやるから、かおりと東條さんも来てよ」

「仮面パーティー?」

「どんなことやるの?」

「皆仮面を付けて食事をしたりダンスしたりするの」

あゆみは葉月の耳元まで近き、小声で囁く。

「まだ恋人のいない人を中心としたイベントもやる予定だから、チャンスあるかもよ」

「‼︎」

葉月の顔が一瞬で真っ赤に染まる。

真斗は亮に質問する。

「参加費とかかかるの?」

「参加費は無料だよ。

今回はエンジェルタウンをもっと知って貰いたいから、エンジェルタウンのマップ案内やいろんなお店の食べ物やグッズをプレゼントする予定なんだ」

「へぇ〜」

「日程が決まったらメールで知らせるから。

是非来てよ」

「うん、連絡待ってるよ」

(パーティーってことはスーツとか必要だよな〜・・・・)

ダンスの経験がない真斗はちゃんと踊れるのか不安になるが、あゆみと葉月が嬉しそうに話しているのを見て、みんなと楽しく過ごせるならそれでいいかとパーティの開催日を心待ちにするのだった。


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