4話「不純」
フロントで丈にあった服を交換してもらい部屋に戻り窓から外を見る。
さっきヴァーレ神父が言っていた事になるが、この世界は今この瞬間も荒廃の一途を辿っているらしい。
確かに森を抜けてからひたすら歩いた荒野には倒壊し風化した建物やビル群の名残なんかがあった。
森の中にもツタや苔によって隠されていた人工物がいくつもあった。
この街の雰囲気もRPG風と形容したがそれは建物の造りが古く簡素であるからである。
よくよく外を見てみれば、形状がゴツいバイクのような物や、買い物帰りと思われる人の荷物を持って隣を歩いている球体型のロボットなど、機械で出来た物も多く見受けられている。
ファンタジーとSFが程よくマッチしたかのような世界観だ。
「……本当に戦争は終わったのかよ」
つい口に出して呟いてしまう。
義手や義足、車椅子に乗って移動する若い男性や包帯をした女性など痛ましい姿をした人が異様に沢山闊歩していてまるで戦時中のような光景だ。
ここまで外の環境が劣悪というか、人類が追い込まれている世界は初めてだ。
吸血鬼になるのも初めてだし……というか、こんな異様な世界で異様な力を持った存在に転生するの自体今回が初……。
「……いや、前回もあったか。こんな事」
そういえば、すっかり忘れていたが何百回か前にも妙な力を持った奴に転生した事があった気がする。
ただ、その時は俺の本来の思考とは方向性の違う獣みたいな凶暴性を持った危険人物に転生したもんだからあら大変、したくもないのに沢山人殺しをしていた気がするなあ。
それが嫌で俺は獣の側面から人間の思考を持つ側面を切り離して自殺したんだっけ。
嫌な思い出ですね、なんで今思い出しちゃったんだろ。
「……」
そういえばさっき、なんでヴァーレ神父が書いた文字が読めたんだろう。
この世界の文字なんか習ったことないし見たこともないのに。
というか言葉だって分からないはずだ、まだ目覚めて数時間しか経ってないんだから。
「……なんかいやーな予感するな。これ」
うん、考えるのやめよ。風呂入ろ風呂。
*
「あー、どうしようどうしよう。失敗した失敗した失敗した! あーもう!」
僕はお湯の滴る良い男。
だがしかし、今この瞬間、僕はまたとないチャンスを無駄にしてしまったことに人生最大級の自己嫌悪を抱き鏡に、つまり僕にぶつけていた。
「お前はっ! なんで! なんでフェルを先にお風呂に入れなかったんだぁぁぁ! 少女だぞ!? 金髪金眼ムチムチロリだぞ!? ロリっ子の残り湯に入れたんだぞぉぉぉ!!!」
天使のような肢体、母性すら感じさせる笑顔、そしてぶっきらぼうで乱雑な言葉遣いのギャップ!!
僕はこの22年間の人生の中で、一度も、あんな麗しい少女を見たことがない。
が故に、この失敗は、フェミニストたる僕が最もしてはならない失敗に等しいのではないだろうか!!
もちろんフェミニストは少女を見守りし者、直接的な過干渉や精神を害することは禁止事項、万死に値する禁忌。
いやしかし、彼女なら、フェルなら残り湯を飲んだところで快く「そうか。良かったな」と言ってくれたに決まってる!
なのに僕って奴は!!
「何一人で騒いでんだよ、お前」
「ぼんぬっ!?」
「ぼんぬ?」
て、ててててて天使ぃ!?
唐突に、全裸になった天使が扉を開け風呂場に入ってきた。
宿の風呂場は共用の所ならまだしも、部屋に一つ一つ備え付けられている物なら広くはない。
まず複数人で入る事を想定していないため成人男性が風呂桶に腰を下ろし鏡と対面した時点で同じ体格の人が入るスペースはない。
僕は痩せてはいるがそれでもそこそこスペースを取っており、フェルが入ってくるとどこにいても身体が密着してしまう形になる。
浴槽に入れば理論上同時に二人が風呂場で伸び伸びと過ごせる事となるが、その入れ替わり立ち代わりの際にも身体に触れることは必須。
つまり今僕の背中にはフェルの柔肌が触れている、これは恐らくお腹のお肉だろう。
「ど、どどどうしたんだいフェル?」
「あんまりに遅いから待ちくたびれたんだよ。つーか狭いな、ここ」
「ああごめん、すぐ退くよ」
立ち上がろうとした瞬間、ふにょっと、背中及び肩に柔らかくてモチモチとした感触が触れた。
フェルの、幼い少女の下腹部から胸、肘に渡って手のひらまでの範囲が僕の動きを制する為に接触しているようだ。
「気にするなよ。体は洗ったのか?」
「あ、洗ってない」
「髪は?」
「洗ってない」
「お前この長い時間何してたんだよ!?」
「ご、ごめん。少し考え事をしてて」
「別にいいけど……じゃあ丁度いいや。シャンプー取って」
「分かった」
彼女の言う通りにシャンプーを取ると、背後から思い切り僕の背中に被さり両手を僕の顔の前で合わせる。
ここにシャンプーを滴らせって意味だろうけど、もう最早背中がエライことになり過ぎててヤバい。
良かったシャンプーパートで、ボディーパートだったら絶対死んでた。
「お〜、初めてだ〜人の髪洗うの」
「良かったね……」
「どう? 気持ちい?」
「き、気持ちい」
「そっか。へへ、上手いだろ」
「うん……上手いよ」
「どこか痒い所とかないか?」
「ないかな」
小さな手で一生懸命ゴシゴシしてくれてる、なんか性欲とか関係なしに単純に愛らしいな。
娘を持つお父さんってこんな気持ちなのだろうか。
あーでも時折力の加減を間違えたのかシャレにならない腕力で頭蓋を変形させられそうな瞬間あるからここが難点だな、でもお陰でボディーパートに入っても問題ないくらいには股間も静かになったわ。やった。
「続いて体も洗うからボディーソープ取ってくれ」
「ソープ?」
「そうソープ。ソープ取ってくれ」
ちょいと下ネタを飛ばしてみるも不発。
先ほどの夜伽もそうだけど、隠語や淫語関係のネタはあまり知らないのか。
まあそっち方面のネタに全部答えてくる方が気持ち悪いが。
「お前、結構筋肉あるんだな」
「そうかい?」
「引き締まってるって言うのか? よく分からないけど、改めて見ると立派な体格だと思うぜ」
不意に体の作りのことを褒められるから嬉しくなる、そりゃ伊達に冒険者になる為の訓練を受けてきたわけじゃないからね。
そういうフェルはやはり幼児体型、可愛らしい寸胴だ。
こんなに非力そうな見た目なのに、実際は僕なんかより全然強くてウェアウルフ程度なら軽く捻り潰してしまうのか。
なんだか現実味のない話だな。
「ふぐっ!?」
「んっ? あっ、そうか。ここは人間の生殖器官だったな」
突如加減のない力で股間が握られた、あまりの出来事に声を上げてしまうが関係なしにフェルはグニグニと手の中でソレをこねくり回す。
「フェ、フェル」
「おう」
「その、そこはそんなに丹念に洗わなくても」
「? そうか」
アッサリと手を離してくれた。
ああ、死ぬかと思った。
「よし、次は俺な」
泡を洗い流し、これで終わりかと思いきや今度はフェルの体を僕が洗うことになった。
背丈がない分座ってると僕の腰が悲鳴をあげてしまう事を考慮して立ってくれているが、そうすると丁度僕の股間が彼女の背中辺りに当たってしまって申し訳なくなってしまう。
何が辛いって、彼女は無知だから僕だけこんな劣情を催してるのがとっても背徳なのだ。
「あー助かるわ〜。俺こんな髪長くなった事ないからさー」
髪を洗ってる最中にそんな事を言う、そりゃ目覚めたのはさっきなのだから本来は髪が長くなる以前に、お風呂自体初めてな筈なのだが。
彼女には前世の記憶とかそういうものが存在してたりするのだろうか?
だとすれば、口調や挙動からして前世は男性だったに違いない。しかし、男性の記憶を持ってるんだとしたら、果たして同性の股間をこねくり回したりするだろうか?
……真相は闇の中だ。
「体も僕が?」
「ん? ああ頼む」
「ええ……」
頼んじゃうんだ、体も頼んじゃうんだ。
参ったな、フェミニストを自称する僕だけれど実際に女性の体に触れるのは初めてだ。
女性の体に触れた事ないのに初めてが少女なのか、吸血鬼の少女なのか。
僕は聖職者だ。魔に属する吸血鬼なんて触れるだけでアウトな身の上、やはりここは理性を保って彼女の体に触れるのは遠慮しておくべきでは……。
「んっ、くすぐったいな」
「そっか。首筋が弱いんだね、吸血鬼の癖に」
「一言余計だっつーの」
うん、細くてすぐにでも折れてしまいそうな首だ。
聖職者? 吸血鬼? 関係ないね、彼女は僕の使い魔なんだ。
しかし、本当にただの人間の少女に脆そうな体だ。
寸胴ではあるが気持ち痩せ気味であばらが僅かに浮き出ている、手足は枯れた木の枝のように細くこんなのでウェアウルフを嬲り殺せたのが不思議でならない。
「んっ、ふっ」
「あっ、こら動くないで」
「くすぐったいんだって」
「しっかり洗えないでしょ!」
「ご、ごめん。……くふっ」
これからの成長を期待させる胸を下から揉み上げ、上から揉みつぶす。
「あっ、……な、なあ。長い……」
ここは特に丹念に、揉めば大きくなるという迷信があるがそれをこの瞬間だけは信じて、大義名分にして揉ませてもらおう。
「……んっ、ふぁっ……」
僕は私利私欲を満たす為に胸を揉んでるわけでも挟んでるわけではなく彼女の為にしているのだ、うん。
というかそもそも、この子は意識が覚醒したのがさっきで身体は未熟に見えるが実年齢は単純計算で600歳近くなんだろう? 例え淫靡な行為をしていると取られた所で法に問われるかというともちろんセーフな筈だ。
てかまず人間じゃないし? 人間の法は該当しないよね?
「よし、次は下も洗わないとね」
「う、うん……」
わざわざ残しておいた下腹部にも指を滑らせる、その動きだけで彼女は体を震わしていたが、目的地に指が到着した瞬間に一際大きく体をぞくりと震わせた。
「あっ、そこは……」
「んっ? なんだい?」
「なんか、変な感じがする……」
「人間や吸血鬼の最もデリケートな部分だからね。こしょぐったいのはもちろん分かるが、故にここを洗うのが疎かになるのはいけない。君はその体がまだ上手く使えないんだろ? きっとここのお掃除も上手くできないだろうから僕がお手本として見せてあげるよ。よ〜く見ててね?」
「わ、分かった。……あっ」
柔らかい肉を優しく圧迫しながら指を前後になぞらせる。
最初はゆっくり、だんだんと早く、緩急をつけて丹念に、綿密に。
「あっ……んっ……んあっ……んっ、あっ……あぅ」
十分に実る前の青い果実が可愛らしい嬌声を上げ陶器のような身をくねらせる。
洗い終えて指を離すとフェルはふらつきバスタブのふちに手をつく。
「はあ……はあ……うぅっ……」
「っ!? な、これは……っ!」
尻を突き出し妖艶な目でこちらを見つめるフェル。
胸をバスタブに擦り付け忙しなく尻を振り甲高い声で切なそうな鳴くその姿はさながら発情期の動物のようだった。
白痴の少女はまずしないであろうその行為は僕の精神にドス黒い欲望を駆り立てさせるが、しかしおかげで僕は正気に戻ってしまった。
「……心相治癒」
自身の胸に手を置き精神状態を落ち着かせる魔法を唱え、引き続いてフェルの背中にも手を置き同じ魔法を唱える。
発情状態が解除されたフェルは何を言うまでもなくその後普通にバスタブに入った。
……僕が入る分のスペースが確保されている。入れって事なのだろう。
「ふう。狭いな」
「そうだね」
「なんでさっき交尾を拒絶したん?」
「…………んぇっ!?」
え、何それ、まるでシたかったと言わんばかりの反応を示してますけども!?
あ、いや違う。単純に疑問を抱いてるっぽい。表情に疑問符が浮かんでる。
「ええと、そんな事聞かれるとは思わなかったな……」
「……あ、そうか。俺は吸血鬼だから人間と交配したら何が産まれてくるか分からないもんな」
「いや、そういうことじゃなくて」
「違うのか? ……母体となる俺の身体が小さいから子を産めるかって心配か? それに関しては大丈夫だろ。俺は死なないし栄養をいくら取られようと生命活動は維持出来るから子供も正常な状態で産み出せるし」
「いやそういうことでもないんだよなあ!?」
なんだろこの子、僕と認識がズレすぎてて話しにくいなあ!?
「じゃあどういうことだよ」
「い、いや、君はまだ幼いし僕らは会って間もないじゃないか。なのにいきなり交わるのはおかしな話だし、そういうのは人間も吸血鬼も理性で抑える所なんだ。偶然僕は、少し、変態だったってだけで」
「理性? 別に子孫を残す行為は理性で抑えるほど不利益にはならないだろ? 自傷や共食いとは違う」
「ん〜〜そういう見方をすれば確かにそうだけど、なんだかなあ……」
「ただ単にお前が俺と交配しても優秀な子孫を残さないと判断しただけじゃないのか?」
「そうじゃないんだよ。君と子供を作る事は全く嫌じゃない。むしろウェルカムだ」
「じゃあいいじゃん作ろうぜ」
「いや、それは……」
「何なんだよ!?」
「え、なんか僕がおかしい事してるみたいになってる? ツッコミをされてる? なんでだろ」
「意味の分からない事を言うからだろ! ったく、その気がないならいいよ、俺はもう上がる」
フェルは憤慨した様子で風呂から上がり扉を開けたまま、身体をブルブルと震わして水滴を飛ばし向こうに行ってしまった。
「……フェル! タオル使いなさい!!」
「はあ? ……ああ、そっか」
戻ってきたフェルがタオルで乱雑に身体を拭きその場に置き立ち去った。
僕も風呂から上がり身体を拭き終え寝室に戻ると、びっしょりと濡れたままの裸のフェルがベッドの下のシーツが掛かってるところに身をねじ込み眠っていた。
何なんだ、この子。
フェルの口調や挙動は男性寄りですが魂は何度も男女両方の生涯を経験しているので人格は男に限ってるわけじゃないです。
あと犬とか猫とかにもなった事があるので不意にその頃の名残が出てきてしまう事もあります。
肉体の方の話ですが、母体から出されて約600年経っていますが心臓に杭を打たれて仮死状態だったので成長しだしたのは数年前で肉体年齢は見た目相応です。