0日目
僕には、好きな人がいた。
僕よりも身長が低く、おとなしめなその子が好きだった。
でも、引っ込み思案な僕は、同じクラスで隣の席になっても、会話どころか挨拶すらも覚束なかった。緊張で頭がいっぱいで、何を話そうかってまともに考えられなかった。
そうしたら、その子が、国語の教科書を忘れた日があった。先生は僕の名前を呼び、
「おまえ、教科書見せてやれ」
と言った。
その日初めて、その子とまともに話した。
その子の名前は、未来といった。
実は、僕と同じ、引っ込み思案なこと。
実は、負けん気が強いこと。
実は、何事にも一生懸命なこと。
未来のいろいろなことを知っていくうちに、さらに好きになっていっていた。
その日以降、それまであった緊張はどこかへ吹き飛び、何の抵抗もなく未来とおしゃべりした。前日にあった出来事、宿題の確認、密かな噂話。そんな他愛もない会話ができるだけで、幸せを感じていた。
その間に、自分の「好き」の気持ちが、日に日に大きくなっていっているのは、自分で気が付いていた。
だから、決めたんだ。
未来に、告白するって。
校舎裏に呼び出し、想いを伝えると、その子はこう言った。
「明日、返事するね」
僕は、明日まで待った。
でも、未来は現れなかった。