目覚め
森は異様な雰囲気を出していた。
先ほどまで聞こえていたはずの獣の声がぴたりと止んでいたのだ。一帯に広がっていた光が自身の体を中心に収まり始めた頃、異変が訪れた。先ほどまでむしろ暖かいくらいに感じていたはずの光が、自分の体の中でうねりをあげて脈打つ様に感じる。
「っッ!?かはっ」
激痛など生温い、そんな刺激を受け意識を手放しそうになる。思わずミアの顔を見れば彼女の顔には一筋の涙の跡があった。何故泣いてるのかは分からない、でも何か伝えなければいけないとシエルは思う。だが自身を襲う痛みがそれを許さない。だから彼女の頰に手を当てて無理に笑顔を作る。“僕は大丈夫だから”と伝わる様に。継続していた痛みは自然と和らぎ始め、その安堵からかシエルは意識を失った。
「よく頑張ってくれた。それとすまない…」
ミアは、意識を失い倒れかけたシエルを支えながら呟く。
「私はきっと、君と出会い君を導くためにここにいたのだろう。だから大丈夫だ…私はもう間違えない。」
ミアがこの森にいたのは偶然だ。だがあの時シエルの前に現れたのは偶然では無い。あの時ミアは、街の中から時折不自然に流れ出るエーテルを感じ取っていた。それに引き寄せられる様にあの場に赴き、そしてそこにシエルがいた。楔が解かれた今、シエルのエーテルに不自然さは無かった。
「訂正しよう。君は私すら遥かに凌駕する魔法士になれる。」
同時刻、とある場所。
扉がノックされ、男は応える。
「入れ。」
扉が開かれ現れたのは、執事服を着た者だった。
「報告致します。お気付きかと思いますが各所から報告が上がりました。皆同じ様に申しております。“懐かしいエーテル”を感じた、と。恐らく場所は人族の領域かと。」
男は窓辺まで寄り、そこから見える景色の先を見据え呟く。
「ああ、感じていたさ、懐かしいエーテルだ。御迎えにあがらねばな。我らの王は生きておられた…“ミア様”」