魔法の本質
兵士、騎士、魔法士、冒険者など凡そ戦いに携わる者以外にとって、壁の外は危険な場所でしか無い。
シエルはミアに続き家の外に出て驚愕していた。そこは間違いなく壁の外であり、壁の外でも、より危険な森の中だったからだ。
不思議な形をした虫や、遠くに聞こえる獣の鳴き声など、自分が見てきた世界をとても小さく感じるものだった。
ミアはそんなシエルを見て思う。
確かにシエルの目には畏怖の色が伺えるが、それ以上に嬉しそうな表情も見て取れるのだ。
「心配はいらない。ここら一帯には魔物や獣は近づけない。夜中に襲われてはおちおち寝ておれんからな。」
さて、とミアは外に据えられた椅子に座るよう促しながら言葉を続ける。
「まずは座学から始めようか、魔法とはどういうものか分かるか?」
「体にあるエーテルを使って、事象を引き起こす事ですか?」
ミアは返ってきた答えに満足気に頷く。そもそも孤児であるシエルが、魔法について誰かに教えを受けていたわけでは無いのだから、基本を知っているかどうかも怪しかったのだ。
「その通りだ、魔法は大別して2つの種類がある。ひとつめは造形魔法と呼ばれ、文字通りエーテルで形造り発動させるもの、2つめは四精魔法、精霊と契約してエーテルを渡し、魔法を発現させるもの、だ。」
シエルは初めて聞く魔法の話にとても興味を引かれていた。そんなシエルを見て、ミアは思う。自分が魔法を手解きすれば、間違いなく最高峰の魔法士になるだろう。だがそれはシエルの人生を間違いなく変化させる。それはシエルにとって幸せでは無いのかも知れない。本人がどう思っていようとも、自分の目的に利用している事は間違いない、だからこそミアは罪悪感に苛まれる。だがここで止まる事は出来ない。ミアはシエルの前に立ち、彼の胸へ手を伸ばし言葉を紡ぐ。
「エーテルを活性化し、魔法を使えるようにする。絶対に意識を失うな。」
日が落ちかけ、薄暗くなった森の一角に月の様な青白い光が満ちた。