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「戦争開始ですっ!」

「無線が途絶えてから、同盟国の機体が襲ってきたんですね」

 信子と龍子だけのブリーフィングルーム。

 プロジェクターは今、龍子のガンカメラの映像を映し出している。

「なぁ、信子、会議ではどんな感じなんだ」

「ニュースを見ていないんですか?」

「いや、見てるが……しかし同盟国はダンマリ決め込んでるぞ」

「その通りです、批難轟々なのはO州各国です」

「ドラケンやらTNDが襲ってくるのは、まぁ、わかる」

「……」

「会議でダンマリ決め込んでいる同盟国がどうして撃って来るんだ?」

「実は、A基地とI基地に人をやってます」

「戦闘機の出入りを見てるんだな?」

「はい、でも、どちらからもそれらしい機体はないと……」

「おいおい、AなんかF‐16もF‐18もわんさかいるだろう」

「はい、それはもう、でも、時間を逆算してそれらしい機体がいません」

「なんだそれ?」

「レーダーで追ってもいます、それが同じ結果です」

「おいおい、同盟国の駐留基地なんて知れてるぞ」

「でも……」

「秘密基地でもあるっていうのか」

「もしかして……」

「おいおい、信子、そんな漫画みたいな事いうなよ、どこに秘密基地があるって……」

「この空母だって、三日で……実際には一晩で出来てます」

「う……」

「最初に襲ってきたF‐117もそうです、あれはもう退役しています」

「それを言うならうちのF‐1もだし、『えふに』もなぁ」

「でも、飛行機なら必ずどこかに基地がある筈です、燃料もですし、滑走路もないと」

「それはそうだが……」

 龍子は画面を送りながら、

「それと……信子はどう思う、これ」

「……」

 画面は隆子の機動を映しているそれだった。

「ここで銃撃されて当たる」

 龍子の説明通り、隆子の「えふに」が一瞬光る。

「かすったって話でしたね」

「よかったよ、まともに食らってたら落ちてる」

 龍子は画面を止めて、コマ送りで見せる。

「私もF‐16が逃げてから救援に向かったんだが……」

 ギアダウンして着陸態勢にはいる「えふに」が小さくだが確認できた。

「隆子、ギアダウンして減速しやがった、信子はどう思う?」

「そうです、この後エアブレーキなんですよね」

「そうだ、ギアダウンが先なんだよ」

「で、ホーネットは隆子さんの下側に逃げてるんですよね」

「多分隆子の減速がすごくて、射線に入れられなくなったんだ」

「そのままだと隆子さんの前に出るから、ロールして下側を通ってって感じですよね」

「ああ、私だって同じ状況だったらそうする」

「飛行機、上には行きやすいけど……ですよね」

 画面は横滑りして向きを変える「えふに」が映っていた。

 信子が小さくうなずきながら、

「結構……すごく早く方向転換しますよね」

「うん、私も今そう思った」

 向きを変える隆子の「えふに」。

 でも、F‐18は猛ダッシュで小さくなっていた。

「信子、どう思う?」

「……」

「隆子の機動、どう思う?」

「あんまりマニュアルでは見ませんよね、この機動は」

「しかし、敵をオーバーシュートさせて……」

「オーバーシュートは出来ませんでしたが、はい、追う時の機動は早いですね」

「なぁ、信子、隆子の履歴、ちょっと洗ってくれないか?」

 龍子の言葉に信子はゆっくりと頷いた。


「本当に死ぬかと思いました」

「はい、ガンカメラの方、見せてもらってます」

 信子は早速隆子を誘って風呂に入っていた。

 広い浴槽で隆子は伸びをしながら、

「でもでも、わたしも練習してるんですっ!」

「はいはい」

「あの機体でやったことはなかったけど、うまくかわしてみせました!」

「はいはい……で、隆子さん」

「はい、なんです、信子さん」

「あの隆子さんの機動は、どこで?」

「機動ってなんの事です?」

「えっと……ほら、急降下してから上昇して、ホーネットかわしたでしょ?」

「ああ、あれですね」

 真顔で聞く信子、隆子はニコニコ顔で、

「降下するときは慣性なんですよ」

「はぁ」

「減速するから狙われやすいんだけど……あの『えふに』は普通にやったらコブラとか出来ないですよね」

「こ、コブラって、あのコブラ?」

「はい、あのフランカーなんかでやる曲芸飛行」

「曲芸飛行……」

「ともかく急減速してオーバーシュートさせるには、上昇しちゃうんですよ」

「え……コブラは機首を上げて減速するだけで、上昇するわけじゃ……」

「上昇している時に上昇すると減速になりますよね」

「上昇している時に上昇って何を……」

「えっと、上昇している時に機首上げ……でいいですか」

 信子は眉をひそめながら、

「ともかく上昇しているときは……重力に助けられて減速……ですね」

「はい、そんな感じです」

「でも……どうしてギアダウンなんです?」

 信子の不思議そうな顔に、隆子は愛想笑いしながら、

「あの技、W基地にいる時に鍾馗で練習してたんです」

「!」

「鍾馗とか隼で練習してたんですけど、減速するのに一番いいし」

「!」

「大抵敵機は上にいるんですよ」

「ギアダウンだと見えない!」

「それはたまたまなんですけどね、F‐18に追っかけられた時は横向きだったからバレバレだったと思いますよ」

 隆子はそう言ったものの、すぐに今度は自信たっぷりの笑顔になって、

「でも、F‐18、わたしを撃墜できなかったですよね」

「はい」

「エアブレーキよりも多分ギアダウンの方が減速いいんだと思います……でもでも速度が速いと脚が壊れちゃうから、思い切り減速してからですね~」

「かなり……練習したんですね……」

「でもでも、たまたまうまくいったんだと思いますよ」

「……」

「あれ、何度も宮本さんにしかけたけど……宮本さんってわたしの教官なんですけど」

「あ! この間、救援に来た人ですね」

「はい……宮本さんにはほとんどダメだったんです」

「はぁ」

「わたしがアレを仕掛けようとすると、なんだか伝わっちゃうみたいなんですよ、で、わたしが上昇に転じたらそのまま下に逃げちゃうんですよ~」

「……」

「で、機首をちょっと横に傾けていると重力に引っ張られて……でもでも『えふに』は機首がイマイチ重たくないから、思ったほど動かなかったですね」

「そんな事まで……」

 信子がびっくりしていると、

「えっと、信子さんじゃなかったですっけ? 基地での事、話しませんでしたっけ?」

「?」

「模擬戦で負けたりすると、便所掃除とか窓拭きとか、ペナルティなんですよ」

「……」

「だからわたし、必死でした」

 そこまで聞いて信子はクスクス笑うと、

「あの、隆子さん、勝った事、あるんですか?」

「さっきの技は一度だけ決まったんですよ~」

「ふふ、嬉しかったですか?」

「やったって思ったんです、でもでも、宮本さん翌日呼び出しで出張しちゃって、結局わたしが便所掃除なんですよ~」

「ふふ、きっと宮本さん、計算してたんですよ」

「わたしもそう思いました、勝負に勝って、駆け引きで負けて?」

 隆子も信子も笑う。

 そんな二人の笑い声が浴室に響いた。


 ブリーフィングルームでは隆子・龍子がTVをじっと眺めていた。

 画面の中では吉井が演説して、それに野次が飛んでいる。

「こりゃ、ヤバイかもな~」

「なんですか、龍子さん?」

「国連の会議で野次飛ぶなんてそうそうないんじゃないか」

「そうなんですか」

「誰も止めようともしてないしな」

「でもでも、さっきから野次ってる人、2~3人って感じですよ」

「そこなんだよなぁ~」

 龍子は目を細めて、

「野次ってる連中が攻撃してくるのは、まぁ、わからんでもない」

「あれって、あの、地球防衛軍みたいな戦闘機の国ですよね」

「地球防衛軍……」

「なんとか仲良くなれませんかね?」

「ああん?」

「わたし、空軍に入る前は陸軍の試験を受けるつもりだったんです」

「で?」

「身内に陸軍の人がいて、空軍がいいよって言うんですよ、エアコンのきいた食堂でごはん食べれるとか」

「お前の身内は微妙だな~」

 そこに信子がやってきて、TVを切った。

「集ってもらったのは装備について説明の為です」

 信子が言うと、隆子と龍子に書類を配った。

 書類……1枚の紙に二人は目をやる。

 信子はスクリーンを出してプロジェクターを映し出しながら、

「敵がミサイルを撃って来るので、こちらもミサイルで対抗する事にしました」

「いまさらかよ」

「ちょっと遅いです」

 龍子と隆子が不満気な顔で言うのに、

「まさか本気で撃って来るとは思っていなかったんです」

 信子がジト目で返すと、二人はしょうがないって顔になる。

 龍子が、

「確かに撃って来るとは思わなかったかな」

 隆子がびっくりした顔で、

「え? なんで撃ってこないって思うんです?」

 途端に信子・龍子が隆子をにらむ。

 視線に気付いて小さくなりながらも、

「だだだだって~、なんで撃って来ないって思うんですっ!」

 信子も龍子もムッとした顔で、

「隆子さん本気で言ってるんですか?」

「おいおい隆子、普通撃って来ないだろ、お前バカか」

 隆子は二人の剣幕に冷や汗かきながら、

「だだだだって~シミュレーターじゃどんどん撃って来ますっ!」

 がっくりうなだれる龍子と信子。

「あのな、隆子」

「なんですか、龍子さん」

「まぁ、いいだろ、お前が要撃で出撃してだ、領空侵犯した飛行機をドカンとやるとどーなる?」

「え? 領空侵犯したんだから、撃墜しちゃっていいんじゃないんです?」

「バカ者ーっ!」

 龍子のチョップが隆子にヒット。

 ☆が3つのダメージだ。

 隆子は頭を抱えながら、

「ちょ、ちょっと、龍子さん、本気チョップでしたね」

「当たり前だ、バカ、領空侵犯してドンドン撃墜したらどーする? どーなる?」

「ミッションコンプリート」

「バカ者ーっ!」

 今度はゲンコツが投下された。

 隆子の頭上ではヒヨコがダンスを踊り始める。

「い、痛いです、龍子さんっ!」

「何がミッションコンプリートだ、アホ」

「だってー、命令ですよね?」

 信子があきれた顔で、

「隆子さん、要撃ミッションはシミュレーターでありますけど、即撃墜じゃないですよね」

「あ、はい、無線で呼びかけて、聞かなかったら警告で発砲」

「即撃墜なんかしてたら、国際問題になって戦争になっちゃう」

「でも……」

 隆子は視線を泳がせながら、

「わたしが原木運びの仕事をしている時、上空で空中戦になったんですよ」

「「!」」

「わたし、川で原木に乗ってたからよく見てたわけじゃないけど、F‐2が敵を撃墜してました」

「「!」」

「あれを見て、わたし、F‐2がいいなって思ったから間違いないです」

 隆子が語っている間、龍子の肩がわなわな震え、握られた拳が振り上げられる。

 でも、そんな拳を信子が止める。

「隆子さん、その話はいいですから……ともかくいきなり撃墜はダメです」

「そうなんですか、残念」

「それに……一応座学で勉強しているとは思いますが……」

「?」

「お隣の国と、配備されている軍用機の数は大体知っているんですよね?」

「勉強は苦手でしたけど、一応……それなりにやっているつもりですけど」

「戦争になったら、勝てると思うんですか?」

「!」

「戦争にはできるだけならないようにしないといけないんです、だから撃墜は最後の最後です」

「はーい」

「そこでミサイルです」

 まじめに言う信子に、隆子・龍子があきれ顔になる。

「えっと、信子さん、今、撃墜は最後の最後って言ってませんでしたっけ?」

「はい、撃墜は最後の最後です」

「なのにミサイルなんですか?」

「ああ、はいはい、ミサイルは普通撃墜させますね」

「違うんですか?」

「ミサイルを落とすためのミサイルなんです」

 隆子も龍子も表情が明るくなる。

 スクリーンに映し出される映像に、

「先日テストの映像です、ヘッドオンで発射されたミサイルを落とすミサイルです」

 正面から向かってくるミサイルを、問題のミサイルが発射され、撃墜する。

「おお、ミサイル、撃墜しました、すご!」

「おお、大したもんだな」

 信子が画面を切り替えて、

「潜水艦の魚雷を参考にしたものです、敵のミサイルに向かって飛んで行き、爆発して巻き込む」

「思いつきで作ったにしてはよく出来てるじゃないか、撃墜できるとは思わなかった」

 龍子がうなずくのに、信子は画面をかえながら、

「対ドローン用に設計されていたのを転用したものです……ミサイルは撃墜できますが……」

「うん?」

「どうしたんです?」

「敵機に近接しても爆発します」

 隆子がニコニコしながら、

「敵機も落とせるなら、万能で……」

 龍子のチョップで☆を散らす隆子。

 うずくまってしまう隆子をよそに、龍子は難しい顔で、

「近接爆発は対空射撃でもあるな、近くで爆発すれば落とせるだろう」

「近くで、直撃で撃墜できます、出来るだけ敵機の近くで爆発しないように撃ってください」

 うずくまっていた隆子が顔を上げると、

「わたしをポンポン叩かないでくださいっ!」

「隆子が余計な事を言うからだ」

「余計な事ってなんですか?」

「撃墜できる~とかだ」

「撃墜できたらよくないですか? ミサイルだけでなく、敵機も」

「あのな~」

「なんです? 龍子さん?」

「今ならドラケンだが、撃墜したらどうなると思う?」

「どうなるんです?」

 龍子は消していたTVをつけて、

「ほら、吉井さんがいじめられてるだろうが」

「いじめられている……」

 画面では吉井が壇上でしゃべろうとしているのに、批難を浴びて固まっているシーンが映っている。

「ドラケン撃墜したら、また世論がうるさくなるだろーが!」

 って、語る龍子の頭に信子のチョップ。

「龍子さん、ちゃんと説明してください」

「信子、ちゃんと説明しているだろうが」

「どこがですか!」

「世論がうるさくなるじゃないか!」

 龍子が言うのに信子は嫌そうな顔をしながら、

「隆子さん、ドラケンなり、F‐16なりを撃墜します……するとどうなります」

「どうかなるんです?」

「ふう~」

「どうなるんです?」

 黙りこむ信子に代わって龍子が、

「お前、戦闘機撃墜されたら、激怒するだろうが!」

「あ! そーゆー事ですか!」

「戦争のきっかけになるだろうが!」

「はいはい、そうですね、なるほどー」

「だから簡単に撃墜とかしたらいけねーんだよ」

「解りました……でもですね」

「うん?」

「だったらこの空母も攻撃されないんじゃないですか?」

「!」

「この空母を攻撃したら、こっちも仕返す口実って事ですよね?」

「仕返す……口実……」

 龍子は隆子をチョップしながら、

「この空母を造った事自体が火種なんだよ、このバーカ」

「もう、ポンポン叩かないでくださいっ!」 


 U基地に駐機するJ35。

 官舎では出撃命令を待つマルガリータとヘンリエッタが曇る窓から空を見つめていた。

「あの~、隊長~」

「何だ、ヘンリエッタ?」

「命令は~まだ~」

「出撃命令はまだだ」

 長い銀髪を揺らしながらムッとした顔でいるマルガリータ。

「隊長、大体いつまでこんな事を続けるんでしょう?」

「ヘンリエッタ、何が言いたいのだ?」

 さっきから「隊長」と言っているヘンリエッタは、うんざりした顔で窓際から離れた。

 テーブルに着くと、ティーカップを引き寄せて、

「あの~でっかい~空母~、さっさと~沈めて~帰りましょ~」

「何を言っているのか!」

「何って、早く帰りたい、ここはなんか、何も無いし」

「ヘンリエッタ、貴方は何をしに、ここまで来たっ!」

「巨大空母~撃沈~」

「我々はあの危険な空母を撃沈する為に派遣されているのだっ!」

「だから~巨大空母~撃沈で~正解~」

「むう……」

 ヘンリエッタがティーカップを口元に……そんな手をマルガリータが止める。

「お茶はやめろ、いつ出撃命令が出るかわからん」

「隊長~、いいってば~、ワタシは~」

「何がいいのだ、お茶なんか飲んでいる場合では!」

「隊長~、ワタシは~いいんですよ~、ワタシは~」

「何がいい……」

 マルガリータがとめるのに、ティーカップを置いたヘンリエッタは立ち上がるとベルトを緩め、ズボンを下ろすと、

「ほら~、隊長~、ワタシのパンツ見て~」

「ななな!」

「任務中に~もよおしても~いいように~、紙パンツなんで~す!」

「ななな!」

 って、マルガリータは我に返ると、

「そんなの、私だって任務中ははいている!」

「隊長~、ワタシ~、最近~いつスクランブル~かかるか~空気読めなくなって~」

「むう、確かに緊張の連続だな」

「もう~、面倒になって~、常着で~す、紙パ~ンツ」

「……」

「TV~見てても~、トイレいらず~」

「ちょ……ヘンリエッタ、お前っ!」

「3回~くらいは~、いけます~」

「ばっちいな、任務中以外は禁止だ」

「え~、楽チンなのに~」

「このバカ!」

 そんな部屋に金髪を揺らしながらエルザが入ってきた。

「出撃命令ですわ」

「エルザ少尉、ありがとう、任務の内容は?」

 すぐに歩み寄るマルガリータ、ヘンリエッタはため息をついて、テーブルにつっぷした。

 命令書を一緒になって覗き込むエルザとマルガリータ。

「今回も偵察任務ですわ」

「そうか……」

「マルガリータ少尉……不満でも?」

「いえ……軍事的脅威を排除する為に派遣されたのに、いつもいつも偵察」

「確かに……そうですわね……」

「エルザ少尉のTNDも泣いてませんか?」

 途端にエルザの表情が曇った。

 自らの金髪を指先に絡めながら、

「そちらのドラケンですが……」

「!」

「本気で排除の気持ちがあるのか、疑いたくなりますわ」

「!」

「末端のパイロットであるマルガリータ少尉やヘンリエッタ空曹に聞くのもなんですが……」

「……」

「退役したドラケンを出して来る……疑いたくもなりますわ」

 じっと見つめる……にらむエルザにマルガリータはただ立ち尽くすだけだ。

 一瞬は反論しそうになったものの、エルザの視線に言葉が出なかった。

「あら、出撃時間ですわ、急ぎましょう」

 行ってしまうエルザ、その後ろ姿をマルガリータはただ見送った。

「ねぇ~、隊長~」

「何だ、ヘンリエッタ」

「ワタシ~、本国を~出るまでは~ビゲン~でした~」

「……」

「こっちに~派遣決まって~ドラケンなんですよ~」

「何が言いたいのですか?」

「今の~話の~続き~」

「うう……」

「隊長も~思ってる~んですよね~」

「それは確かにそうだが……」

 返事に困っていたマルガリータ、でも、すぐにキリリとした表情に戻ると、

「今はともかく出撃だ、早く出るぞ!」

「は~い」

「それと紙パンツは出撃の時だけだ!」

「え~!」

「『えー』じゃない、『えー』じゃ!」

「え~!」


 隆子と龍子の「えふに」が要撃に上がっていた。

「龍子さーん」

「何だ、隆子」

「敵は何なんですかね」

「?」

「わたし、あの地球防衛軍みたいな戦闘機を落としたくないです」

「おいおい隆子、この間撃墜したらダメって言わなかったか」

「それはそうですが、このミサイル……」

 隆子がちらっと翼端のミサイルに目をやる。

 この間説明のあった「対ミサイル」ミサイルが搭載されていた。

「敵機に当たったら落ちちゃうって話じゃないですか」

「だからミサイルに向けて発射しろって言ったじゃないか」

「でもでも軌道がそれたりしたら……」

「まぁ、なぁ」

 龍子はレーダーを確認しながら、

「このミサイルは一応ヘッドオンで撃つ事になってる」

「正面正面ですよね」

「ああ、正面から撃たれたミサイル、回避行動はわかってるな」

「はい……」

「回避すると後ろに付かれる事になる」

「そのパターンになっちゃいますよね」

「チャフやフレアもヘッドオンじゃな」

「このミサイルで、飛んでくるミサイルを落とせば、回避行動とらなくて~ですよね」

「しかしな~、当たる保障もないしな~」

「うえ! 当たらなかったらどうなるんでしょう?」

「そりゃ、回避行動とらないわけだから、ミサイルに突っ込む事になるよな」

「うえ! ミサイルに当たっちゃうじゃないですか!」

「一応テストじゃ百発百中みたいだぞ、どんなミサイルでチェックしたか知らんが」

「うう……大丈夫なんでしょうか?」

「信じる他ないんじゃないか?」

 隆子は嫌そうな顔でレーダーを見る。

 敵機の点がミサイルのレンジに入ってきた。

「龍子さん、敵機ですっ!」

「おう、隆子、尻尾を立てろっ!」

「はい、尻尾を立てろっ!」

「正面だ、ミサイル準備!」

「はい、ロック解除、レーダー照射開始」

 静まり返るコクピット。

 普段ならレーダー照射の警告が鳴っている頃だ。

 レーダーの点がさらに近付く。

「龍子さんっ!」

「撃ってこないな、嫌な予感がするっ!」

 正面にキラリと光る点。

 隆子・龍子の表情に緊張走った。

 そんな点が一瞬で頭上を通り過ぎる。

「龍子さんっ!」

「うおっ! 無視して空母に向かいやがった!」

 龍子がロールして反転を開始。

 隆子もすぐに倣った。

 旋回するGできしむコクピットで隆子が、

「ミサイル、撃った方がよかったでしょうか?」

「いや、こっちから撃つのはマズイ!」

「でも!」

「あいつら、こっちが先制攻撃出来ないって思ってやがる」

「実際出来ませんよね」

「そ、そうだな」

「でも、突破されたのはまずくないです?」

「すごいマズイ、旋回しても……」

 反転した龍子と隆子。

 レーダーの点は画面から消えようとしていた。

「隆子っ! 全開だーっ!」

「了解でーすっ!」

 アフターバーナーでダッシュを決める「えふに」。

「龍子さんっ!」

「何だっ!」

「追いつきますっ!」

「何っ!」

 実際、すれ違った敵機がどんどん近付いて来る。

「どうなってるんでしょう!」

「私の方が聞きたいっ!」

 しかしすぐに龍子は気付いた。

 空母の方からもう2つ、点が接近しているのがレーダーに映っていた。

「バックアップが出撃したんだ、敵機に追いつくぞ」

 龍子は再加速して敵機の背後についた。

 しかし、編隊を崩す事なく飛び続ける敵機。

「龍子さん、3機編隊です」

「ああ、だな、2機はドラケン、1機はTND」

「TND……でっかいミサイル積んでますよ」

「だな……対艦ミサイルだな」

 二人の機体は編隊の後ろにぴったり着けて、

「ともかく回線つないで帰るように言え」

「え? わたしが?」

「命令だ!」

「いいんですか?」

 隆子は一度深呼吸するも、

「あの、龍子さん」

「何だ?」

「龍子さんの方がよくないですか?」

「いや、私が言うより、隆子の方がいいような気がするんだ」

「命令なら……」

「命令だ!」

「では!」

 隆子は深呼吸してから、全回線で、

「前の飛行機、止まってくださーい、空母に近付かないでくださーい」

 龍子が、そして警告された3機が一瞬グラついた。

「空母はわたしのお家です、沈められたら家無しです」

 さらに3機がグラついた。

 龍子は力無く笑いながら、

『隆子、帰ったら折檻だ』

 なんて思いながらも、次にどんな「笑い」が飛び出すか楽しみになっていた。

 すると隆子、龍子のラジオの返事が入る。

『了解~、今日は帰りま~す』

 3機のうちの2機がブレ、龍子も大きく機体を揺らした。

『こちら~、ヘンリエッタ空曹で~す~』

「!」

 隆子も龍子も敵機が名乗ったのに、

「あ、こちらも遅れまして、隆子です、西郷隆子」

『では~』

 1機のドラケンがさっさと向きを変えて北に飛び始めるのに、びっくりしたように残りの2機も向きを変える。

 一応隆子・龍子も後に続き、しばらく3機の様子を伺っていた。

「龍子さん龍子さん」

「なんだ、隆子」

「わたし、敵の周波数ゲットです」

「おお、しかしスクランブル(暗号)かかってねーか?」

「わたし、W基地にいたんですよ」

「なんだよ?」

「暇だから、無線とかラジオとか聞いてたんです」

「だからなんだよ?」

「敵機のスクランブル、解除できるかもしれません」

「なっ!」

「ちょっとやってみますね」

 隆子はW基地時代に暇つぶしにやっていた無線傍受のアプリを起動する。

 すぐに適合するデータとぶつかった。

「えへへ、スクランブル解除です、何話してるんでしょうね」

「おいおい、隆子、お前W基地で何やってたんだ」

「W基地は最北の基地ですよ、無線傍受やるでしょ、普通」

「スクランブルまで解除できるのか!」

「だって解除しないと話の内容わかりませんよね」

 隆子はスクランブルを解除した音声を、そのまま龍子の方にも流した。

 一瞬のノイズの後、

『コラ、ヘンリエッタ、貴様何を勝手にっ!』

『え~、だって~、もう1編隊上がってきたし~』

『だからって何勝手に!』

『どうせ~偵察~だし~』

『あっちは先に撃てないんだ、もっと空母に接近してっ!』

「先に撃てない」を聞いて龍子も隆子も笑っていた。

『見たい~TVも~あるし~』

 ヘンリエッタの言葉に、今まで黙っていた新しい声が、

『ヘンリエッタ空曹、そんな理由で反転したのですかっ!』

『トイレも~』

『しゅ、出撃前に飲んでたんですかっ!』

『お酒は~飲んでな~い~』

『ジュースとか、たくさん飲んだんですか?』

『いちりっとるほど~』

『バカーっ!』

 まだまだ続く漫才に、龍子は隆子に、

「なぁ、隆子」

「なんですか、龍子さん」

「無線筒抜けだって言ってやれ」

「スクランブル解除できても、割り込めません」

「相手のチャンネルに普通に呼びかければいいだろ」

「あ、それはできます……でもでも信じますかね?」

「『いちりっとるほど~』」

 龍子のモノマネに隆子はうなづきながら、

「あのー!」

 隆子の呼び掛けに返事はない。

「無線筒抜けなんですけどー!」

 返事は、やはりなかった。

「ジュース一リットルはどうなんでしょ?」

 途端に3機のうち2機の動きがぶれる。

 微動だにしなかった1機が速度を緩めて、隆子の機体に並んだ。

 隆子はじっとドラケンのコクピットを見、目が合ってから、

「ヘンリエッタさんですか?」

『そうだ~』

「出撃前に飲んだら、おしっこ行きたくなりますよ」

『命令が~いきなり~出るのが~おかしい~』

「基地まで大丈夫ですか? 空母に寄りますか?」

『おお~空母のトイレ~貸してくれるか~』

「わたしは別にかまいませんが……」

 隆子が龍子のコクピットを覗くと、首を横に振っているのが見えた。

「龍子さんがダメだって」

『普通~そうだ~思うぞ~』

「あ、でしたね、敵ですもんね」

『そうだ~』

「でもでも、トイレ、大丈夫ですか?」

『無理だ~』

「やっぱり寄りますか?」

『まかせろ~こんな事も~あろうかと~紙パンツ~はいているのだ~』

 って、前を飛んでいたTNDが急に宙返り。

 あっという間にヘンリエッタ・隆子・龍子のバックに着く。

『気遣い~感謝する~、エルザが~怒ってる~ばいばーい』

 バックに付いたTNDは容赦なく撃ち始めた。

 それもドラケンに向けて。

『隆子~またな~』

 アフターバーナーを吹かして行ってしまうヘンリエッタのドラケン。

 今度は隆子の隣にTNDが並ぶ。

 また、パイロット同士で目が合った。

「えっと、エルザさんですか?」

 隆子は笑顔で言ったけれども、エルザの表情は和らぐ事はなかった。

 ほんの1~2秒の間、目が合う。

 でも、隆子はエルザの表情がこわいのに、とんでもなく長い時間に思えていた。

 エルザのTNDが思い出したように加速し、ドラケンに向けて撃ちまくる。

 取り残された隆子と龍子は、

「龍子さん、行っちゃいましたよ」

「ああ、なんだったんだろうな」

「偵察って言ってましたよ」

「だな~」

 そんな二人の「えふに」に上がってきたF‐1とF‐5が並ぶ。

『大丈夫ですか、龍子さん、隆子さん』

 F‐5のパイロットは信子だった。

 隆子が、

「F‐1は誰なんですか?」

 そんな呼び掛けに答えるように、

『整備の憲史でーす』

 そう言いながらヘルメットのシールドを上げてみせる憲史。

 4機は編隊を維持しながら、空母に向かって旋回した。


gw_006 for web(gw_006.txt/htm)

NCP2.5(2016)

(C)2016 KAS/SHK


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