厳しい条件
あれもこれもと手を出しすぎると全体の効率が落ちるので一個一個のレベルをあげていくという親父の方針には賛成だ。最終的にはどうせ気に入ったスキルを多用するとしても多様性は確保しておかなければ、いざという時に困るからな。目指せ器用貧乏を目標に新しく取得した火魔法スキルのレベルを湯船の中に火を熾して上げている。
「うおォン!俺は人間火力発電所だああああ!」
ガチャ
凄く冷めた目をした親父が俺も見ている。
「……何をしているのだバカ息子?」
「お、親父……なぜ」
「なぁに、久々にお前と風呂にでも入ろうと思ってな」
「へー、へぇーー、もしかして聞こえてた……?」
「うおォン!」
そこ茶目っ気たっぷりに返さなくていいから。ほんといいから。そういうの。
「気配消していきなり現れるのやめてくんない?最近多くない?」
「魔法なんぞにうつつを抜かしているからだ。ちゃんと森で修行してるんだろうな?もちろん魔法のじゃないぞ?」
「やってま……」
「最後まで言わないことでごまかそうとするな。ちゃんとわかってるんだぞ」
「え、なんで。親父ひょっとして四六時中俺監視してんの?」
「そんな暇人じゃないわい。あとで書斎に来い」
「は、はい」
逃げるように風呂から出る。
なぜだ、なぜバレたし。
考えてもわからなかったので素直に書斎に出頭する。
お説教なのは間違いない三時間正座コースだろう。
コンコン
「入れ」
「はい」
「ここ最近随分と火魔法にご執心のようだな?」
「いえ、そんなことは……」
「ほう。ではなぜ他のスキルのレベルは一切あがっていないのに火魔法のスキルレベルは2もあがっている?」
「!!!」
「次にお前は「なぜわかったんですか?」と言う」
「なぜわかったんですか?――ハッ!」
「まだまだよの、ロックよ。欺けるわけがなかろう」
「”見た”んですね?」
「わかっているじゃないか」
「親父に合わせてあげたんですよ」
「……ゴホン。お前のことだからおおよそは察していると思うが、鑑定スキルだ」
「その鑑定スキルとやらを教えてくれたりするんですかね?」
「お前次第だ。きちんと裏家業の修行するなら考えなくもない」
「やります!がんばります!超がんばりまぁす!!」
「では、ひとつ条件を出そう。魔法スキル以外のスキルを二つ、LV5まであげろ。それが条件だ」
「おぅふ……や、やってやんよ!」
お説教ではなかったものの、喉から手が出るほど欲しいスキルを手に入れる条件がLV5を二つだなんて。蛇の生殺しじゃないか。というか、LV5って一流レベルだよな。それを二つって。
なんか無駄に交渉術が発動して勝手に条件付けされるように誘導した結果なんじゃないか?
結果オーライになるには条件を達成するしかないのか。
自信なんてものはないけど頑張ろう。なんとかなる。……はず。
部屋に戻って一人作戦会議だ。
「うぅむ、とりあえず現状確認だな。ステータス」
レベル:16
HP:430
MP:525
スキル
≪隠密LV3≫ ≪気配察知LV3≫ ≪忍び足LV3≫ ≪暗殺術LV3≫
≪投擲LV3≫ ≪短剣LV2≫ ≪弓LV2≫ ≪薬学LV2≫
≪聖魔法LV2≫ ≪魔力操作LV2≫ ≪近接格闘LV2≫
≪魔力感知LV2≫ ≪身体強化魔法LV2≫ ≪交渉術LV1≫
≪火魔法LV3≫
魔法系スキルを除いてLV3が4つ、LV2が4つ。交渉術は論外だ。
しかし、下手に暗殺術とかのレベルを上げてしまうと、この年で必殺仕事人になってしまうなぁ。それだけは阻止しなければいけない。
となると、武器スキル系か?いやだめだ。武芸で一流なんて何年かかるかわかったものではない。
いっそのこと新しいスキルを開拓していくか?
うーん、思いつかない。
悩みに悩みまくった結果、一つの結論に達した。
「やはりこれしかないか。超危険だけど、うん、これしかない。」