言いたいことも言えない
図書館に通い、世界のことをだいぶ知ることができた。この世界はクロヴァースというらしい。ざっくりいうとまず混沌があり、破壊と再生をして今に至った。これは推測だが、元々この世界を作った神が混沌を司っていたんだろう。それで破壊と再生を司る神がやってきてテコ入れしていってくれたんだろう。混沌なだけでは何も生まないし、破壊と再生をし、万物は流転する。なんだか、俺が転生したのはこっちの世界の輪廻に偶然、引っかかったような気がしないでもない。そして、主に破壊と再生の神の方を信仰しているらしいということがわかった。一部では、混沌の神も人気らしい。まぁ一定数いるよね、そういう人達。
フェンリル様はどっちかというと再生寄りの神獣様で、破壊寄りの神獣様もこの世界には存在しているらしい。うん、こっちは様付けしなくていいかも。ダンジョンとか魔物を作り出してるのも破壊の神獣らしい。それでも、ダンジョン内のお宝とか生成してるし、どちらにしろ基本的に両方できるってことなんだろうな。あと不死身で再生寄りの神獣様と破壊寄りの神獣の仲が悪くて500年ぐらいずっと戦ってたのは有名な伝説となっている。決着つかないなら最初から喧嘩すんなよな。
しかしまぁ、バランサーとして再生と破壊の神はすごく優秀じゃないか。尊敬しちゃうね。俺も教会行きたくなった。
世界の成り立ちは基本だから押さえておいたが、他にもだいたいの地理や歴史も調べておいた。今、俺が住んでいる場所は王都から二日ほど西にいった距離でアルテアという。ちなみに王都はキュクロースといって古代の巨大遺跡の場所を使っているらしい。でかいとかっこいいからね。
国の歴史としては、だいたいが古代遺跡やダンジョンの近くを利用して寄り集まったのが始まりと言われていて、これまたご他聞にもれず、ダンジョンの資源や古代遺跡から発掘される古代文明の遺産を巡って利権争いが頻発している。
それもこれも500年前にあっとされる神獣大戦争でぶっ壊しまくったせいだ。今ではそれが破壊と再生の儀式なのではないか?という説が一般的である。
アルテアから東に二つの国、北にリュラン国・南にシグニ国がある。二つの国の境界付近といってもリュラン国側にダンジョンが発見されてそれを巡って対立している。そして、それを影ながら両方援助しつつおいしい思いをしているのが、俺の住んでるクロース国なんだなぁ。長期化させて疲弊したところを……なんてわかりやすいこと狙ってるんだろう。誰だってそーする、俺もそーする。
別にうちの国は弱小国というわけでもない。だてにクロヴァースから国名を取っていない。あの大戦争の時代でも首都みたいな重要な位置だったらしく、戦禍を免れているし遺跡からの発掘品を研究してマジックアイテムを生産している。歴史的に見れば稀に見る長寿国だろう。ただ不思議なのは、その古代の文明や500年前の人達については謎が多いということだ。脈々と繋がっていたら発掘なんてしていないだろう。歴史に空白があるから色んなものをロストして、それを発掘している。
そんな中、我がグリード家は暗躍している。自分の国クロースからは秘匿されているお宝を盗んだり、貴族たちの漁夫の利で得た金を頂いているし、リュラン国とシグニ国はお得意様なのである。こんなお勉強をしたところで、殺れと言われれば殺るのが仕事なんだから関係ないよね。ってふと我に返ってしまったのでお勉強タイムは終わった。それよりも、力こそパワー。修行です。
図書館から帰ってきたらすでに夕飯の時間で、いつものように自分の席に座り夕食を食べようとした時、何か嫌な違和感を感じた。なんだか味が苦く感じた。
よく食べているシチューなのにおかしいなと思ったが、そもそも野菜とか厳密な品質管理をされているわけでもないからよくあることなのだとスルーした。
それが過ちだったとわかったのは部屋に戻ってからだった。
どうしようもなく気分が悪い。とりあえず横になって安静に……ってタイミングでドアがノックされて返事をする。
コン
「はい」
「入るぞ」
いつもノックは一回なのが親父。二回も鳴らして気付くようではダメってことらしい。うちでは親父しか実践してないし、誰が来たかわかりやすいだけなんだが。
「で、どうだ?」
ベットに横たわる俺を見てどうだもくそもない。
「……すごく気分が悪いです」
「今日から毒に慣れる修行をひっそりと開始したからな」
「そんな事後報告いらないです。気持ち悪いし」
「なぜお前は違和感を口に出さなかった?もし、無味の致死毒だったら死んでいたぞ」
「不意打ちで毒殺とか回避できるとは思えませんが」
「毒見役がいることが多いが、遅効性ならば気付かれにくい。また、普通に戦闘においても使用する。そのためだ」
「そして相手も毒攻撃をしてくる可能性があるからって理由ですか」
「そのとおりだ。これから毎日、お前に毒を盛る」
「それより解毒薬の作り方とか教えてくれませんかね」
「これを読んで自分で作れ。最近、お前図書館に通うほど本が好きになったんだろう?」
分厚いノートをほいと渡された。ちらっとページをめくるとびっしり記述してある。
「ついでに暗号化してあるので暗号解読の訓練にもなっている。今回盛った毒は初級の解毒薬で治る。全然たいしたことない毒だぞ」
「・・・・・・」
「この修行は毒耐性・暗号解読・調合と、一石三鳥だ。素晴らしいだろ。あ、あとこれが調合道具だ。渡しておく。」
やりたいことはやったと言わんばかりな満足顔をして俺の部屋を出て行く親父。
もう何も言い返す気力がなかった。本を読んでいたら、暗号化された本を渡されて解読して解毒薬を作れってわけがわからないよ。
ひとつわかったのは、親父が意外と効率厨だったことだ。
すべて、空白の三年が悪いのか……。
そんなことを考えながら暗号解読を開始する。