かくれんぼ
「探さないでくださいっと。これでよし」
ありがちな置手紙を部屋に残し、俺は家を出る。
家のみんながまだ寝ている頃、俺は町を出て行く。
なんて思わせぶりに家出してきたけど、ちゃんと置手紙で説明をしてある。
厳しい条件の抗議として「お父様との約束を果たすため、旅に出ます」って感じの内容だ。俺がいない間に、母から怒られること間違いなし。ロニ兄にはきちんと何をするか説明してきたし、親父が俺を探さないように頼んである。
ま、案外近くにいるんですけどね。
これから自分のすることから目をそらすように現実逃避している間に、いつもの森に着いてしまった。
俺の庭といっても過言ではないいつもの森だが、これから俺が行こうとしているのはもっと森の奥深く神獣の領域だ。
普段、冒険者や俺が出入りしている森の部分は比較的安全エリアで、これから行く神獣の領域とは一流の冒険者も滅多に立ち入らないデンジャラスゾーン。
なぜ神獣なのかといえば、神獣フェンリルがいて、その領域を縄張りとしているかららしい。
とりあえず、縄張りに近い場所に拠点へ移動する。
そしてご挨拶に伺わなくては。
なんでも言い伝えによると、一応話は通じるみたいだし、協力してくれればいいんだけど。
ダメだったらその時また考えよう。ちゃんと貢物も持ってきたし、なんとかなってほしい。
拠点に到着した頃にはもう太陽が真上になっていた。
「それじゃあ、いきますか」
背負子に山ほどの貢物を詰め込んでデンジャラスゾーンへ足を踏み入れる。
ぞくり。なんかもう嫌な予感がビンビンです。
森も深くなって、日が当たらないのか地面がジメジメしている。
歩きにくいったらありゃしない。
隠密や気配察知、忍び足もフルで使用しつつ、魔物を避けてどんどん進む。
「!!?」
なにか来る!
「ってもう来たッ!」
早い!早いよ!まだ心の準備が!!
「なんの用だ人間」
「強くなりにきました」
「ほう。いい度胸だ。どれ、ワシがいっちょひねってやろうか」
「やめてください死んでしまいます」
「死ぬ覚悟もなくここに来たというのか?」
「強くなる前に死ぬなんてごめんです」
「一理ある」
「え?」
「ん?」
「・・・・・・・」
沈黙はまずい。なんかよくわかんないけど今のうちに貢物攻撃を
「あの~フェンリル様?お世話になるのでどうぞこれをお納めください」
そういって、背負子を下ろし、フェンリル様の眼前に置く。
クンクン
「お主、魚を持ってくるとはなかなかわかっておるな」
「喜んでいただけで嬉しく思います」
貢物作戦は成功したみたいだ。
なんかもう食ってるし。ちょろいちょろい。
「して、お主、どう強くなりたいのだ?」
「勝てない戦いを避けるようにできる強さを望みます」
「ふむ、なるほど。あいわかった。理由は問わぬ。やってみるがよい」
「ありがとうございます。そこでフェンリル様にお願いがあるのです」
お願いと言った瞬間、ものすごく睨まれる。
「たかが人間が、我にお願いできるほどいつのまに偉くなった」
「もちろん、タダでとは言いません。先ほどの魚を気に入ったご様子。よろしければまたご用意したく」
「ふむ」
「その変わりといってはなんですが、私の修行に時々でいいので付き合っていただければ、と」
「まぁいいじゃろう。お主、名はなんという?」
「ロックといいます」
「ではロックよ、また会おう」
言い終わったと思ったら、もうそこにフェンリル様の姿はなかった。
「ふぅ。なんとかうまくいったかな」
脇汗ダッラダラである。怖かったー。
でも、魚でフェンリル様が釣れるのがわかったので賄賂作戦で懐柔していこう。
何気に交渉術って優秀なスキルじゃないか?
持ってて良かった交渉術!
親父と無駄に交渉し続けた甲斐があった。ありがとう親父。
そうして、俺の神獣の領域での修行は始まった。
具体的にやることと言えば、隠密・気配察知・忍び足でかくれんぼをすることだ。
この一流冒険者さえ滅多に立ち入らない領域で修行すればLV5ぐらいなんとかなるんじゃないか。という算段である。
無論、デンジャラスゾーンなだけに、超強い魔物とかいるけど、そこはもう死ぬ気で逃げたり隠れたりするしかない。
死なないうちに家に帰れるといいな……。
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レベル:16
HP:430
MP:525
スキル
≪隠密LV3≫ ≪気配察知LV3≫ ≪忍び足LV3≫ ≪暗殺術LV3≫
≪投擲LV3≫ ≪短剣LV2≫ ≪弓LV2≫ ≪薬学LV2≫
≪聖魔法LV2≫ ≪魔力操作LV2≫ ≪近接格闘LV2≫
≪魔力感知LV2≫ ≪身体強化魔法LV2≫ ≪交渉術LV2≫
≪火魔法LV3≫