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伯爵子息

キューベレよりも、よっぽどお兄様の方が強敵だと思った夜会の日から数日が経ったある日、お父様から客間に来るようにと言われた。

言われた通り、客間へ向かうと、一人の男性が立っていた。

無表情ではあるが、表情の無さでその美貌が衰えることはなく、彼の作り物めいたその容姿が際立っており、喋らなければまるで巧妙に出来た人形なのだと言われても納得してしまいそうだった。

私が来たことに気付くと、座っていた席から立ち上がり、扉の方へと歩いて来た。



「ひさしぶり、サーシャ」


「お久しぶりですわ、フラン」



フラン・ハミルトン。涼しげな蒼い髪をした神が作り給うた美貌を持つと言われる伯爵子息。

そう、彼も攻略対象のうちの一人だ。



フランルートでは、アンヌは男爵が紹介した娘というのを知りたがる人との会話に疲れた彼女は壁際に立って、一息ついて食事に行こうとする。しかし、そこに話しかけるものが居た。それがフランだった。フランとのイベントはフランに感情を教えたり、フランが困っているところを救ったりという彼女の優しさが際立つものが多かった。しかし、フランルートは私はあまり好きではなかった。佳境のイベントがなんというか、納得いかなかったのだ。


「アンヌ、分からないものがある。アンヌを思うと、胸がぎゅっとなる。これは何?」

「それは、その、好きって言うものだと思う」

「好き?」

「うん! 私も、フランのことが好き!」


と言った感じでくっつくのだが、アンヌが好きという感情だと思いこませただけなんじゃないかっていう気持ちで一杯になった。胸がぎゅっとなるのって、好きって感情だけじゃないと思うんだよね、という具合で納得していなかった。

友情ルートでアンヌのコミュ力をただ見習おうとしてただけだと言うことが分かったことも、私の考えに拍車をかけていた。



そして、このフランなのだが、実はハミルトン伯爵と、私のお父様であるブラッドリー侯爵の仲が良く、小さいころからフランはよく私の屋敷に遊びに来たり、お父様が私とお兄様をつれて、伯爵の屋敷に遊びに行ったりもしたのだ。

これ、ゲーム内では出てきてないけど、ヤンデレ発揮の時にもしかして出てきちゃうのかなあ……。もしかしなくても、貴族のヤンデレの相手は全部サーシャなのかなあ、ちょっとご遠慮願いたいなあ……と思いつつ、久し振りに私の屋敷へ来たフランを歓迎した。



「サーシャ、会いたかった」


「私も会いたかったですわ、フラン。今回はどれくらい滞在するご予定なのですか?」


「ううん、今回は滞在じゃなくて挨拶に来た」


「挨拶ですか?」


「うん。父さん新しい領土貰った。それが、ブラッドリー伯爵の領土の隣だったから、せっかくだから前の領主の屋敷を増築してそこに越してきた」


「ほ、本当ですの?」


「俺、サーシャに嘘は言わない。ひどい、サーシャ」


「も、申し訳ありませんわフラン」


「サーシャがぎゅってするまで許さない」


「え」


「ん」



両手を広げて私がフランに抱きつくのを待つ姿勢のフラン。これは抱きついた方がいいの……?

悩んでいると、扉に背を向けていたフランの頭をスパーンと小気味いい音がするくらい綺麗に叩いた人がいた。

言うまでもなく、その人とはお兄様だった。



「僕の可愛い妹に対して、理不尽な要求をしないでくれる? サーシャだって困ってるだろう?」


「アラン、ひどい。それがひさしぶりに会った幼馴染に対する態度?」


「お前にはこの態度で十分だと僕は思ったまでだけど」


「やっぱりひどい。サーシャ、慰めて」


「駄犬でももっと言うことを聞くよ?」


「俺は犬じゃない。もしも犬だとしても、サーシャには忠犬になる」



言っている内容は、この前のキューベレの時と比べると可愛いものだが、狼と虎が戦っているような背景が見えるのは、私の目が疲れているせいなんでしょうか、いいえ、違うでしょう。

私、モッテモッテー。死亡フラグが乱立してる気分だわー。

二人に対抗して、負のオーラを撒き散らしつつ黄昏れていると、争いを止めた二人が何か真剣に話し合う体勢に変わっていた。

争っていても、一応幼馴染だから、仲はいいのだろう。同じ性別ということもあるし。

黄昏るのをやめて、今後について真剣に考えることにした。



フランが主人公の父親である男爵の領土の近くに越して来たということは、そろそろ物語も始まるという可能性高い。越して来たばかりで、こちらの友人が少ないと、友情ルートで確か言っていたはずだ。

私は物語が始まった時、どうすればいいのだろうか。ゲームでは、彼女は三タイプ。謙虚・天然・知的。このうちのどれか一つになるのだが、ここは現実だ。

人間と言うものの性質は一つではないし、自分ですら知らない顔も持ち合わせているものだ。だから、はっきりとタイプが分からないと仮定しておく。


そして、どのタイプだとしても、問題となるのは、私はルートを成功させるようにするべきか、友情止まりにさせておくべきかということだ。

平民の人とのルートであれば、成功するように動いてもいい。だが、貴族ルートの場合、私は狂愛を身に受ける可能性が高い。

だから、貴族ルートの時は、なんとしても阻止しよう。



そう決意して、はたと気付いた。

私とキューベレが婚約してないから、そもそもフラン以外の貴族ルートは成立しないのではないかと。お兄様がヤンデレ爆発したのは婚約者ができたからだし、キューベレは良く分からないが、婚約者で無かったら、女の人と遊んでても浮気では無い。主人公が咎めても、キューベレの胸には響かないはずだ。

じゃあ、私はフランルートに入らないように注意しておけばいいのだなと安心したところで、二人を見た。


二人とも真剣な話し合いは終わっていたようで、また口喧嘩に戻っている。仲、良いんだよね……と、自分の考えに自信が持てなくなった私は、二人の仲裁をすることで場を収めた。



帰るのが名残惜しくなったフランが、「泊っていく」と言いだしたが、「お前が挨拶に来たって言ったんだよ」とお兄様に追い出されていたのを見て、ペットは家の中では飼えませんという風景が思い浮かんでしまった私は悪くないと思う。


フラン・ハミルトン

伯爵子息。サーシャとアランの間くらいの年齢。

涼しげな蒼い髪に、無表情さがミスマッチして、恐いくらいに美しいと言われている。

とある才能に特化している。

言葉はやや拙い。

わんこ属性。


ヤンデレルートはキューベレ同様、最終回の時にでも。


閲覧ありがとうございました。

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