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公爵子息

煌びやかな衣装に身を包んだ人たちが多く集まる場所。

そう、私は夜会に来ていた。これもある種、貴族の義務であるのだから、出席したり、開催することは必要不可欠だ。

だが、私はあまりこの雰囲気は得意では無く、香水の匂いで充満した部屋には長くは居られないだろうなとお父様とお兄様と共に主催した者に挨拶しながら思っていた。挨拶をし終えて、私たちは主催者から遠ざかった。すると、次は侯爵家である私達に挨拶しに来た者達がやってきた。自分たちの持ちへ来る者たちが収まったところで、お兄様が私に声をかけた。



「浮かない顔だね、サーシャ。挨拶は退屈だった?」


「そんなことはありませんわ。ただ、その、ちょっと……」


「ちょっと?」


「早く終わるといいと思っただけですわ」


「正直ものだね、サーシャ」



お兄様の楽しそうな声が返される。お兄様だって退屈だと思っているはずなのに、よくも顔に出さないで、あれほどまでに主催者を褒めたり、挨拶に対して笑顔で返せるものだと感心していると、お兄様が私の手を取った。



「なんですの、お兄様」


「僕と踊ってくれませんか、令嬢レディ?」



取った手を自分の口元まで持ち上げて、指先にキスをしながらダンスの誘いの言葉をかけられる。こんな仕草が似合うのは手慣れてるからだ、と赤くなりそうな自分を落ち着かせようとしたが、過去のお兄様の行動とゲーム知識から、お兄様がこんなことをしてきたのは、私以外にいないということが分かって、恥ずかしさが強まっただけだった。



「嫌なら無理にとは言わないよ」


「いいえ、お兄様。お誘い嬉しいですわ。私と一曲お願いできますか?」


「喜んで、僕の可愛い妹サーシャ



私の手と腰を掴んだお兄様と共に、踊っている人の中に入る。距離が近いが、踊っているからなので、それほど緊張はしなかった。

お兄様のエスコートに身を任せながら踊っていると、踊っているお兄様と目があった。



「何か言いたそうですわ」


「そうだね、お前はいつまで僕と踊ってくれるんだろうって考えてしまってね」



お兄様の言いたいことを隠している、物言いたげで、かつ憂い気なその視線に、これは答え方が重要だと気付いた。まっさらなサーシャだったら、「お嫁に行くまでですわ」とか答えそうだが、間違いなくそれは私にとってのバッドエンドルートに足を突っ込むことになりそうだ。



「お兄様が望むなら、私はいつだってお兄様と踊りますわ」


「本当かい? ふふ、嬉しいな」


「本当ですわお兄様」



二人の間に、まるで恋人のような甘い雰囲気が流れつつあったとき、ようやく一曲が終わった。一曲とお願いしていた私の頼み通り、そこでお兄様は私をダンスホールの外へ連れ出した。

そして、お兄様に向けられる熱い視線や、自分に向けられる熱情を孕んだ視線が向いていることを自覚した。その視線の持ち主が近づいて来ていたことや、運動後の荒くなった呼吸で香水の匂いをたくさん嗅いでしまったせいだろうか、私は軽い立ちくらみを起こした。

先程踊っていた時と同じように腰を掴むことで、お兄様は自分にもたれかからせて、ふらつくのを防いだ。



「まだ病みあがりだったのに、無理をさせてしまったようだね」


「そんなことありませんわ」


「大事をとって、お前は休憩してなさい。いいね?」


「はい、お兄様」



この前倒れそうになったのも、別に病気ではないので、病みあがりなどでは決してないのだが、この場に居たくなかったので、お兄様の提案に素直に頷いた。

お兄様は私に寄り添って、休憩室まで連れてきた。夜会では疲れた人用に、部屋が解放されているのだ。その一室で休んでおくように言われたので、椅子に腰かけた。

本当だったら仮眠を摂りたいのだが、そんなことしたらドレスがぐちゃぐちゃになってしまう。私は座ることで自分の疲れをとっていた。



一時間程して、コンコンと扉を叩く音がした。私が回復したかどうか、お兄様が確認しに来たのかしらと思った私は、「おにいさま?」と言ってから、扉を少し開けてみた。しかし、扉の前に立っていたのはお兄様では無かった。



「ブラッドリー侯爵子息で無くてすまないね」


「まあ、グレゴリー公爵子息ではありませんか」


「つれないな、キューベレでいいよ、君は」


「そんな……私がそのようにお呼びするなんて、おこがましいですわ」



キューベレ・グレゴリー。

金髪の長い髪、甘いマスクと甘い言葉は多くの貴婦人を狂わせた。現王の弟であるダレン・グレゴリー公爵を父に持つ。次期公爵なのだが、自由人。

彼もMy Fair Ladyの貴族ルートでの攻略可能人物のうちの一人である。また、ゲームの中ではサーシャの婚約者だ。



男爵が夜会でアンヌを娘として紹介し終わると、選択肢が出てくる。貴族ルートは最初に出てくるこの選択肢で誰ルートに入るか決まる。

選択肢は以下の三つ。


→人ごみに酔ってしまった

 壁際に立つ

 踊っている人を見る


「人ごみに酔ってしまった」を選ぶと、お兄様アランルート。

「壁際に立つ」を選択すると、伯爵子息ルート。

そして、「踊っている人を見る」を選ぶと、キューベレルートになる。



キューベレルートにするために、「踊っている人を見る」を選ぶと、キューベレがサーシャと踊っているスチルになる。アンヌはそれを遠くから眺める。

次にアンヌが夜会に出席する時は、夜会を開催した公爵の元へ男爵と共にアンヌが挨拶に行く。その時に、キューベレとサーシャが婚約をしているということを知り、ショックを受けるアンヌ。キューベレの横で笑顔で自己紹介をするサーシャのスチルは此処で手に入る。

さらに次にアンヌが夜会へと出席すると、キューベレがサーシャ以外の人と抱き合ってキスをしている姿を目にする。「婚約者がいるのに!」と食ってかかるアンヌに対して、「貴族では今のは常識だよ。 愛人を作ったり、好きな女性を囲ったり。そんなことも知らないのかい?」とキューベレはアンヌに言う。

「そんなの間違ってます。愛人とか、囲うとか……愛っていうのは、もっと神聖なものです!」そんなアンヌに「じゃあ、君が教えて見せてよ」とキューベレが返す。


そこから、キューベレにアンヌが愛を教えるとの名目で、アンヌは夜会の時は、キューベレの傍で、あれこれと注意をした。キューベレルートでは、淡い恋心を抱いている彼の傍に居られて幸せだ、ということや、彼と一緒に居る時はいつも、サーシャが居なかったので、もしかしたら、彼女にも浮気がばれて、婚約解消したのかもしれないな、などのアンヌの独白がよく入った。


ルートの佳境になると、キューベレは「もういいんじゃない?」とアンヌに問いかける。アンヌは彼の言う通り、彼は誰とも付き合わなくなった。じゃあ、もうこれが最後なのだと思ったアンヌは、キュベーレに対して告白をする。そんなアンヌに対して言葉を返さず、キュベーレは自分の話の続きをする。「君の言う通りにしたよ。ねえ、私は君の理想の通りになった?」と。彼は私の為に頑張っていたのだと、アンヌは喜ぶ。「愛している」とのアンヌの言葉にキスを返すキューベレ。



といった内容なのだが、キューベレは、アンヌに対して一言も愛の言葉や、婚約は解消したなどと言わなかった。また、アンヌの自己判断によるものが多かった。

そして、貴族は皆ヤンデレとのことだし、サーシャはお飾り結婚の相手になってしまい、アンヌに対してヤンデレを発揮してしまうのではないだろうか? いや、きっとそうだ。

キューベレまでサーシャにヤンデレを発揮だなんて、そんなことはないだろう。


……こんなことなら、アランルート以外もちゃんとヤンデレまで見ればよかったと思っていると、キューベレが中に入ってきた。



「まあ、グレゴリー様! 私、まだ入っていいと言っておりませんわ!」


「まだって言うことは言ってくれるつもりだったんだろう? じゃあ、いいじゃないか」


「そんなの屁理屈ですわ」


「恋に理屈なんていらないだろう?」


「はい?」



耳を疑う言葉が聞こえたので、キューベレの顔をまじまじと見ると、予想とは違い、真剣な顔をしていた。てっきり、口説く時用の甘い顔かと思っていたのに。しかし、これが口説くときの標準装備なのかもしれない。



「信じてもらえないかもしれないけど、私は君を愛しているんだよ、ブラッドリー令嬢。いや、サーシャ」


「嫌ですわ、グレゴリー公爵子息様。私よりも、貴方にお似合いの方も、貴方を愛している方だって、いらっしゃるでしょう?」


「確かにいるかもしれないが、私自身が愛しいと思うのは、貴方以外はあり得ないんだ」



キューベレが部屋の中に入ってきてから、じわじわと彼から離れようとしていたので、壁際へと追いつめられる。壁ドンされてしまうかと思われたが、神はまだ私を見捨てていなかった。



「グレゴリー公爵子息殿。一体何をされておいでですか?」


「ああ、ブラッドリー侯爵子息殿。何か用かい?」


「僕の可愛い妹の体調がどうなったか確かめに来たんですよ。あなたはどうなんですか」


「愛を囁きに来た。それじゃあいけないかい?」



お兄様とキューベレの間に冷たい風が流れる。部屋が一気に氷点下まで下がったように感じるほど、二人の間は冷え冷えとしていた。

私はここから退室してもいいでしょうかと言いたくなったが、触らぬ神に祟りなし。置物のように、暫く静かにしておくことにした。



「……友人であるキューベレ。今ならまだ僕は怒らないでいてあげるよ」


「親愛なるアラン。私のお義兄様になるつもりはないのかい」


「ないよ」


「間髪いれずに答えるものでもないだろうに。お父様や伯父様にも侯爵家に良くするように進言することも、その逆のことも私は出来るんだよ?」


「……キューベレ」


「はあ。君のお兄様は全く君が好きにも程があるね。君のこととなると、いつもの冷静さがなくなって、冷徹さが垣間見えるほどだよ」



キューベレとアランが友人だということはゲームでは出てこなかったが、年も近く、人目を引く容姿の二人だ。友人になるのも変ではないだろう。

しげしげとキューベレとアランを見ていると、何かを思いついたように、キューベレはアランの顔から視線を逸らし、私の方を向いた。



「君のお兄さんも怖いことだし、今回は諦めようかと思うが、君ともっと親しくなりたい」


「ですが……」



こわーい顔をして、キューベレの方を睨んでいるお兄様の顔を見る。しかし、キューベレはそのようなことは心得ているかのように、ニコニコ顔だった。



「だから今回は、君から名前で呼んでもらったら、退出するよ」


「……」


「アランだって私の名を呼んでいるし、グレゴリー公爵子息だなんて、毎回呼ぶのも疲れるだろう?」



確かに、グレゴリー公爵子息はかなり面倒くさい。グレゴリーまたはキューベレでいいじゃないかと思ったこと、今回のキューベレとの会話の間だけでも五回以上ある。



「名前で呼ぶくらいで目くじら立てるようなものはいないよ」


「わかりました、キューベレ様」


「うん、ありがとうサーシャ。アラン、君もサーシャの優しさを見習うべきだよ」



高笑いをしながら、キューベレは出て行った。そして、お兄様はというと、その身体から黒い何かを撒き散らしていた。実に恐ろしきはお兄様である。

しかし、このまま放っておくわけにもいくまい。放っておいたところで、お兄様とは帰る場所が同じである。明日にまで響かれては、私の小さな心臓が悲鳴をあげてしまうかもしれない。

心を決めた私はお兄様へと話しかけた。



「お兄様はグレゴリー公爵子息とご友人だったのですね」


「友人と言うよりも、腐れ縁というか、彼の方が面白がっているだけのような気もするけどね。彼は公爵の家系だし、現王にはまだ子供がいない。彼を王にしようという者もいるくらいだし、彼と僕は、彼からの接触が無ければ、関わりも無いんだよ」


「そうなんですの? それにしては、親しげに見えましたわ」


「そうなんだよ、サーシャ。……そうだ、サーシャ」


「はい、なんですかお兄様」


「僕のことも名前で呼んでみてよ」


「お、お兄様をですか?」


「キューベレが良くて、僕は駄目……だなんて勿論言わないよね?」



ニッコリと、キューベレのように近づいてくるお兄様が、キューベレはしなかった壁ドンをした。あれ、おかしいな、神は私を見捨てなかったんじゃなかったっけ、ただのキャラクターチェンジなだけだったのか、そっかぁ……。

遠い目をしながら悟りを開いていると、お兄様が不満そうな顔をする。何をされるかわかったもんじゃないので、私は逆らわなかった。



「アランお兄様。 ……これでよろしいですか?」


「うん」


「もう、殿方はよくわからないところで、対抗したがりますわね」



アランの気持ちなんて分かってませんよー、迫られて怒ってますよーな雰囲気を出しながら言うと、アランは不満気な顔から嬉しそうにしていた顔をこちらへ近付けて、私の前髪を払い、そのままそこにリップ音を立てて、キスをした。



「僕は他のことで競おうとなんてしないよ。僕の可愛い妹サーシャだからだよ」



また、気障なことをするな、この男はというどこか客観的な思考とは裏腹に、実際の私は、お兄様に指摘されるまで、開けた口と赤い顔が直らなかったのだった。



キューベレ・グレゴリー

公爵子息であり、アランと同年代。

現王の弟である公爵の息子ということや、その整った容貌から彼の周りにはいつも女性がいる。

彼自身もそれに悪い気はしていなかったのだが、最近は思うところがあったらしく、ゲームと同様、女遊びが激しかったのが、落ち着いている。



ゲームでのヤンデレルートは最終回の時にでも書きたいと思います。


閲覧有難うございました。

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