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久しぶりの夜会

アラン視点です。

サーシャの体調も最近は良いようだ。

僕としてはこのまま母上とともに、屋敷から出ずに慎ましやかに暮らしてほしい。

だが、未婚の令嬢がそうなのは外聞が悪い。

しょうがないので、夜会に連れだすこととした。


夜会に行くのはハミルトン伯爵が近々開催する時と決めた。

父上は気心の知れたものが開催するところがいいだろうと、ハミルトン伯爵が開催する夜会に出席することを提案した。

フランの居る屋敷は僕たちが普段住んでいる屋敷とも近いので、僕は反対しなかった。

具合が悪くなったサーシャを介抱するにも、自宅へ帰るにも、どちらにしてもハミルトン伯爵の屋敷は都合が良かった。



当日。

フランの作品のオークションも行われるとあって、伯爵家に集まる人はかなり多かった。

フール、だなんて名前よくも名乗るようになったものだ。

フランがどうしてそんな名前を付けたのかは知らないが、その名の通り、フール(愚者)の役割を果たしてくれればいいのに。



「あの、お兄様」


「どうしたの、サーシャ」


「私、久し振りの夜会ですから、自重した方がいいとは思うのですが、少しは羽を伸ばしたいんですの」


「サーシャみたいな年頃の子には屋敷は退屈だろうね」


「そんなことはありませんわ。グレゴリー公爵子息や、フランも来てくれましたもの」


「お見舞いとか言って、厚かましくも何回も来たね……」


「え、えぇと、なによりアランお兄様がいましたから、ちっとも退屈ではありませんでしたわ」



また、と思った。

サーシャは僕を警戒するようになった。

でも、警戒すると同時に、僕にだけ甘くなった。

例えば、フランと僕だったら、間違いなく僕を優先するという順序関係。

あるいは、先程のような些細な会話の中に織り交ぜられる僕への気遣い。

他にもあるけれど、例が多ければその理由が分かるというものでもない。

それに、サーシャがどんな理由であっても、僕だけ特別に扱うのが嬉しくないわけがないのだ。



「私だって、少しくらい羽を伸ばしてもいいでしょう」


「うん、そうだね」


「……お兄様、私の話聞いてましたか?」


「僕は、お前の言葉を一言足りとて聞き逃したりはしないよ」


「もう、御冗談がお得意ですわね」



少し拗ねてみせたその顔だって、前は見せたことも無かった。

いつだって扇で隠していたことが多かったその表情を見ることが出来るのを喜ぶべきか、他の男にも見せてしまっていることに憤るべきか。

僕は答えが出せそうになかった。



「冗談では無いんだけどね。それで、どうしたの?」


「やっぱり、聞いてないじゃありませんか。もう、いいですわ。フランかキューベレ様を探しますわ」


「待って」



僕がエスコートしていた手から、白い手袋をつけた小さな手を抜こうとするので、握る手を強めて、抜け出せないようにする。

僕がそうおめおめとフランやキューベレ(他の男)のところに行かせるわけがない。



「ねえ、もう一度言ってくれないかな、サーシャ」


「…ダンスを私と踊ってくださらないか頼んだだけですわ。お兄様は考え事で忙しいようなので、邪魔をするのも悪いですから、やはり私は…」


「サーシャ、踊ろう」


「え、ちょ、ま、待ってお兄様」



何か言い募ろうとするサーシャの手を取って、踊っている人の邪魔にならないように輪に入り、僕らも踊り出す。

サーシャの言葉を一言足りとて、聞き逃さないと言った言葉は本当に嘘ではない。

なのに、僕がわざわざ言葉を聞き返したのは、なんてことはない。

彼女の言葉が嬉しかったのだ。


いつも、僕の方からダンスの誘いをしていた。

少し前まではそれはすげなく断られていたので、了承してくれるだけでも嬉しかった。

その気持ちは勿論嘘ではない。

だが、人は慣れてしまう生き物であり、一つ満足すれば、次を望むと云う強欲な性質を持つ。

だから、サーシャから誘ってくれないかな、なんてそんな望みを抱いてしまった。

無理とは分かっていたが、望みを持つくらいは個人の自由と思っていた。


だというのに、本人ときたら、僕の気持ちなんて知らない筈なのに、誘ってくれるものだから、信じられないと云う驚きともう一度聞きたいと云う気持ちで、催促してしまったのだ。

完全に臍を曲げてしまう前だったので、その言葉を聞けて良かった。

一曲終わって、呼吸が早くなり、白い頬を薄桃色に染めたサーシャをこれ以上ここに居させたくはないと思ったので、ダンスを終了した。

サーシャは元から一曲で終わるつもりだったのか、僕の行動に異は唱えなかった。


踊っている人の間を縫って出てきたら、そこにはキューベレがいた。

そろそろダンスを終えようとする僕たちの姿を目に留めて、でてくる場所を予測したと云うところだろう。

これだから、この男は嫌いなのだ。

軽快な挨拶をしてくる前に、会釈してすぐにこの場を去ると云う迅速な行動を取れなかったことを後悔した。

サーシャはキューベレに挨拶しようとするが、彼女を押しとどめて僕が挨拶をする。



「こんばんは、公爵子息様。こちらの方から声をかけねばならないというのに、わざわざ声をかけていただき恐縮です」


「そう萎縮しなくていいよ。

ブラッドリー侯爵子息も、侯爵令嬢も、なにも知らない仲ではないだろう?」


「そう言っていただけて光栄です」


「今日は夜会で会うことが嬉しいよ、ブラッドリー侯爵令嬢。

ここしばらく会うことが出来なかったからね。

……気分はどうかな?」



サーシャ目当てに屋敷にまで来て、しっかりサーシャにも会ってた男が何を言っているのかと思ったが、わざわざ僕らの屋敷に来ているなんてことが知られることは拙い。

苛つきはするものの、事実を言わないで助かるのはこちらだ。

サーシャと話したいがために、名指しでサーシャを指名したのには目を瞑ることにした。



「グレゴリー公爵子息様、私もお会いできて嬉しいですわ。

具合は、今のところ大丈夫ですわ」


「そうか、それはよかったよ。でも、無理はいけないよ」


「グレゴリー公爵子息様のおっしゃる通りです。現在、我が妹は気丈な姿を見せていますが、彼女の周囲を心配させないための空元気かもしれません。もしくは、一曲踊ってばかりで彼女を立たせておいてはまた具合が悪くなってしまうかもしれません。ですから、公爵子息様には申し訳ありませんが、この場を退出するご無礼をお許しいただけないでしょうか」


「それはいけないね、確かに顔色があまりよくないようだ。ブラッドリー侯爵令嬢、どうぞ私の腕を掴んで下さい。休憩室まで共に行きましょう」



キューベレはサーシャの手を掴み、休憩室の方へ歩き出した。

…名指しで話しかけたことには目を瞑るけど、これは目を瞑らないからね。

後で、キューベレにどんなことをするかということで心を落ち着かせる。


歩いている途中でサーシャの方を見たキューベレは、彼女に微笑んで見せた。

恥ずかしくなったのだろうか、サーシャが下を向いた。

それを目にしたキューベレは、僕に握っている手を自慢するような笑みを見せる。


いらぁっ


キューベレの暗殺計画まで考えても抑えられないような苛立ちが胸中で渦巻く。

未だ下を向いて、運動後というだけでなく、他の意味で頬が染まっているサーシャを見て、この気持ちを変える方法を思いつく。

確認させたところ、この休憩室がある近辺は、現在僕らと使用人以外は居ない。

だから、キューベレにだけ気をつければいいわけだ。


キューベレに見つからないように、サーシャの手を握る。

手袋はしていない方が良かったが、していなかったとしたら、キューベレと握っていっている方の手も同じ条件だったことを考えると、やはり手袋をしてくれていた方がいい。

先ほどよりも紅くなったサーシャの顔を見て、満たされていく気持ちとは反対に、黒い気持ちがかま首をもたげた。

このままではそれが増幅しそうだった。

休憩室が近くなったこともあり、彼女の手を離す。

サーシャが離した手を見ていると分かった上で、その手を口元に運んだ。

そして、人差し指を立てた状態で、音を出さずに、「ないしょ、ね」と動かした。


キューベレからの笑みで赤くなった時とは比較にもならないほど蒸気したその顔に、僕は心からの笑みを浮かべた。


書き方を少し変えましたが、見やすくなったでしょうか。

次回もアラン視点の予定です。


閲覧有難うございました。

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