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魔王裁判  作者: ワンワールド
賢者の犬編
8/29

賢者の犬のプレゼント/黒幕登場

 紫男が指を鳴らした。赤い人物が紫男の傍に寄った。紫男は赤い人物に耳打ちした。赤い人物は部屋の外に行った。医者の子の顔に紫男は視線をやった。

 「今日は招待を受けてくれてありがとう。坊や。始め言った約束は守れなかったから、別の贈り物を用意したよ」紫男は笑顔で言った。医者の子は喜んだ。その感情を部屋の中を走って表現した。

 「わん!わん」部屋の外から小さな音量の鳴き声。どんどん声が大きく聞こえてきた。赤い人物が部屋の扉を開け入ってきた。その腕には鳴き声の持ち主がいた。賢者と医者と息子は犬をプレゼントと勘ぐる。鳴き声の持ち主を見て医者の子が第一印象を言った。

 「わあ~かわいくない。・・こわい」医者の子は鳴き声の主と走って距離を開けた。鳴き声の主は犬だったが、普通ではなかった。皮膚と毛が所々剥がれ骨が見えてる。それに血も全身からにじみ出ていた。


 「魔犬ではないのか」と賢者は指摘した。医者も続けて言った。

 「魔犬の子共」二人の疑問に紫男が解答した。

 「そうですよ。何か不都合でも」魔犬の子を赤い人物から渡され、腕の中で頭を撫でていた。言いにくそうに、賢者は魔犬を飼うことは危ないのではと諭した。医者も同じ意見を言った。

 「お二人さんは、差別するのですか?魔犬を。普通の犬じゃないから、同じ生命なのにね~魔犬」冷たい目線を向ける紫男は、賢者・医者を軽蔑した。二人は言葉が出なかった。差別する気持ちがあったのかと賢者は考えた。医者も犬と魔犬が同じ生命と気付かされた。遠目から様子を伺っていた医者の子が、魔犬に近寄った。ゆっくり一歩ずつ。紫男は医者の子に腕の中の魔犬を見せた。

 「触ってごらん」魔犬をあやしながら、医者の子に触るよう紫男は促した。手を震るわせゆっくり繊細に、医者の子は魔犬の頭を撫でた。

 「く~ん」触り心地は悪かった。しかし、医者の子は撫で続けた。魔犬の子の泣き声と弱弱しさが医者の子の気持ちを捕え始めていた。

 「かわいいだろ」紫男は賛同を医者の子に求めた。

 「うん」求めに応じる医者の子。

 「大人は分からないんだ、かわいさを。ねえ~」

 「うん」魔犬を揺すりながら、賢者の犬側は賢者側を睨みつけた。苦笑いをする賢者側。


 続けざまに、紫男は魔犬を売り込む。

 「この子はかわいそうなんだ。親は殺されちゃってね。人間によって。確か賢者とか言っていたかな」賢者に視線が集中した。賢者は違うと主張した。顔の前で手を振って。紫男は魔犬の素性を明らかにしていく。

 「いきなり、魔法を唱え魔犬の子の親を切り刻んじゃった。恐ろしいね」賢者はまさか・・・過去が甦る。

 「親の骸の傍に魔犬の子が鳴いていた。かわいそうで私は拾ってきたのだよ」事実を告げられて賢者は確かめた。

 「場所?死んだ」

 「先ほど自分で言ったじゃないかね。黒の森付近で、風系呪文で殺してしまったとね」黒犬事件の前に殺した魔犬と知り賢者は思い悩んだ。

 「飼おうよ~。いえでおとうさん」境遇を知った医者の子は、医者の袖を引っ張り飼うのをせびった。


 魔犬の危険性を知っている親としては、反対するしかなかった。親子の交渉は続いた。そこに紫男が口を挿み賢者に指示した。

 「賢者殿には責任がある。魔犬を飼う義務があるのじゃないか。坊やに飼わせないのかね」言われるがまま賢者は行動した。飼おうと医者を説得した。医者は敵に囲まれ陥落した。ただ降伏条件を提案する。

 「一つ。魔犬のしつけをすること。二つ。魔犬に包帯を巻き、口には猿轡さるぐつわを。決して正体がばれないこと。三つ。人を襲ったら有無を言わさず殺すか、魔物専門の保健所に引き渡すこと。これが守れるなら飼ってもいいよ」


 医者の子が一呼吸置いた。子供なりに魔犬を飼う条件を判断してみた。しかし、魔犬を飼いたい思いだけが強まり返事した。

 「うん」返事を聞いた賢者は心の中で呟いた。”医者に借りを作ってしまった”と。賢者はこの言葉を心に記憶した。

 

「ぽちゃん・・・」賢者と賢者の犬の戦いは終わった。降っていた雨もやんでいた。


 賢者が賢者の犬宅を出て一時間後。賢者の犬宅にある部屋で怒号が響いていた。

 「ばっかも~ん」でかい影が吠えた。

 「すみません」

 「なぜもっと追い詰めん」

 「それは。え~」賢者の犬の額から汗が滲み出る。賢者の犬は影に和解の報告をしていた。報告を聞いた影は怒っていたが、時間が経つにつれ冷静になる。さらに詳しい話が聞きたくなり誰かを呼んだ。

 「赤は居るか」大きな部屋に声が広がった。部屋は鼠色のレンガで作られていた。影は大きな黒いソファーに横になって指示していた。部屋の外から走る音が聞こえた。高さ十メートルの黒い扉が開いた。

 

 「はい。参上いたしました」賢者の犬の世話係だった赤い人物が入ってきた。影は赤い人物に細かく状況報告させた。そして真実が明るみになった。あまりにも医者の子の気持ちを優先し、賢者を追い込むことに集中できずにいたことを。それが原因で賢者の犬が不利な和解をした事実。影は頷きながら聞いていた。赤の人物の報告に影は満足した。

 「さすがだな。赤。お前の報告はしっかりしている。それはそうともう変装は解け。見苦しくて、見てられん」人間の姿が大嫌いな影は赤の人物に指示した。

 「はい」服を脱ぐと赤の人物の周りが煙に包まれた。煙が消えると赤の子鬼がその場にいた。影は赤の子鬼の姿を見て言った。

 「人間の姿より、魔物の姿の方が百倍いいぞ」欲求を満たした影は赤の子鬼を下がらせた。それから賢者の犬へ説教しだした。

 「お前はまだ、勇者と賢者への情があるのではないか。それを捨てきれなければ、お前の希望を叶えてやれんぞ」そう言われて賢者の犬は弁解した。

 「此度の失敗は犯人が賢者ではなかったことにあります。賢者の主張は反論する余地がなかったのです。真犯人も分かりませんし、あやふやにするしかなかったのです。私にあと一回機会をください。絶対ママを取り戻したいのです。お願いします、六つ目魔物様」弁解に加え、賢者の犬は土下座した。六つ目魔物は人間の惨めな姿に笑った。人間の苦しむ姿が大好物な六つ目魔物らしい行動だった。

 

 「いいだろう。田舎村の農民男性。機会をくれてやる。しかし、次も失敗すれば分かっているだろうな」田舎村の農民男性は背筋が凍った。

 「・・はい」不安が返事にも表れた。その様子に六つ目魔物は、また喜んだ。六つ目の魔物は、田舎村の農民男性を帰した。


 「黒を呼べ」と黒の子鬼を部屋に来させた。

 「何かゴ~用~」黒の子鬼がラップ風に聞いた。六つ目魔物はラップが嫌いで怒った。

 「お前は消滅したいのか。この場で」拳を握りしめる六つ目魔物。拳の周りには黒い気が流れ出ていた。危険を察知した黒の子鬼はラップを封印した。

 「ご用件はなんでしょうか」黒の子鬼は丁寧な口調になる。六つ目魔物の機嫌を精一杯黒の子鬼はとった。しかし、六つ目魔物の機嫌は斜めのまま。

 「お前は、反省していないな。黒犬事件。お前がしっかり黒犬を斬殺していれば。・・撲殺したせいで賢者は助かったんだぞ。ラップなどする暇などない。二度とな」

 「二度と・・」ラップが出そうになり、黒の子鬼は唾を飲み込んだ。唾がラップを阻止した。再度丁寧に話した。

 「ラップは二度と使いません」話しを聞いて六つ目魔物は満足し機嫌が直った。さらに黒の子鬼に注文した。

 「勇者裁判の被害者が新たに出たらしいな。黄から報告が上がった。被害者を調べてこい黒。廻りから勇者を攻めるのはやめた、直接攻める。魔王裁判をするぞ。はっはっは・・・」と笑い声が空間に響いていた。



 賢者の犬宅から小さな小さな集落に着くまで、賢者と医者親子は寝ていた。黒ずくめの男が原因だった。ネズミ車に乗せられた三人は無事集落に戻った。眠っていたせいか賢者の犬宅で起きたことは、夢と錯覚すらしていた。

 「わ~ふっ」魔犬の鳴き声で夢ではないと三人は感じていた。現実を。医者の子が魔犬を抱え閃く。

 「この子のなまえどうしよう」医者の子が提案した。名前を考える三人。考えた結果、三人は魔黒まっくろと呼ぶことにした。魔犬・黒犬の頭文字を取ってつけた。意見は医者の子が出したのだった。

 「みんなで、黒犬の墓参りに行きましょう」さわやかに賢者が言った。

三人と一匹は黒犬の墓参りに出かけった。

魔王裁判女神編に続きます

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