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魔王裁判  作者: ワンワールド
賢者の犬編
7/29

賢者の犬と賢者の戦い

 「ぽちゃん。ぽちゃん。ぽっぽっぽっ・・・」水滴が繋がり雨になった。

 賢者の犬と賢者の対決が始まっていた。

 「ぽちゃん」

先に紫男が仕掛け、黒犬事件のあらましを話し始めた。

 「ひと月前の夜遅く医者の黒犬が死亡しました。場所は黒の森付近。死亡理由、賢者の風系呪文が直撃したため。賢者殿の蛮行が引き起こした事件です。医者の子に対して罪をつぐなってください。」落ち着いて賢者は聞いていた。動揺の色を一切見せていなかった。医者も真直ぐ賢者の犬側を見て動じていなかった。

 「坊や、罰は何がいいかな?」紫男から医者の子に攻め手が変わった。

 「ばつって何」医者の子は罰の意味を理解していなかった。助け舟を紫男は出した。

 「罰はねえ~。悪いことをした人を痛めつけることだよ」

 「わるいこと」

 「賢者は黒犬を殺したろ」

 「そうだ。けんじゃめ~」賢者への恨みで医者の子の目つきが鋭くなった。

 「罰をいってやれ。ほら。・ほら」リズム良く賢者の犬はあおった。

 「けんじゃ。けんじゃ。う~・・・ん」悩む医者の子は理屈抜きにして感情で発言してしまった。

 「しんじゃえ~」医者の子の言霊が勇者と医者に飛んでいた。言霊は暴れた、賢者の心を殴り・・粉砕。医者の心を殴り・・粉砕し言霊は消滅した。とてつもない破壊力だった。


 「殺しちゃあいけないな~。黒犬が亡くなっても、賢者殿を殺しちゃあいけないよ。命は一つしか無いのだから。誰からも取っちゃいけないんだ」倫理について紫男が言った。意外だと賢者側は思った。

 「取っちゃいけない命を取った賢者はもっと苦しめなきゃ。生きている方が地獄だと分からせなければ」黒い笑顔で紫男が医者の子を補助した。

 「わかった。う~ん。べつのばつ。べつのばつう~ん」・・・三分後医者の子は結論を出した。

 「おおきな、おはか。黒犬のおはか立ててよ。けんじゃ」子供らしい意見に変わり、賢者側はほっとした。それを許さない紫男が合いの手を入れた。

 「どれくらい大きなお墓」

 「う~ん。このくらい~」手の動きを加えて医者の子は表現した。曖昧な答えに紫男は具体例を示した。

 「それじゃあ~普通の人間のお墓の大きさだね」

 「うん」医者の子が納得した。しかし紫男は納得しない。

 「小さくない。坊やの黒犬だよ」煽った。医者の子は煽られ、手の動きと言葉を二回繰り返し、

 「このくらい」と表現した。さらに紫男が例えた。

 「今度は家くらいの大きさのお墓」

 「うん」医者の子の笑顔が光った。紫男の笑顔が黒く淀んだ。

 「小さいな。黒犬が鳴いちゃうよ」

 「でも・・」煽ったが、医者の子の頭ではそれ以上お墓を大きく思い描けなかった。一分後、医者の子はお手上げになっていた。看かねた紫男が賢者を攻めることになった。

 「坊や。黒犬のために大きいお墓立てなきゃ。そうだな。黒い森を全部燃やそう。そこに黒い森と同じ大きさの墓は」医者の子はすぐに返答しなかった。子供でも重大さを感じ取った。医者の子の表情を見て紫男の知恵が働いた。

 「あの森のせいで黒犬が亡くなったのを忘れちゃった?鳴いているよ、黒犬。燃やして黒犬の形したお墓作ろうよ。坊や」

 「うん」医者の子は素直な返事をした。紫男と医者の子の意識は統一された。

 「賢者殿。お墓一つ建てませんか」指を一本立てて紫男が言った。

 「黒犬のおはかがほしい」見事な医者の子の連携が賢者を襲った。


 「ぽちゃん」


 守りから攻めに入る賢者。

 「お墓は作りません」強気な態度に賢者の犬側は驚いた。医者も自信がみなぎっていた。

 「つくってよ~」駄々を捏ねる息子に、医者は叱りつけた。頭が下を向き医者の子はしょぼくれ、しばらく戦闘放棄した。

 「私の意見を述べたいと思います。私は黒犬を殺してません。断言します」分からない自信を賢者は続けていた。

 「根拠は」賢者の覇気をくじこうと紫男が質問した。

 「私の魔法は黒犬には当たっていません。遺体が証明してくれました」

 「遺体がどうして」

 「黒犬は刺殺ではなく撲殺されていたのです。そうですよね。医者さん」賢者は医者に目で合図した。

 「はい。私が黒犬を埋める前に調べましたが、外傷は、切り傷はなく、殴られたあざが頭にありました。これが致命傷になったと思われます」賢者の攻撃を医者が倍増した。

 「私も最初は風系呪文の影響で痣ができたのかと賢者君を疑っていましたが、あとは賢者君」医者は話を切り上げ賢者の背中を叩き、話せと賢者を急き立てた。話す権利が賢者に移った。

 「そう。医者さんは一度だけ見た、風系呪文のことを忘れていました。余りにも衝撃的な魔犬との死闘。恐怖で心に記憶をしまっていたのです。風系呪文の切り刻む特徴を話すと理解して、死亡診断を教えてくれました」大きな痛手を紫男は受けた。挫くどころか痛手を被った紫男は、反撃を試みた。

 「風系呪文で木とか石など硬いものが飛ばされて当たったのでは」賢者は発言を受け止めた。

 「医者さん。遺体の近くに木や石がありました」賢者は医者に言葉のパスを出した。

 「いいえ。私の記憶では周りには硬い物はありませんでした」パスを受けた医者はトラップして賢者に言葉を返した。

 「そうですか。私は遺体場所から二十メートル以上離れた方向に、魔法を撃ったはずです。それほど威力がある魔法ではなかったはずです。石や木を置いて実験しますか」勝負は決まりかけた。紫男は救いを求めて、医者の子の参戦を促した。

 「お父さんの意見は本当」

 「うん。お父さんといっしょに黒犬みた」医者の子は元気がなかった。医者の叱責が聞いていた。


 最終局面に入った。賢者と紫男の一騎打ちが繰り広げられた。

 「賢者の犬私はやっていない。証拠は揃った。私は無実だ。だとしたら誰が黒犬を殺した。賢者の犬。・・・最初に現場にいたのはあなただけです。話してもらえないですか。きっちりと」紫男は応戦した。

 「現場に着いた時には黒犬が横になっていた。遠くには灯が見えて、賢者と医者にその他一名いた。声を掛けようとしたが三人は走って行ってしまった。黒犬の生死を確認したら死んでいた。そこへ、坊やがやって来た。以上だ、何か問題でも」ここが攻め時と賢者は嫌らしく突いた。

 「夜中にあの場所にいた理由を教えて下さい」上を見る紫男。記憶を呼び覚まそうとしていた。両肘を机に付け両手の上に顎を乗せた紫男は・・・・主張した。

 「現場近くには私の別荘があるのだよ。町に用事があって行っていた、帰りに事件現場を通っただけだよ。問題あるかね?賢者殿」言葉の殴り合いが続いた。

 「町の用事とは」軽いジャブを賢者は放った。

 「言わないといけないか」紫男が防御態勢を取った。

 「言わないなら、町で賢者の犬がその日にいたことを聞き込みしますがいいのですが。嘘だとばれたら私は訴えますよ」連続ジャブを賢者は繰り出した。紫男は歯を食いしばった。

 「しょうがないですね。私個人の問題なので言いたくないのですが、いいでしょ。元ママに会いに行っていたのです。寄りを戻しにね。はい。納得したかね」紫男はジャブを避けた。両方疲れが頂点になった。攻撃し合う力はなかった。議論は平行線になった。医者は両者の状況を確認し止めに入った。

 「話は出尽くしたと私は思う。賢者は黒犬を殺していない。第一発見者の賢者の犬も殺していない。真の犯人は他にいることが分かった。犯人探しは後日でいいじゃないか。賢者の犬君・賢者君。和解でどうかな」静かに賢者は、頷いた。紫男は医者の子を見て、

 「坊やは仲直りする」と聞いた。医者の子は、

 「する。けど・・黒犬のおはかたててほしい」と条件を付けた。子供の無垢な要求に賢者は笑顔で答えた。

 「建てよう。大きなのは無理だけど出来るだけ良いものを作ろう」無邪気に喜ぶ医者の子に三人はやられた。膝を叩いて紫男が立ち上がった。

 「坊やの希望が叶ったし、和解しよう」両陣営が歩み寄り握手が交わされた。賢者と医者の子も仲直りの握手をした。


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