和平裁判2
魔王殺し、七つ目殺し、他三百魔物殺害容疑で勇者は魔物に訴えられた。魔人間裁判所で和平裁判が開かれた。
魔王である六つ目が、訴えを述べていた。
「初代魔王は聖水を浴び勇者に切り刻まれ、炎で焼かれた。そのうえ首を切り大勢の目に触れさせたのだ。魔王の名誉を死んでなお、傷つけた。一つの殺害方法を見ても勇者は悍ましき犯罪者だ。魔物は死刑を望むぞ」
魔王は葉っぱ型の石の椅子に座った。
「被告、意見をどうぞ」名誉裁判で裁判長を務めた裁判長が勇者側を指した。裁判長は人間・魔物と一年ごと変わることになっていた。
法廷の真ん中に檻があった。その中に勇者が閉じ込められて裁判を受けた。
「被告の行動は五百年戦争の悲劇です。魔物との戦いは被告の義務でした。魔物も多くの人間を殺したはずです。被告一人に罪を着せるのは止めてもらいたい」檻の横で賢者が立って言った。
裁判長は第三者の人間側に聞いた。
「人間側は原告と被告の話をどう思いますか」
人間代表の王が立ち言った。
「被告の行動は正しいのう。戦争中なのじゃから。原告の気持ちも分かるぞ。初代魔王を殺されたのじゃ。恨みも深かろう。儂の先祖も魔王に殺されたが今となっては、魔王が死んで恨みは消えたがのう」
王はどちらにも配慮して座った。
魔王は王の意見を聞き、手を挙げた。裁判長が魔王を当てた。
「王の言う通りだ。被告の行動は戦争で正当化されているが、初代魔王は戦争の責任を命で償っているぞ。王は魔王が死んで恨みが消えたと言う。儂らは恨みが残る。くそ勇者が死んでいないからだ。被告は戦争の責任をとれ」
この意見に賢者がすぐに反発した。
「戦争責任を勇者一人に押しつけ無いでください。沢山の人と魔物が関わったはずです。被告もその一人です。そこを考慮に入れ減罰が妥当です。死刑ではなく無期懲役に納めてくれませんか」
戦争を利用し賢者が罪を逃れようと頑張っていたが、勇者は疲れきった目で裁判を見ていた。
「戦争に関わった者、全員を裁くのは無理だ。くそ勇者一人、死ぬことで和平になるのだ。全員を裁けば、また戦争が起きるぞ」
「いいえ。被告は生きて、和平の象徴として残すべきです。被告の話は戦争を防ぐ研究に役立ち後世の人々に語り継ぐ義務が被告にはあると考えます」
「くそ勇者は死ぬべきだ。死んでこそ象徴となるぞ。英雄は悲劇の死で完成されるのだ。心に強く残すこそ和平がなるのだ。本人も望んでいるはずだぞ」
裁判長が魔王の意見を聞いて勇者に聞いた。しかし、返答はなかった。そこへ人間の女性代表が口を挿んだ。
「死ぬべきよ。戦争うんぬじゃないわ。生きてると被告は、みんなの迷惑なのよ。緑青の海を汚した悪い人なのよ」
裁判長が関係のない話は慎んでくださいと女性代表を注意した。
「死を美学のように扱わないでください。生きることこそ大変なのです。被告を生かしてください」と賢者が言い、裁判は判決へ向け三者が意見を纏めることになった。
それぞれ控室に別れ意見を紙に書き、裁判長に提出し判決が下る規則だった。
魔物の控室では、魔王が賢者の犬と三つ目カラスに意見を求めなかった。
「勇者は死刑。死んでこそ和平がなる。そこを考慮にいれろ」と魔王は賢者の犬に紙に書くよう命じた。
一時間後、判決が下った。
「勇者は無期懲役とする。五百年の戦争が生んだ悲劇です。大量殺魔者だが、世の中に戦争の悲劇を伝える研究対象者として生かすことが大事と結論に至りました。和平を考え原告には我慢して頂きたい」
宥めるように裁判長が魔王を見て言った。
裁判長の態度は魔王を逆なでする行為だった。座っていた椅子をガンガンに殴り魔王は粉砕した。
「無期懲役など話にならん。勇者が死刑でないなら、儂は上告するぞ」魔王は裁判長に向かって吠えた。
「規則で決めたではないですか。魔物と人間、相手の種族を犯した場合のみ魔人間裁判所を使い解決する。上告はなしと規則に書かれています」
王と作り上げた規則に魔王は苦しめられた。
勇者が死刑以外の刑になるとは考えが及ばず、魔王は後悔した。そして王を睨んだ。元々この判決になったのも王が仕組んだことだろうと魔王は推測した。
「どうして無期懲役を選んだ」怒りで緑の液体を飛ばしながら魔王は王に問うた。
「言いがかりじゃ。儂は知らんのう。それに結論を言うのはいけない規則じゃ。そちも同意して作った規則ではないか。裁判はこれで、終わりでよかろう」
「くそ人間が・・勇者を殺さなかったこと後悔するぞ」
魔王は魔物を引き連れ出て行った。ほっとする賢者が勇者に声を掛けた。
「死刑は避けられましたよ」
「ああ。すまないな」他人事のように勇者は元気なく返事した。
賢者は元気のない勇者を心配した。このあと勇者の人生が気になって仕方がなかった。王は腹を震わせ笑っていた。その姿を見、汗を掻く青の人物が居た。
何という展開になってしまった。魔王様に何と釈明しよう。直接伝えるのにも恐ろしいが、私の地位も危なくなったと青の人物は角が無性に掻きたかった。




