参戦
「平和のため裁判に出廷する。言っておくが、魔王と王のために出たのではないぞ」王の間で勇者が言った。
それを聞く王と魔王が立って居た。記者たちも王の間に集まっていた。
記者の一人が、
「今までどこにいたのですか」と勇者に質問した。勇者は和平条約の発表後の行動を述べた。
緑錆の海で清掃していた。別荘で新聞を読み和平条約を知り、王都に行こうとした。しかし、賢者が邪魔をしてきた。絶対に行ったら酷い目に遭うと。その声も聞かずに別荘を出ようとしたら、賢者に後頭部を殴られ気を失った。起きたら別荘の部屋に監禁されていた。一週間その状態が続いた。だが、賢者は新聞の報道で日々不安に陥った。別荘に居たのでは捕まると思い、冒険者協会のある伝手を頼った。協会の方が安全だと伝手が言うので、指示に従った。協会に行き監禁されることになったが、王の軍隊が攻めてきた。冒険者と軍隊が戦う姿を見て、被害が拡大する前に出頭すると賢者を説得した。協会より抜け出しここに居る。
事情を聞いた記者は一斉に騒ぎ、質問を弾丸のように勇者に浴びせた。
「黙らぬか。記者会見は終わりじゃ。裁判の日程が決まり次第、発表する。早く出て行かぬか」
記者たちは不満そうに王に言われた通り出て行った。王の間は静かになった。
勇者・王・魔王は昔年の恨みが込み上げた。誰もが文句を言いたかった。ただ恨みの深さで言葉が出ずにいた。比較的恨みの深さが浅い王が声を掛けた。
「勇者、裁判まで牢獄におれ。逃げる出ないぞ」
「逃げる訳ないだろうが」
「二週間も隠れたくそ人間がよく言うわ」それぞれが一言ずつ話、恨みを口に出さずに会談は終わった。
勇者が裁判に参戦することが、世界中に翌日発信された。新聞に勇者の言葉が乗ったおかげで、デモは一部を除き沈静化した。。
裁判に出るだけだ。負けるとは限らない。俺を誰だと思う英雄だぞ。心配はしなくていい。和平のために俺はやれることをやる。冒険者協会は考え方を変えるべきだ。俺は魔物を倒すことが正義と思っていたが、裁判を経験して争いが無意味だと気付いた。と勇者の気持ちが一部の人に届いていた。
新聞に勇者の言葉が載り一週間後、魔人間裁判所の場所が決まった。冒険者協会の跡地と発表された。これで王と協会の対立は決定的になった。
王は魔王に協力要請を頼み、今度は受理された。魔王もこの戦いは都合よかった。うっぷんが貯まる魔物のはけ口と、魔物の気持ちを統一する絶好の機会だと捉えた。
王も冒険者協会を排除したかった。勇者を巡っての戦いで、冒険者の力が軍隊より強かったからだ。革命が起きれば抑え込めない恐怖が王の心を蝕んでいた。
魔物と人間の軍(魔人軍)が作られ、黒の森の近くの町を襲った。冒険者協会も抵抗したが、一日もしない内に冒険者協会は陥落した。魔人軍は協会の建物に火を放った。その火は二日間燃え続けた。
一人の指揮官が、協会が燃えている間はこの町での行動は自由だと宣言してしまった。これを機に、町に居る者は冒険者だとなり、殺戮が始まった。
協会の建物の火が二日後消えた。欲望も消えた。黒の森の近くの町も消えた。冒険者協会が消滅して二カ月後、土地だけが残った。更地の上に魔人間裁判所の建設が進んだ。
勇者は王都の牢獄でこの話を聞き怒った。魔法で抜け出そうと勇者はしたが、その牢獄は魔法を封じる造りだった。
魔法を使えず牢獄に繋がれ、
「どいつもこいつもバカヤロ~」と叫んでいた。
魔人間裁判所は一月で出来た。血と汗と混沌が混じった裁判所。魔物と人間の建築家が協力してデザインを考えた。人間は国王裁判所の発展系建物、魔物は魔王裁判所の発展系を目指していた。意見は食い違い、アンバランスな建物が出来る所だった。
それを食い止めたのが、王と魔王だ。この地の歴史を考えた建物の話が出た。黒い森に咲く世界一美しい花(美黒花)の形が採用された。色は深い黒。花はカラーに近かった。花は細長く、中心に棒状の白い物が出ていた。建物は花を上に向けた作りで、黒石を使った。工事では冒険者の生き残りを使った。それでも人手が足らず、犯罪者を使った。黒の子鬼もこの工事を手伝う姿があった。
魔人間裁判所が出来るころには、デモはなくなった。協会がなくなり反対派は影を潜めた。勇者保護派も殺戮の話を聞き、誰も話題に挙げなくなった。いつしか王の恐怖政治が始まっていた。誰も予想できなかった。知らぬ間に恐怖政治が誕生していた。
王自身、勇者を倒したい思いがここまで発展するとは思わなかった。それに魔物への依存度が増したことも予想外だった。
魔王も殺戮により魔物が言うことを聞き出した。あとは勇者を倒すのみとなり、名実共に魔王になる日が近いと血気盛んだった。




