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魔王裁判  作者: ワンワールド
混沌のあらすじ2
23/29

懇談会

 王都宿屋。宿屋の中では人間たちが眠っていた。宿屋の外では六つ目魔物が起きていた。勇者と会うために護送車に乗り、王都に着ていた。護送車は六つ目の体には合わず窮屈だった。それに護送車は布を被せられ外は見えず、音で様子を伺うしかなかった。心労が貯まるには充分な状況だった。六つ目は牢屋の檻をたまに殴った。


 「かん。かん」と甲高い金属音が鳴った。


 夜が深まるほど六つ目は冴えた。勇者をどう殺そうかと考えを巡らした。檻を壊し、宿屋に居る勇者の寝込みを襲うか。それとも逃げ出し、裁判を開けなくするかを考えた。ただ、どちらも勇者を殺すには至らないだろうと実行はしなかった。


 六つ目は檻を殴る。


 「かん。かん」この金属音が六つ目の思考を高めるリズムを刻んだ。


 いっそ逃げて人間を襲い、勇者の管理責任を取らすのも面白いと、殺す目的を忘れ苦しめる方に重きを置いた。六つ目は笑いが込み上げた。


 そこへ誰かが近付く気配がした。とっさに感情を押し込め、六つ目は檻を殴るのを止め警戒した。


 足音が聞こえてきた。


 「開けるぞ」声も聞こえた。護送車の下の方より光が入って来た。


 「待ってください。心の準備が」


 違う声が聞こえた。


 「今更何を言う、意気地のない」

 「止めませんか。魔物ですよ。上手くいくはずがない」護送車の前で話し合いを始めた。


 段々話し合う声がきつくなり揉めだす。六つ目は何をしているのか見たくなる。檻の鉄格子を握り開けようと力を入れるが、話し合いは止む。


 鉄格子を掴む手の力が弱まり、外を意識した。六つの目が別々の方向をぎょろぎょろと見た。


 「いいな取るぞ」光が檻を包んだ。布は取られ地面に落ちた。光で目を瞑ったが、三回の瞬きで目は光りに順応した。


 光の元を見るとランプを持った憎っき勇者と賢者が立って居た。


 「人間。こんな時間に来るとは、殺しにでも来たか」


 拳を握り、口には液体を貯め、目は半数ずつ勇者と賢者の動きに注意を向けた。


 その異様な雰囲気に勇者はランプを置き、ゆっくりと剣を抜く。二歩下がり、右手を前に突き出していた。


 「話し合いに来ただけです。いい加減、戦いだけを考えないでください」


 六つ目と勇者の間に賢者が立つ。右手は勇者、左手は六つ目の前に手を開いた状態で出す。


 六つ目はふっと笑い、口の液体を地面に掃いた。地面の灰色のレンガは液体により緑色に変色した。


 六つ目を睨みながら勇者はすっと剣を鞘に納めた。


 「話か」


 六つ目が尋ね賢者が答えた。


 賢者の話は頼みごとだった。名誉裁判で証魔に出て、勇者が倒した魔物が魔王だと証明するのに手伝って欲しいと言われた。新聞の内容通りで、バカな人間と嘲り笑うが表情には見せず内に秘めた。知らない振りを六つ目はした。


 「なぜ手伝わなくてはいけない」と軽く怒った振りをし、断った。


 勇者は剣を振り抜き、

 「魔王の跡を追わしてやろうか」と怒り出した。


 それを見て六つ目は笑いが出た。殺せないくせに。勇者の心が手に取るように分かり、余興を楽しむごとく見ていた。


 笑われた勇者は激昂し、剣を六つ目に向け振り下ろした。しかし、賢者が止めに入り剣の軌道が変わり檻の上に当たる。


 「かん」と鳴った。


 剣が当たった場所は鉄が欠けた。賢者が仲裁に入り場が落ち着くが、今度は勇者と賢者が揉めだした。


 「無理ですよ。魔物との交渉なんて。昼、六つ目の身元確認だけで大変だったじゃないですか」


 「無理などない。魔王を倒した俺に不可能ではないぞ。交渉も続ければ、何とかなる。そのうちな」


 人間の揉める姿に六つ目は喜んでいた。勇者の性格がどんどん見えて来たからだ。生で見る情報と聞いた情報では全然違うと認識を改めた。


 二十分ほど揉めていたが、結局は勇者が押切った。


 「おい。魔物。裁判に出ろ。殺されたくなかったらな」


 揉めた後、交渉を進めてきたのは勇者だ。賢者は揉めた後は口を閉ざした。


 聞くに堪えない勇者の交渉が続いた。脅し、脅し、脅し。一辺倒の交渉の仕方に六つ目はこんなバカに魔王様が殺されたのかと憤りを覚えた。交渉は進まなかった。勇者が一方的に話、六つ目が無視をした。


 無為に時間が過ぎて行った。夜の深まりも終え、朝に向かい夜は浅くなった。それは六つ目の冴えが薄れていく状況でもあった。


 勇者と交渉しても殺す切っ掛けが掴めないと、交渉を止め、城に戻る考えが六つ目に浮かんだ。


 「ええい。だんまりを決めやがって、仕方がない。譲歩してやる。これ以上の譲歩はないぞ」


 自分の交渉の仕方では上手くいかないと勇者は悟ったのか、やり方を変えてきた。


 「その条件は本気かくそ人間」

 「本気だ。で、出るのか、出ないのか。どっちだ」毅然とした態度で勇者が問う。


 六つ目は条件に魅力を感じていた。裁判に出る方に傾く。


 「どっちだ。結論を言え」しつこく勇者は問いてくる。だが返事はしなかった。


 いかにも条件に飛びついたと甘くみられのが六つ目には嫌だった。六つ目は勇者たちの様子を伺った。目が動き、賢者の様子が気になった。不安そうな顔で勇者を見ていた。


 ふ~ん。この交渉はそれだけ勇者たちにも堪えているのだなと推察した。


 「よかろう。出てやる。が、もし約束を破れば、裁判での証言はどうなっても知らんぞ」

 「よし。契約成立だ」睨みつけていた勇者の顔が少しだけ和らいだ。賢者は逆に硬い表情が増した。


 六つ目は笑いながら、

 「契約成立に握手でもするか」と言ったが勇者はするかと断った。


 地面に落ちていた布を拾い上げ勇者は護送車に被せる。その作業中六つ目は言った。


 「魔王裁判に出頭しろ」

 「うるせえな。魔物こそ。名誉裁判出ろ」と勇者も言い返すのだった。





 「証言を変更することはできぬか」王城で最も陰気な場所、地下牢で王がささやいていた。

 「できん。くそ勇者との契約だから守らねばならん」王が囁いた相手が返事した。


 相手は地下牢に閉じ込められていた。横になり王の方を向いて鉄格子越しに返事していた。


 「できんとは、少し証言を変更するだけでよいのじゃ」髭を触りながら王は言った。

 「王の言う通りです。少し言葉を変えるだけでいいのです」白髪の大臣が王の右隣で囁いた。


 牢に居た相手は六つの目を動かし王と大臣を見た。更に六つの目は大臣の右隣に居た青の人物も捉えていた。次期魔王である六つ目は勇者との会合の翌朝、王の憲兵隊に捕まり地下牢に居た。


 王も勇者と同じく裁判に掛ける思いが強いと六つ目は悟った。このままただ断るのでは面白くないと、王を試したくなった。


 「証言を変えてもよいが、くそ勇者の条件を越えるなら考えてもいいぞ」


 髭を二回触り右下を見る王は悩んだ。勇者を越える条件が中々浮かばず。魔物が欲しているであろう、イメージだけで答えた。


 「人間を贈ろう。扱き使おうが、食おうが、どう扱っても構わんぞ」

 「いるか。そんなもの」王の答えに六つ目はがっかりした。


 そんなもの望んでおらん。もっと儂を喜ばすものを。


 「千人ならどうじゃ」一本指を立て王が六つ目に尋ねる。

 「いらん」

 「じゃあ二千」

 「いらん」

 「じゃあ・・・四千。これより上を求められたら王の儂でもきつい。どうじゃ」王は四本指を立て六つ目に返答を求めた。


「・・・・いらん。いらん。人間などいるか。存在が嫌いと言うに」


 勇者との交渉も腹が立ったが、王との交渉はもっとイラつく。


 六つ目は人間との交渉の難しさを実感していた。


 「金や物などはどうじゃ。欲しい物があれば手に入れるぞ」


 次の案を提示する王だったが、六つ目は一言、いらんと拒否した。


 王は何も魔物が欲しい物が分かっておらん。裁判に関わるものだ人間。裁判なんだ。


 交渉を打ち切ることにしようか六つ目の気持ちが傾いた。


 「そちは、何を欲しておる」イラついた顔で王が尋ねた。


 そんな表情に六つ目は、

 「どん」地面の石を手で叩いた。石にひびが入った。


 体を起こして胡坐になった。


 「分かっておらんな人間。儂が欲しいのは、人類が絶滅する姿。例外なく・だぞ」一刺し指を振りながら六つ目は王をさした。


 口角が揺れ出す王、右の奥歯を噛み体を震わした。大臣が王の体に触れる。

 「王よ落ち着いてください」

 「触る出ない」王は大臣を払い叫んだ。

 「衛兵!衛兵!」地下牢に王の声が響くと沢山の足音が響いた。衛兵が五人地下牢に来た。衛兵の手には槍が握られていた。王は兵に命令した。

 「刺せ。この汚らわしい魔物を殺せ」

 「・・はっあ」はっきりとしない返事をする衛兵たち、六つ目の恐ろしさにびびっていた。


 なぜなら六つの目が兵士たち一人ひとりを睨んでいた。足と手が震える衛兵たちは、命令を実行に移す雰囲気ではなかった。命令を実行しない衛兵に苛立つ王は更に命令を突きつけた。


 「殺せ。早く刺すのだ。さもなけば、刺されるのは魔物ではなくそちらになるぞ」


 王の言葉に発奮して衛兵たちは槍を構えた。


 「えいあ~」


 衛兵の一人が勇気を振り絞り、目を瞑りながら六つ目に向け槍で突いた。槍先は鉄格子の隙間から六つ目の腹に向かった。


 「ふっ。何のつもりだ」六つ目は槍を掴んでいた。


 強引に槍を振り衛兵より奪い取る。槍を引き寄せ、六つ目は柄を持った。


 「この場で絶滅したいのか」


 「誤解です。衛兵下がれ」大臣が衛兵に命令し、衛兵も助かったという表情で去って行った。王は大臣を叱責した。


 「どうして兵を返すのじゃ。魔物は槍を持っておるではないか。儂を殺す気か大臣」

 「少々お持ちください」大臣は六つ目に誤解が生じたことを話した。


 何が誤解だと六つ目は納得しかねたが、後の戦略を考えとりあえず矛を収めた。槍をそっと鉄格子の隙間より青の人物に渡した。


 六つ目の行動に青の人物はへっという顔になる。これはどう言う意味だろうか?槍を持ちながら六つ目を見ていた。


 「冗談も分からんのか。儂が本当に望むのはくそ勇者が死ぬことだ。その条件以外は証言を変えるつもりはないぞ」


 「できるはずなかろう。勇者を殺したら、何の裁判じゃ。儂の苦労を知らぬ魔物め。もうよい。交渉はなしじゃ。裁判まで静かに捕まっておれ」


 マントを振って王は地下牢を出て行く。王の後ろを大臣が付いて行った。その大臣を追う青の人物。地下牢を出る時、青の人物は六つ目に視線を送った。


 六つ目も視線を返したが、青の人物の姿はなかった。


 「勇者の契約を破棄するほどの条件はでなかったが、くそ人間の王は面白い性格しとる」


 横になる六つ目は鉄格子を背に向け目を瞑った。


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