城出2
女神と黒の子鬼は城を出ていた。六つ目が居なくなり、魔物たちは気が緩み、警備が手薄になっていた。
城を出た女神たちは地上の町を目指した。女神は一分一秒でも早く実家に帰り家族との再会を果たしたかった。気持ちは実家に早く着くことを望んでいるが、体はその要求を聞き入れる力はなかった。牢獄での生活で体は弱り、城を出て一時間も経たない内に歩くのがきつくなった。女神はよろけながら歩く。一歩でも家に近付こうと。黒の子鬼はよろける女神の体を気遣い支えた。
「私が言い出したのに迷惑かけてごめんね」
「謝らなくていい。いっぱい迷惑かけてるのは毎回俺だよ~」
女神たちの足取りは遅くなる。このまま歩いて行けば捕まると女神は不安を抱く。
「こんな歩くスピードじゃあ。捕まる。クロ、ここら辺の地形には詳しいのよねえ。どこか休める場所ある」前を向きながら女神は黒の子鬼に声を掛けた。
「休める場所・・・知りあい~いたよ~。憧れの魔物の家近いよ~」
黒の子鬼が答えると女神は考えた。クロの憧れの魔物って、歌や話で聞いた黒いギターマスターのことよね。クロは信用しているけど。私が行って捕まらない保証はないわ。女神は行って休むべきか行かずに無理して先に進むか迷う。
「クロ。ここから一番近い人間の町は遠いい」
とりあえず女神は落ち着ける人間の町までの距離を確認し、行動を決めようとした。
「たぶん。三日はかかるよ~」
黒の情報は女神を悩ます。一日ぐらいなら無理をすれば行けると思っていたが三日となれば、この歩くスピードでは魔物に捕まってしまう。危険だが女神はギターマスターの元へ行くことを決めた。
「黒のギターマスターの元へ行くわ。案内して」
わかったよ~と黒の子鬼は返事をし、女神たちは黒のギターマスターの家を目指した。
三十分後、女神たちは小枝と藁で作られた家前に立って居た。女神はこの家潰れないのかしらと不安が膨らんだ。
「家にいるか見てくる~る」家の中に黒の子鬼が入ろうとする。
「待って。クロ分かっていると思うけど、ちょっと休憩するだけよ。考えが纏まったら出発だからね」
黒の子鬼は頷き、ドアのない家に入って行った。疲れっ切っていた女神はその場に座り込む。
「ふ~」とため息が漏れた。
逃げ切れるのだろうか。捕まり牢獄に後戻りは絶対嫌。何とか家族に会いた・・だけど。
体力の無さに落胆する。ここで休んだとしても、体力が回復したとしても、歩くスピードは変わらない。と女神は精神・体、両面で疲れ切っていた。
数分後に黒の子鬼が女神の元へ戻り、
「憧れの方の許可がおりたよ~」と告げた。
「そう、よかった」疲れた笑顔で女神は返答した。
本当は居ない方がよかったんだけどと思いつつ、よろめきながら女神は立った。女神は黒の子鬼に支えながら、家の中に入った。
草・暗。それが女神の内装に対する第一印象だった。黒のギターマスターの家の内装は、芝生が全体に敷かれ、窓が一つもなかった。薄暗かった。光は小枝と藁で組まれた外装の隙間から入るのみだ。
家に入った女神はギターマスターを探した。薄暗いので、どこにギターマスターが居るのか分からなかった。
「よ・う・こそ」部屋の奥より薄気味悪い声がした。女神は声の方を見る。少しづつ暗闇に慣れてきた目が、薄気味悪い声の主を確認出来るようになった。
「うそ」と女神は声が出た。そこには、全身黒ずくめの男が壁に寄り掛かり座っていた。
「マスター。この人がめがみん。俺に自由をくれた人だよ~」黒の子鬼はギターマスターに女神を紹介した。黒の子鬼が憧れた魔物の正体に女神は嫌な思い出が蘇る。
ギターマスターに眠らされ魔王裁判に連れていかれたことを。
「ごめん。クロ。先を急ぎましょ」女神は黒の子鬼の支えを解き、外に出ようとした。
しかし、一歩目でよろけ壁に寄り掛かった。
女神の急な行動に黒の子鬼は驚いたが、よろける女神を見て支えようと体が反応した。女神の左わき腹の下を触った。
触れられた女神は黒の子鬼に寄りかかった。
女神は黒の子鬼に支えながら立ち、
「出ましょう」と訳を言わず立ち去ろうとした。
「待・てえ。逃げる・ことはない」女神に声を掛けるギターマスターは、奥より歩いてきた。
女神の前にはっきりと姿を現した。
「黒の友達。私を・恐れているのだろ。過去。私がしたことで」
「そうよ。あなたのおかげでひどい目に遭ったんだから」疲れを忘れるほど女神は怒った。
「すまな・かった。あれは・六つ目の命令なのだ。私の意志では・ない」
黒いハットを取りギターマスターがお辞儀をする。いきなりギターマスターの足元から煙が出る。煙は広がりギターマスターを包んだ。
何が起きているのか女神は理解できず驚いた。
「危ないわ。とりあえず外に出よ」
「心配ないよ~」女神が焦る一方で黒の子鬼は落ち着いていた。
「何言ってるの。クロ。早く出てよ。言いえ出なさい」
「わかったよ~」命令され黒の子鬼は女神と一緒に家を出た。
女神は安堵した。家の方を振り返り見た。家の出入口より煙が出ていたが、だんだん煙の勢いは収まった。完全に煙が消えると、ギターマスターが出て来た。
「えっ。・・・かわいい」ギターマスターを見て女神は呟いた。
「逃げないで。単なる変身が解けただけなんです」とギターマスターが女神に声を掛けた。
ギターマスターは、子鬼が人間に化ける時と同じ変装魔法を使っていた。
「何。そのかわいい耳は」
「かわいいとは言わないでください。れっきとした一族の象徴なんです」
ギターマスターは女神に耳のことを言われムスっとした。
ギターマスターは兎の魔物で、毛は白く、モコモコしていた。耳はピント立ち、背は子鬼ぐらいで人間に変身していた折の半分だった。
「休んで行ってください。罪を償いたいんです」潤んだ赤い目でギターマスターは女神を見た。
何てかわいいの。ああ~見ないで。女神は断れなくなる。
「わかった・・・わあ~ちょっと待って」
ギターマスターのかわいらしさと戦う女神は黒の子鬼、
「あっちで話したいの」と歩き出す。女神はギターマスターを見ないよう背を向け黒の子鬼に相談した。
相談はギターマスターの性格や、なぜ私たちを救うのか。話し方が人間に化けている時との違いなどを聴いた。
「そういうこと。うさちゃんも大変ね」
「ダメダメ。マスターに聞こえる。怒らしたら休めないよ~」
「うさちゃんて呼ばない。マスターね」
女神たちはギターマスターの家に入っていった。




