城出
六つ目は城を出て行った翌日、黒の子鬼は牢獄に居た。女神と話していた。六つ目に言われたドアの補修仕事を忘れ。と言うより仕事をする気がなかった。嫌な魔物の部屋など一生直すかと心に決めていた。
六つ目の部屋のドアは右端に小さい穴が開いたままだ。
六つ目から解放され、黒の子鬼は上機嫌だった。
「絶好調。六つ目とは絶交」
「嫌な上司が出張で角伸ばしてるね。いつもより角が輝いてる」
角を女神に褒められ黒の子鬼は調子に乗っていた。女神は角以外にも歌を褒めたり、普段の会話よりお世辞が多かった。黒の子鬼はそんなことは気にせず調子に乗る。ある思いが女神の中に渦巻いていたので、黒の子鬼を褒めていた。
言わなくちゃ。こんな機会は二度とないかもしれないんだから。女神は意を決して黒の子鬼に言った。
「聞いて欲しいことがあるのクロ」
「聞いちゃうよ~」踊る黒の子鬼。
「城を出ましょ。私と一緒に逃げて、クロ」
女神の言葉に驚き黒の子鬼は踊りを止めた。
「何言ってるんだよ~。俺たちここでいっしょ~」
「ううん。私は一生ここに居ない。大切なことがあるから」
「俺といるよりも?めんぐみん」
外気を取り入れる窓を見て女神は母を思う。そして女神は、牢獄のドアに近付き食事の入れる小窓より手を出した。
「クロ来て」小窓より出た手を振り黒の子鬼を呼ぶ。黒の子鬼もドアの近くに行く。女神は一度手を引っ込め小窓より様子を見る。ドアの前に黒の子鬼の角が在らわれる。角は先が尖り、白かった。女神からは角の上三分の一が見えていた。
「角、触ってもいいクロ」
「めぐみんならいいよ~。ほかのやつはだめ~」喜ぶ黒の子鬼、角は子鬼にとって特別な物だった。子鬼とって角は生命力の証し。立派な程子鬼の世界では尊敬された。しかし、黒の子鬼の角は色が悪かった。普通、角は茶色になるものだった。角が白と言うとことで他の子鬼にバカにされ苦労していた。
「じゃあ触るね」女神は人差し指で、角の先端にちょんちょんと触れた。
いたい。ちょっとちくちくするんだ。
そう思いつつ、女神は右手で角の先端より下の部分を握り、触り心地を確かめる。けっこうざらざらしてると感じた。一通り女神は角を触り、手を離す。
「ありがとう。もういいよ。クロの角すごいね。硬くてざらざらで驚いちゃった」
「そうかい。俺も爽快。もっと触っていいよ~」黒の子鬼は角を触られ喜んでいた。角を触らすことは親友の証しだった。黒の子鬼にとっては初めての親友。それでひときわ喜んだ。
「今度は私の手を触って」小窓より女神は手を伸ばした。
「わかったよ~さわるんる~ん」黒の子鬼は女神の手を見上げた。
黒の子鬼は手を伸ばすが届かない。背伸びするがあと一歩届かないので黒の子鬼はジャンプした。
「わあ~」女神の手の甲に黒の子鬼の手が触れた。女神はいきなりごつごつした物に触れられ驚いていた。その後も黒の子鬼は何度もジャンプし、女神の手を触った。
女神は触られるのに慣れてきたが、黒の子鬼のやり方にも~ダメでしょうといらいらした。
「クロ。食事入れる時に使う台あるでしょ。それ使いなさいよ」
「わすれていたよ~。持ってくるよ~」牢獄を黒の子鬼が離れた。
数分後戻ってきた手には木の台を持って。牢獄のドア前に台を置き黒の子鬼は乗り、女神の手を触った。
「どう。触って」手の指を触られながら女神は黒の子鬼に聞いた。
「硬くてやわらかい?冷たく温かい・・・俺には分からないよめぐみん」黒の子鬼は右へ、左へ、頭を傾ける。女神の手を触るのを黒の子鬼が辞め、自分の手を見ていた。
三十秒後触るのを止めたと思い、小窓から女神は手を引っ込めた。
「これが人間の手よ。体が弱った。捕まる前は、私の手もっとやわらかく、温かかったのよ・・・」
言葉に詰まる女神、間がトン・トン・と開いて話を続けた。
「分かったでしょ。私とクロは違うってこと。クロには角があるけど私にはない。人間と魔物は違うのよ。だけど私たちには共通の思いがあるわ。自由よ。私は牢獄を出たい。クロは歌を歌いたい。私たち自由を求めてるのよ」
何となく黒の子鬼は理解する。
「俺角ある。歌、歌いたいよ~」
「でしょ。このままここに居たら自由はないのよ。六つ目が居ない今しかないの。クロ、私と逃げて。歌をみんなに聞いてもらいましょ」
牢獄のドア前で女神は祈った。手と手を合し。黒の子鬼は悩んだ。女神を救いたいし、歌を自由に歌いたい気持ちはあった。ただ、六つの目が浮かぶ。何時も監視されていると恐怖が刷り込まれていた。
「逃げたいよ~。歌いたいよ~。けど出来ない。ご~めん」
断られても女神は祈り続けた。
「お願い。もうここに居たくないの。それにクロ。外の世界は楽しいよ。一緒に世界を旅しましょ。クロの歌をみんなにさあ聞いて貰お。城を出たら嫌なことも忘れられるし」
嫌なことを忘れられる。めぐみんと旅行しながら歌えるのか。俺の歌もあの方に近付けるかも。黒の子鬼はそんなことを考える。
回答が出ない黒の子鬼に苛立ち女神は祈るのをやめ、立ち上がった。手を小窓より出し指で斜め上をさす。
「じれったい。自由の旅に出る・の!」
「はい。分かりました」女神の剣幕に押され黒は反射的に答えてしまった。
六つ目も怖いがめぐみんも怖い。黒の子鬼は鍵を取りに行った。




