弁護士試験
六つ目の居城を旅立った青の子鬼は一週間後、王城に面接に来ていた。
「こちらです」背広を着た男に青の子鬼は王城の中を案内されていた。あるドア前で背広の男の歩みが止まった。背広の男はドアをノックした。
「大臣様。弁護士の面接に来たものが居ります。入室してよろしいでしょうか」
大臣?王に会えると青の子鬼改め青の人物は思っていたので、少し驚いた。ただよく考えれば王自ら面接をするのも可笑しいかと気持ちを切り替えた。
「入ってよいぞ」部屋の中から声がして、背広の男がドアを開け、二人は部屋の中へ。
そこには白髪の大臣が椅子に座り待っていた。机上には書類らしき物があった。白髪の大臣は魔法ペンで書類に何か書き込んでいる。
ペンを走らしながら大臣は、
「面接者とはそちらの方か」と青の人物を二度見し言った。
「はい。大臣様。少々変わった面接者でして」背広の男の言葉に、白髪の大臣はペンを動かすのを止めた。
「ほお~変わった面接者」ペンを置き、白髪の大臣は目を細め青の人物を見た。
「身なりは変わっておるな~」最初は青の人物が居るな程度で見ていたので、驚く素振りをしなかった。それがしっかり青の人物を見、変わった身なりと思う。青の人物はハット帽、背広、革靴、全身青で包まれていた。
若者の流行?白髪の大臣は誤解していた。
背広の男が青の人物について説明した。大臣は門前のやりとりを聞き、静かに頷くだけだった。
大臣の部屋に来るまでにも青の人物は困難が沢山あった。門兵に顔が真っ青なことと服装で怪しまれ、中々面接の担当者を呼んで貰えなかった。やっと呼んで貰っても、担当者には弁護士を証明する指輪を持っているかと問われ対応に困った。そんな証明する指輪があること自体知らなかった。
弁護士の指輪は国が発行していた。銅製の指輪には法に準ずる者と外側と内側に刻まれていた。持っていないと言い、追い返されそうになる。しかし、此度の王が求める弁護士は特別のはず。英雄と争うのですから。英雄も弁護士でない賢者を使うではないですか。私も、弁護士資格はなくとも英雄と戦える弁護力はあります。と言い担当の背広の男の気を引き、質問に答えれたら面接を受けさせて貰えることになった。
質問は、王をどのように弁護して勝というのですかだった。青の人物は悩みながらも答えた。秘密だ。君がどのような立場の人間かは知らないが、依頼人以外に弁護方針は漏らせない。それがプロというものだと自信気に言うと面接ぐらいよいでしょうと、部屋に通されていた。
「よろしい。面接しよう」書類を机の引き出しに大臣がしまい出す。
「では。失礼します」背広の男は大臣にお辞儀し、ドアの方へ体を向けた。
「粗相のないように」と背広の男は青の人物に呟き部屋を去った。
大臣と二人だけになり、緊張が増す青の人物。緊張でいつもの癖が出る。姿勢を正しく立ってしまう。
大臣は机の上を片付け終わり青の人物を見た。
「ふっ。そう緊張せんでよい」
ぎっくと青の人物がする。しまった。緊張を見せてはいけない。やれる弁護士と思わせるんだ。
「ははは。長い時間待ったもので、体が石になりました」
「それは。そちらの椅子に腰を掛けて。ドアの前に石像があると困りますんで」
「お言葉に甘えて」
ドアの横にある椅子に青の人物が腰を掛けた。
大臣は真剣な顔になり、
「お聞きしますが・・」この言葉が面接の始まりだった。
大臣は弁護経験があるのか聞いた。青の人物が弁護士でないから、経験を聞くのも当前だった。その辺を青の人物も理解はしていたが、嘘を付けば裁判記録を調べられると考えた。
「私の裁判経験は生涯、此度の裁判だけになるでしょう」意気込んで青の人物が言った。
大臣の反応はそうですかとぱっとしない反応となった。
間違っていたかと青の人物は答えに後悔した。
大臣の次の質問は、
「裁判で王を勝たせる方法を教えて下さい」だった。
思った通りの質問が来たと、青の人物に言葉が突き刺さる。門前で使った手は使えないと考えた。王に近しき人物だからと。弁護方針を手元にある情報だけで組み立てるしかない。やれることをやろうと青の人物は答えた。
「手元に裁判情報がなく具体的なことは言えませんが、勇者に勝つには相手を知ることが重要です。知ること・で・王は勝てるでしょう」大臣はそうですかと言うだけで、前と一緒の返しだった。
ただ前回と違うのは明らかに声が小さく、真剣に聞くきがなくなっている様子。青の人物も大臣の様子に落胆した。
このまま普通にやっていたら受からない。他の弁護士と違う所を見せる思いを強くした。
最後に大臣はなぜ弁護士に応募したか尋ねた。ばっ、と青の人物は立ち上がり言った。
「私は王になど興味はない。王を裁判に勝たすと言うより、勇者を倒したいのだ。そのために今回弁護士に応募したのです。大臣。私を採用してください。勇者への恨みは王より深く、絶対に裁判に勝ちます」
大臣を睨みつける青の人物は、その瞬間魔物の本性が露わになる。大臣も異様な目のギラつきに何かを感じ、
「もう少し勇者への恨みを聞かせて欲しい」と食い入るように青の人物を見ていた。
大臣と青の人物は深く話し込んだ。
青の人物が面接を受け一週間後、最終選考が王の間で行われた。王の間には王と白髪の大臣が最終面接官として居た。弁護士の最終選考者も王の間に居た。選考者は青の人物ともう一人が片膝を付いていた。
青の人物と最終選考に残った人物は、弁護歴四十年のベテラン弁護士。略称無敗の弁護士。裁判では負けたことがなかった。勝てそうもない裁判でも、引き分けに持って行く妙技を略して言われた。
王は椅子に座り大臣に命令した。
「始めよ」
「はっ」王にお辞儀をし、
「選考を始める一同立ちなさい」と大臣は選考者に命令した。
青の人物はすっと立ち上がり、無敗はよろよろ立ち上がった。
「課題を言い渡す。裁判で勇者に勝つ弁護方針を述べよ」と大臣が青の人物に向け言った。
面接を通して言われた課題だった。青の人物は常にこの課題を聞かれ、答えに迷いはなくなっていた。
「裁判に勝つには情報です。勇者にスパイを送り、事前に裁判情報を得ます。それだけでなく、王の行動も裁判には大事です。あまり強引なことは辞めることです。最近のデモが起きた理由は何が原因でした。・・おっと失礼。本題に戻ります。王は動かなくても、勇者に勝てます。勇者の訴えは過去の偽薬裁判を覆すことです。ただそれは無理でしょう。私が調べた所、現在偽薬裁判の関係者は一人も生きていない。証人を呼んで話を聞くのは無理でしょう。これは過去を覆す時には中々難しいことから、私は裁判で十割勝てます」
自信満々に青の人物は王にお辞儀した。大臣は無敗にも同じ質問をした。
「若いですな。そちらの方は。裁判を知らないようだ。受け身では裁判に勝てませんぞ。積極的に動かないと。私はそれで四十年負けなかった。今回の裁判でも負けないでしょう。勇者の弱みを握り、裁判関係者を買収する。後、勇者が不利になる情報を流す。それでも裁判に負けそうになったら、勇者に暗殺者を送りこむなど、使えるてなら、なんでも使えばいいのです」
無敗の弁護士は別の名前も持っていた。無慈悲のように相手を苦しめ、本人が悲しむことが無い、無悲の弁護士と。
選考者の答えが終わると大臣が言った。
「しばらく待つように」と選考者を広間から外に出す。
青の人物は待っている間、落ち着かなかった。決まる。ここで採用されなかったら六つ目に殺されると、汗が出る。角が無性に掻きたくなる。ただ帽子を脱ぐと変装が解けるので、我慢した。
無敗は裁判で四十年間判決を待つ経験がさせるのか、静かに壁に寄り添い待っていた。
「選考者を中に」広間から大臣の声がした。
広間のドアが開き選考者は広間の中央に向かって歩いた。中央に近付くにつれ、青の人物の緊張が増した。選考者は片膝を付き、審査結果を待った。
王が大臣を見、顎で合図した。
大臣は合図を見て、
「此度、弁護士として雇うのは・・・青の人物とする」と発表した。
嬉しさのあまり青の人物は帽子を脱ぎそうになる。しかし、脱いでしまったら今までの苦労が水の泡ではないかと留まった。
何とも言えない喜びだ。久しぶりだこんな気持ちは。子鬼のリーダーに抜擢されて以来か。次はもっと上に行ってやる。青の子鬼が気分に引っ立ていると邪魔する者がいた。
「お待ちを。どの理由で私を外すのです。王よ。偽薬裁判を担当した弁護士ですぞ。これほど今回の裁判、適任者がいましょうか」静かにしていた無敗が立ち上がり王に言った。
何を言っているのだと不快な顔で、片膝を付いたまま青の人物は無敗を見上げた。
「儂もそなたを雇いたかったが、大臣がそこに居る者を押すんでの」怪訝そうに大臣を見る王。
無敗は大臣の方に向き聞いた。
「私がこの人物に負けた理由は」
腕を後ろに組み大臣は歩き出す。ゆっくり無敗の方へ近付いて行く。
「あなたは名誉裁判には向きません。普段の裁判でしたら迷わずあなたを弁護士に雇います」
無敗の前まで大臣が来、歩みを止める。
「此度、雇はない理由は原告が勇者(英雄)と言う、特別な相手だからです。あなたのやり方では名誉裁判に勝てない。それに間違えば王の名誉が傷つく原因になりかねない」
大臣は更に無敗の近くに寄り肩に手を当て、
「だから雇えないのです」と言い、肩から手を離し歩き出した。
「特別な原告と戦うには特別な相手が必要になり、私はこの者を選んだのです」
大臣は青の人物に近付き、
「立ちなさい。特別な弁護士よ」と囁いた。
青の人物は大臣を見ながら立った。
大臣は青の人物を見て言った。無敗の方へは一切向かずに。
「無敗答えよう。この者が選ばれた最大の理由は勇者への恨み、嫌、怨念。並みの人間では理解できぬほど、家族・仕事場・知り合い。この者の周りは勇者に被害を受けた者だらけと、恐ろしい環境で生きてきた。それに無敗立ち向かえるかね」
「執念。恐ろしいですな。例え思い入れが違うと言われるが弁護士は常に私情を挟まぬもの。裁判にとって命取りになりますぞ」王の方を向いて無敗は言った。
王は椅子に肩肘ついて状況を見ていた。
「その考えだから勝てないのです。此度は特別な裁判。常識など通用しない。それにこの者は勇者に詳しい。内面を特に見抜いている。簡単に調べて勇者を理解したなどとは、違うのだ」
「私を甘く見ないでほしい。四十年の裁判生活で相手を理解してきた。王よ再検討を」
王は不機嫌そうに青の人物を指さした。
「そちも意見を言え。このままだんまりを続けるなら採用を取り消すぞ」
気怠そうに王は手を下ろした。気怠そうに見えたが内心は、どっちが言い負かすか楽しんでいた。
そうまで言われたので、青の人物は無敗に向かって言った。
「あなたは勇者と戦うには年を取り過ぎた。戦う気力があなたと私では違う」
「年齢を補う経験が私にはある」
「経験は役に立たない。勇者にどれだけ特化した弁護士かが、大切です。あなたに質問しますが勇者の何を知っているのです」青の人物は勢い良く言った。
しかし、無敗は顔色変えずに淡々と答えた。
「そうせがまれても困りますな。勇者のことは知りませんが、あんたのことは一つ分かった。冷静さを装っているが、時より素が出るようですな。弁護士は感情を出してはいけませんぞ」
見透かされ、青の人物は焦りが顔に出そうになる。出世。出世。不採用は死。と心で唱え感情を抑えつけた。
「けっこういい加減だな。弁護士を引き受けるのに、原告を事前に調べていないとは。これでは無敗が弁護士に選ばれたら負けますよ王」青の人物が王に向かって言った。
すると王が立った。
「そちが弁護士でよい」王が青の人物を指さした。手を下げ王は歩き出した。選考者が入室した出入り口と反対のドアの方へ歩いて退出した。
「選考は終わりだ。無敗はお引き取りを。弁護士になった者は部屋にどうぞ」大臣が言うと無敗は、
「裁判に負けても知れませんぞ」と言い残し去って行った。
青の人物は勝ててよかった気持ちに包まれていた。




