次期魔王
魔王が亡くなり魔物たちは魔王城に集い会合を開いた。会合は椅子の魔。そこは魔王しか座れない椅子が中心に作られた大広間。魔の椅子は背もたれに人間の目が散りばめられ、黒い岩石を刳り抜いた椅子。大広間の四隅には水も流れていた。水はヘドロと悪臭が混じる魔泉より引き込んでいた。大広間全体は鼠色の石造りだった。
椅子の魔には六つ目と五つ目、四つ目の魔物が居た。六つ目は魔の椅子の横に立ち、五つ目は椅子より左四メートル、四つ目は椅子より右四メートル離れた場所に互いに立って居た。
「魔王様亡き後、我らはバラバラだ。早く次期魔王を決めねば、人間に滅ぼされるぞ」六つ目がそう切り出した。
「困る。困る。纏まらないと」上半身が牛で下半身がシマウマの五つ目が答えた。
「同意するが、誰が魔王になる」四つ目が言った。四つ目は木の魔物で、頭には白い葉っぱで覆われ、目は幹四面に一個づつあり根っこで歩いた。
誰が魔王になるかで、六・五・四の目は互いに警戒した。六つ目は当然自分が魔王になるべきと考えていた。その根拠を五・四の目に分からそうとした。
「目の数から言って次期魔王は俺で決まりだ。話は終ったな」椅子に六つ目が座ろうとした。
「待て。待て。何をしてやがる。まだ決まっておらんぞ」
六つ目が椅子に座るのを止める五つ目。四つ目も同じく止めに入った。
「目の数は魔物の強さの証明でも、今の時点で一番目が多い者が魔王になるのは同意しかねる。魔王様と他の魔物とは次元が違う強さが在られた。六つ目、あんさんが魔物中で一番目が多くても、それほど我らと強さが変わらぬ」
四つ目にそう言われ、六つ目は椅子に座るのを止め、元いた場所に立った。早く魔王になれるものだと思っていた六つ目は予想外の展開になり苛立つ。
次期魔王は儂で決まりだろう。ごね寄って。
「五・四、次期魔王の決め方に意見があるなら他に良い方法を言え」
五つ目が上半身の右蹄を前に出した。
「戦う。戦う。全魔物で一番強い魔物が魔王でよい」
「同意できぬ。次期魔王は強さより統率力を優先するべき」魔物たちはそれぞれの思惑があった。
五つ目は、武闘派と呼ばれ、強さを信念とする魔物を率いていたので、魔王とは戦闘力と考えた。
四つ目は、弱い魔物を統率。どの魔物グループより数は多かった。結束力こそが魔王だと考えた。
六つ目は、知能が高い魔物を集め、裁判が開ける魔物こそが魔王と考えていた。誰が魔王になるか話は平行線を辿った。
五つ目が、
「話。話。うんざりだ。ここで決着を」シマウマの足が動きだした。五つ目は噛みつこうと六つ目へ襲い掛かかった。
唐突に攻撃されたので、六つ目は反応が鈍る。噛まれることは避けられないと思い右腕を出した。
五つ目の歯が六つ目の腕に食い込んだ。六つ目は痛いと感じたが、それは鋭利な物で刺される痛みではなかった。抓られる痛みに近かった。
「離せ。痛いだろうが」
ただし痛みはとんでもなかった。腕はプレス機で挟まれたようにどんどん強く痛んだ。六つ目も抵抗した。五つ目の額に手を当て突き放そうと押した。徐々に五つ目の歯が腕より離れていく。強さの象徴である目数の違いで、何とか六つ目の方が有利であった。
六つ目と五つ目との距離が開いた。
「焦るな。まだ魔王を決める方法が纏まってないぞ」
「魔王は。魔王は。戦えば簡単に済む」
鼻息が荒くなる五つ目は、六つ目へ挑戦を続け突進した。
六つ目は手で五つ目の挑戦を止めた。額を手で押え五つ目の突進力を抑えた。
バカ者が、なぜ力に頼る。そのために魔王様は勇者に負けたのがまだ分からんか・・・そうだ勇者だ。
「聞け。魔王を決めるのは保留だ」この言葉に驚き五つ目は突進を止め、その場に立った。六つ目は警戒しながら五つ目の額から手を離した。
「何。何。決めない」
「せっかくの集まりを保護にするのは同意しかねる」静観していた四つ目が話に入って来た。四つ目は五・六つ目がこのまま仲間割れをし、共倒れになるのを待っていた。それが六つ目の発言で状況が変わったと察知していた。
六つ目は理由を話した。
「保留は魔王を決める方法が思いついたからだ。その方法は勇者を倒すことだ。魔王様を殺した仇。復讐を果たすことこそ魔王様を越えた証明だ。四・五、文句はなかろう」
直感的に五つ目は二度頷いた。四つ目は目を全部を閉じ、三十秒後全部の目を空けた。
「同意する。勇者を倒し者が魔王で結構」四・五つ目を説得できた六つ目はほくそ笑んだ。
分かっていないバカ共。勇者に力や数で勝負しようが勝てないぞ。何年勇者と戦ってきた。お前らの戦い方は古い。裁判を使って倒す考え方を持てぬとは・・・儂が魔王にふふふ。
六つ目の提案を受け会合は終わった。勇者を倒しに、四つ目は葉っぱを落としながら、五つ目は蹄の跡を残し、椅子の魔を出て行った。
椅子の魔に残った六つ目は、魔の椅子の肘掛けを手で触った。右の肘掛けを皮切りに、背もたれ・左の肘掛けと流れるように触った。椅子の感触を楽しんだ。
六つ目は魔の椅子の正面に立ち、座面を見た。
「この椅子が儂の物になる。ふっふっふ・はっはっは」
魔王城に六つ目の笑い声が響いた。
魔王を決める会合より三日後、六つ目の居城、牢獄の女神に会うため、黒の子鬼が来た。
踊りながら、
「六つ目が魔王にならなかったよ~」笑顔で黒の子鬼が女神に報告した。
「え~本当。よかったじゃない」手を叩きながら笑顔で女神は喜びを見せた。
「いえ~い」牢屋の食事を受け渡す窓に、ジャンプしながら黒の子鬼は手を伸ばした。女神は窓に近付き、窓にひょいひょい出てくる黒の子鬼にの指を、ちょこんと触った。
「いえ~い」黒の子鬼と女神は喜びを分かち合った。
女神はもっとすっきり手と手を叩きあえたら気持ちいいのに、ちょっと、不満が残った。
窓に顔を近付、女神は黒の子鬼を見た。黒の子鬼も窓に顔を近付けた。ただ、黒の子鬼は背が低く窓の位置まで届かなかった。女神からは子鬼の角が見えるだけだった。
「クロ。上司が魔王にならなくて良かったけど、誰が魔王になったの」
「・・・魔王なっしん。話しほりゅう」角が揺れる。
女神は角を見つつ、魔王決まらなかったんだ。じゃあ魔王がいない状況が続くのか。牢獄出る機会があるといいなぐらい希望を抱いた。
「どうなっちゃうの。魔王がいないと大変でしょ。私はそっちの方がうれしんだけど」
「話し合い。勇者の殺害を決めたよ~。復讐の成功者が魔王」
「えっ。ストーカー倒したら魔王。へえ~結構魔物も勇者恨んでるんだ。私と一緒ね」
女神ははっとする。無造作に一緒と。まだ勇者を恨んでる気持ちがあるのかと。
すみません。悪い考えを抱きました。誓いを破りました。お許しください、お母様。もう誓いを破りませんので、私の願いを叶え、会ってください。一人考えに耽る。
「勇者、生きてる限り希望。歌を歌える可能性あり、あ~り」窓の外で角が揺れた。
三十秒後角の揺れが止まった。女神の反応が帰ってこず黒の子鬼は不思議がる。
「めぐみん。歌が歌えるんだよ~」黒の子鬼が声を掛けるが反応はない。
木のドアを軽く叩き黒の子鬼は、
「めぐみん。おやすみ~みん」と声を掛けた。
おやすみ~みんて。も~お変な言葉を使わないでよ。
「おやすみ~みんじゃないよ、クロ。起きてる。よかったね。歌える希望が見えて」女神は微笑みながら返事していた。
黒の子鬼は女神がなぜ黙ったのか分からなかった。そんなことより女神との楽しい時間を過ごせればよかった。




