検討
魔王裁判の判決で女神は勇者のストーカーになった。三年間するはずだった。本人もそうするつりでいた。女神は軽く考えていた。勇者にかみなりが落ちるとその考えは間違いだと気付いた。女神は逃走。その後どうなったかを描いています。
石。石。石。石。四方石の空間。小窓が二つ。明かり窓と開閉式窓付の頑丈な扉があった。扉は鍵が掛って開かない。開くのは一日一回のみ。端には直径三十センチの穴が一つ。空間の中央には敷物らしき布切れが一枚あるだけ。その空間に鎖で繋がれた女神がいた。鎖は硬く女神の片足と壁を結んだ。女神は勇者の頭上にかみなりを落とした。その威力に驚き、自分の行動が恐ろしくなり任務を捨て逃走した。ものの、女神の足は遅かった。監視者に捕まり女神は牢獄に閉じ込められ、一ヶ月たった。
始めの三日間は、
「出して、こんな暗い場所から」と叫んだが、誰にも届かず。叫び続け喉が瞑れ、諦めの気持ちが足の先に出て、よろけた。飯の配給はなかった。しかし、生理現象は起きる。我慢できず端っこの穴に用を足した。とても恥ずかしく惨めな気持ちに追い込まれた。
四日目、飯が配られた。汁物に何か分からない具材が浮かぶ、普段は食わないであろう物。生きるためにがっつり食べ、寝た。石は冷たく、敷物は役立たずだった。連日の寝不足が続いた。
五日目、体力がない状態で腹痛に襲われた。昨日出された食べ物に当たる。穴に用を足さないといけない恥ずかしさも忘れた。
「助けて、お願い」一日中腹を下した。その様子に、開閉式小窓から薬草が投げ込まれた。薬草を草食動物のようにむしゃむしゃ食べた。その後も飯を食べ、腹を下し、草を食べた。
二週間目、この生活にも慣れ腹を下さなくなった。しかし、元気ではない。体は何とかだったが、精神は病み始めた。永遠に閉じ込められ、自由はないのではと希望が見えなくなる。
「うわ~。バンバン。だせ~」たまに扉や壁・鎖を叩き錯乱した。疲れ動かなくなると脱出方法を一日中検討。捕まった初日から考えたのに、結論は今だ出ず。明かり窓は小さく逃げるには不可能。穴は排泄物とゴミの悪臭を放つ。逃げるうんぬの場所ではなかった。扉は頑丈、壊すのはダメ。といろいろ模擬実験を頭でした。結論が出たのは二週間目最終日だった。
三週間目、脱出に向け動く。
「看守さん、います。話し相手になって」縋る声と丁寧な話し方を使い看守を呼んだ。何度も、何度も、どんだけ呼んだだろと本人も分からないほど続けた。三日目に思いは通じた。
「何でしょう~俺に用~」変な言葉使いの看守が呼びかけに応じた。同情を引こうと寂しい心の胸の内を看守に伝えた。最初話をしたら六つ目魔物に怒られると看守に敬遠された。それでも根気強く四日間話した。結果看守の性格を掴んだ。性格は、話しだしら止まらない。勝手に歌い出すほど、歌好き。特にラップを刻むのが好き。言葉使いにも表れるほど。あと仕事は嫌々していることが分かった。本人は音楽活動したく、憧れの人物がいるらしい。その人物は、相手を眠らせるほど歌が上手いと何遍も聞いた。
四週間目、看守も情が湧いてくる時期。思い切って言おう。
「出たい」監守は願いの籠った言葉に揺れ動いたのか、分からない間を空け言った。
「考えとく」いつもの調子と違った言葉使いだった。手ごたえを得た。これは何か起きるかもと期待を持ち、女神は念じた。
早く青空が見たい、雲一つない世界に飛び出したい・・・・と。
作法。規則。法律。戒律。社会の中で生きるために守るもの。破るものは社会で生きられない。しかし場所・時代・生物が違うと守るものは変わった。それを強く守らせる手段の一つに裁判があった。裁判は人類が作り上げた。社会と共に発展を遂げ複雑化した。裁判は他の生物は利用していないと思われた。それに眼前と挑むごく一部の変わり魔物がいた。裁判を研究すると同時に裁判をやってみた。過去二回やるが不完全なものだった。
「六つ目様。情報が入りました」鼠色のレンガ造りの部屋。青の子鬼は左手に書類を持ち、右手で敬礼し六つ目魔物に言った。
「裁判の判決は」象でも座れそうな黒い大きなソファー、六つ目は座っていた。
「黄の報告では、緑錆の海裁判は勇者が敗れたそうです」報告後、敬礼の手を下ろし、きっちりと立った。
「負けたか。ふぁふぁふぁ。勇者め、儂を繰り返し笑わす」
「はい。笑えます」
「笑えるが、何度勇者は裁判に負けた」太腿に添えられた指が動き出す青の子鬼。指が動くと脳も動き記憶を呼び覚ます。勇者が三度負けた事実を口を操り出力。
「三度です」
「ふん」六つ目は鼻で笑った。負けてるな勇者、裁判で勝利した経験はあるのか、馬鹿にした思いが行動に表れた。
「負けた事実は分かった。具体的に裁判の詳細を話せ」
「はっ」と青の子鬼は敬礼し、書類に目を通しながら述べた。
「裁判の争点は勇者が緑錆の海環境問題で、健康被害が出たそうです。この被害者たちが勇者を相手どり、賠償金を要求しました」
「うん。それで」
「勇者側は、賠償金を減らす弁護をしました。自分たちは魔物に汚水が入った小瓶を投げられた。被害者なんだと言ったそうです」
しめしめという顔に六つ目がなる。成果が出た、儂らは勇者を苦しめているぞ。六つ目は自分たちの行動は間違っていないと自信をつけた。
「おもしろい弁護をするな~勇者は」
「はい。事実、私たちがやりましたから、勇者も責任転嫁をしたかったのでしょう」青の子鬼は勇者たちの心理分析を言った。六つ目は頷いた。
「それで、勇者たちの弁護は通じたのか」
「通じませんでした。被告側は反論したのです。汚れた水を投げられ被害者と主張するが、汚水処理を間違ったのではないですか?報告の遅れ、汚水の垂れ流しに放置。と勇者たちに突きつけたのです」感心でほ~、と六つ目は息が漏れた。
「で、勇者はどうした」
「反論できませんでした。それで勇者たちは負けたのです」
「別の意見はなかったのか」
「なかったようです。最初から、勇者たちは勝てないと悟っていたのでしょう。私たちに責任を擦り付け、あわよくば・・・同情で賠償金減額を夢見たのではないでしょうか」
「なるほど」ソファーより立ち上がり、八つ目はぶつぶつと呟き歩く。その様を目で追う青の子鬼、きれいな姿勢を保ち六つ目を待つ。六つ目の口と足が止まり、青の子鬼を見た。貴重な意見を賜ると、青の子鬼が期待した。
「汚れた水だ。喉が渇いた。持ってこい」期待を裏切られた青の子鬼が敬礼。その後空間の外に行く。六つ目の指示を空間の外に居た赤の子鬼に伝えた。
「極上の汚れた水を一杯。へどろを効かせろよ。あのろくでなしの好物だからな」横柄な言い回しな青の子鬼。上司の前と部下や同僚に対する言動は違った。赤の子鬼は素早く命令に従い水を取りに行った。
途中、
「ゴマをすりすりしやがる」悪口を赤の子鬼が叩いた。
汚れた水が来るまで六つ目と青の子鬼は検討会を続けた。
「裁判の力はすごいぞ」六つ目はソファーに座り言った。
「はい。恐るべしです」きっちりな姿勢で青の子鬼が立つ。
「あれだけ強い勇者が、ここまで苦しめれれたんだ。儂らも裁判を開くぞ」気勢良く六つ目が言うものの、青の子鬼は冴えない顔を浮かべた。緑錆の海裁判の被害者を救済することが、我らにできるだろうか?汚れた水は、魔物にはありがたいしなあ・・・。それに汚れた水を流す原因を作ったのは我ら。裁判を開廷してもいいのか?
「おい。青、聞いとるのか」反応が悪いのが許せなく六つ目が声を荒げた。青の子鬼は平謝りした。のち、自分の思いを述べた。
「開廷はやめるべきではないでしょうか」いつも、いつも、変わらず、はいを言い続けてきた部下に否定された。否定される免疫を持たない六つ目は怒る。怒りは目に表われ血を流させた。
「開かない」
「いえいえ。開かない方がいいのではと可能性の話です。六つ目様が開きたいと言われるなら準備します」六つ目の流血は止まった。青の子鬼は血が止まり安堵した。
「可能性の話だな」ここまで機嫌が悪くなるのか、否定されるのを嫌う、否定するならやんわりと。
青の子鬼は新たな六つ目の性格を知った。
「はい。可能性です」
「裁判を開けない」意見を聞く気になった六つ目は青の子鬼に言ってみろと、命令。
「仮定の話ですよ。あくまで」先ほど考えた、自分たちの関与が被害者に露見、逆に勇者が人間の裁判で有利になると言った。
「困るぞ」勇者を助ける自分たちを想像した。その悍ましさは六つ目を悩ます。明らかな苦悩が手に取るように青の子鬼は分かった。しょうがない、元気づけるかと口を出した。
「そこまで悩まないでもいいのではないでしょうか。緑錆の裁判は勇者を相当苦しめています。お金という物で」悩みは消え、六つ目はお金に興味が湧いた。第一回魔王裁判で原告に払ったのを忘れていた。六つ目はお金に関心を向けずに来た。単なる金の塊としか認知してなかった。
「お金とはそこまで、苦しめるのか人間どもを」
「とてつもなく。裁判の判決に、体に与える罰・金を払わす罰があるのですから、価値は高いのでしょう」頷き六つ目は言った。
「開くのはやめだ。様子を見るぞ」結局、六つ目は裁判を見送る判断をした。青の子鬼は六つ目の異変を感じ始めた。
変わられたのでは?前なら決断、実行が早かったのに、問題を先延ばしに・・・行動をとらない。魔王様がどう思われるか。ああ・・・ヨイショする相手を変える時期なんでは。七つ目様に鞍替えも頭に入れとくかと、青の子鬼が身体を考える所に、
「しつ、室、失礼?します」と空間の扉が開いた。
「遅いぞ。早く汚い水をだせ」裁判を開けなく不満の六つ目が汚い水を要求した。しかし、入ってきたのは、水を持っていない黒の子鬼だった。