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26 視察士

視察士



どうやら俺たちのやってきたことは、『王国の存在を救うもの』だったらしい。


そして、アリサのあの驚異的な魔法の正体が知れた。


それは、『借り物』でもうすでに無くなった。


それを知った大臣の『ホッ』とした顔が印象的だ。


それと、あの力の出所が『魔物から』と知った驚きの表情が面白かった。


その情報の結果、魔物達との和睦はすんなり行なわれる。


魔物領に『人間は一切入れない』という厳しい条件をつけたぐらいだ。


その内容は魔物側の条件をほぼ全面的に受け入れるものだった。


俺とアリサは、調印の席に立ち逢わさせられた。


リザードが、俺達にウィンクをする。


こうして魔物との友好は全てが、順調に滑り出した。




王城近くの空白地は、魔物側が農場を経営する。


その取引の権利は最初に豚と牛を無償で供与した料理長に委ねられた。


最初、魔物たちはその恐ろしい外見に怖がられる。


しかし、話が通じるようになってくると変わった。


魔物達の温厚な性格が知られて来る。


そして、人間以上に『義理堅い性格』と知られた。


ただ、王国担当者に言わせると『お人好し』とも受け取れる。


そのため、人間界に入ってきて騙されると大変だ。


そのため、接点を規制した。


魔物側もその点を承知している。


そのため、必要以上に人間に干渉しない。


その唯一の接点がその農場だった。


やがて、その農場の入り口にいちが出来た。


人が住み着いて町にまで発展することになった。




アリサと俺が拝領した役目がある。


それは『国内を回って、残っている不穏な芽を片付けて欲しい』ということだ。


俺たちを全面的に信用しての依頼だ。


そして、『庶民の目から不正を正して欲しい』という願いだった。


俺は、そんな大層な役を『断ろう』とした。


しかし、雰囲気は許されるものではない。


つまるところは別件だ。


王城の近くにいては俺達が第二の側近になるから追い出された。


それが、真相らしい。


現に俺は滞在中ひっきりなしに王からお呼びが掛かる。


大臣たちの心配は杞憂ではなさそうだった。




アリサは公費でおいしい物が食べられる。


そうと知ってご機嫌だ。


でも大臣たちは知っているのだろうか。


アリサの食い意地の凄さを!


おそらく知らないからこのような指示をだしたのだろう。


俺は、将来大臣が青い顔で『視察中止を言い出す』と予想していた。




アリサは『公費で旅行できる』と知ってご機嫌だ。


彼女は『海が見たい』という。


俺たちは、当面の目標を海に向かうことにした。


当然、川沿いに下って行けば海に出る。


俺たちは急ぐ旅でもない。


それで、のんびりと歩いて向かうことにした。




途中の村で宿泊する。


アリサは早速権利を主張した。


「村で一番おいしい物を食べさせろ」と騒ぐ。


アリサの身分を知った村長は真っ青だ。


俺は、見ていて可哀相になる。


しかし、料理技術のお粗末な世界だ。


出されたものは鱒の塩焼きぐらいなものだった。


アリサはがっかりする。


その様子に村長の顔色は益々青くなるほどだ。


その様子を見た俺は少し工夫をすることにした。




俺は宿の厨房を借りて料理を作ることにする。


料理と言っても俺自身菓子が専門だ。


本格的料理などあまり知らない。


また、村にはめぼしい果実もなかった。


そのため、作れる菓子は限られている。


とりあえず、アリサを満足させる食事として考えた。


それは、天麩羅だ。


宿の者に油を用意させる。


そして、小麦粉を水と卵と塩を加えて練り上げていく。


見た目の通りの天麩羅だ。


実は俺自身作ったこともない。


そんな、見よう見まねの代物だ。


母親が家庭料理で作るところを見た事がある程度。


高温の油を使う。


そのため、俺には触らせてくれなかったのが原因だった。




宿の物も初めて目にする料理になる。


関係者一同は、その出来栄えに驚いていた。


俺はそこらの野菜から魚まで次々と天麩羅にする。


いろいろ作ってみて『おいしい物を探す』と言う感覚だ。


結局、鱒のおいしいところを骨抜きにして切り身にする。


その後、天麩羅にするのが一番だった。


天麩羅というより、『唐揚げに衣が付いている』という感覚だ。


素人の天麩羅なので、そんなものだった。




しかし、食後に食べるお菓子が見当たらない。


そこで、俺は残った骨をそのまま油に放り込んだ。


そして、唐揚げ風にしてみた。


揚がった所に軽く塩を振って出来上がり。


素人仕立ての『骨煎餅』というところだ。




俺が初めて作った天麩羅だった。


しかし、アリサはいたくお気に入りだ。


出す物を片っ端から平らげていく。


生憎とオーブンがない。


そのため、主食のパンは加工できなかった。


俺は、替わりにパンもこんがり揚げて砂糖を絡める。


そして、御菓子代わりにしたぐらいだ。


俗に言う、『ぱんみみドーナッツ』という雰囲気。


もちろん、芋もスライスしてチップにしてみる。


つまるところ、唐揚げの骨がアリサのお気に入りだった。




次の日、俺たちは旅立った。


しかし、天麩羅の噂は俺たちを追い越して広がっていった。


やがて、その村はおいしい天麩羅を食べさせる地として有名になったほどだ。


下手な俺が工夫するよりはるかに上手にそこの料理人は工夫をする。


そして、村の名物と言われるまで味を高めた。


しかし、その村を一番有名にしたのは・・・


魚の骨をから揚げにした骨煎餅だった。



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