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25 凱旋

凱旋



志郎は無事最後の領主を片付けた。


そして、ゲートの前に戻る。


そこにはリザードがいつも同様待っていた。


「お疲れ様」


「これで、全部か?」


「ええ、お陰で魔物側から恩人の人間を襲わなくて済みそう」


「恩人?」


「ええ、魔物は基本的には人間に感謝しているの」


「感謝?」


「そう、魔界を救ってくれた勇者の活躍にね」


「そうか、それであっさり引いてくれたのか」


「それも在るわ、でも大きな要因が出来たの」


「なんだ、それ?」


「あなたが教えてくれた調味料よ」


「それが?」


「ええ、人間を征服しても面倒が増えるだけだから。でもあなたが提示した塩は

 それ以上に魅力的だったの」


俺はあきれるだけだった。




魔物達は、あれほど力があっても『人間の征服より塩五十キロの方が魅力的』とい

う。


人間を歯牙にもかけていない様子に感じた。


いや、魔物達は相手のことを知ろうともしていない。


その点は、人間の方も同じか。


魔物達は、調味料という文化を知って人間に興味が出てきた感じだった。




「それではアリサ、用事が済んだから力を返してもらうわね」


リザードは、そう言うとアリサの頭に手を置く。


アリサは頷くと大人しく指示に従う。


アリサの許から何か抜けていくような感じだ。


俺には、それが何か判らない。


ただ、あの日から感じていたアリサの輝きのような物が消えていく。


「ありがとうございます」


アリサは、力が抜けたような感じだ。


けれども、リザードに礼を述べていた。




「アリサ? 何をしたんだ?」


「人間を傷つけないように雷の力を分けてくれたの」


「分けられるの?」


「だから、一時的にリザードの力を与えられて使わせてもらったの」


「力?」


「魔法を使う力らしいの。一時的でも凄い力だったわ」


俺は、アリサの力がリザードの力の一部である事を知る。


それを教えられて、リザードの力にあきれるばかりだ。


あの力があれば、人間など征服は簡単に済む。


彼女が、『魔界の王妃』というのも頷けるところだった。




リザードは俺たちを元の場所に戻してくれた。


「これで、人間に対して返すものは返したから」


そう言うと、俺たち二人を追い出した。


俺には『一体なんのことか』と思うだけだ。


俺とアリサは洞窟から追い出されて歩いて城に戻った。




城に戻って、十日の間のことに思いを馳せる。


リザードに言われるままに五人の領主を倒してきた。


『本当にこれでよかったのか』と思う。


約束の塩はありふれた物だ。


最初の征服のときに渡しておいた。


まるで、リザードに踊らせられていたような気もした。


けれども、討伐の意欲も消えて日常に戻る。


あのような、魔物を相手では戦う以前の問題だった。


何とか和平の道を探るしかない。


俺は、城でのんびりと疲れを癒していた。


すると、王からの呼び出しがかかった。




どうやら、俺とアリサが城にいたことがばれてしまったようだ。


俺たちが、魔王討伐に向かわずにのんびりしている。


その事が『発覚した』と思っていた。


俺は、仕方が無く城に向かう。


マイケル卿は俺たちが何をしてきたのか話は聞いている。


しかし、その情報が伝わってくるのはまだ先のことだ。


今のところ、真偽は『わからない』ということだった。




俺達が城に向かう沿道に人が並んでいた。


俺たちはその人並の中、盛んな声援を受けて王城の中に乗り込む。


一体どういう扱いなのか。


それが、判らないところだ。


沿道の声援は歓迎を意味する。


けれども、俺たちは魔物を相手にしてきたわけではない。


一方的に領主の五人を制裁してきたのだ。


罪に問われても仕方がないところだった。


それが、どう見ても凱旋のような雰囲気に感じる。


マイケル卿は人の悪そうな笑いを浮かべていた。


そして、俺たちを玉座に向かわせる。


何も教えられず、俺たち二人は謁見の間に入った。




前回、傍若無人に振舞ったお陰で顰蹙を買った謁見の間だ。


俺が大人しく勇者資格拝領の儀に従った。


それで『ほっ』という安心感を与えさせたぐらいだ。


俺達は、まだ魔王を制圧していない身。


いやこれからも制圧する気の無い身では『二度と来れない』と思っていた。




「勇者の帰還に歓迎!」


高らかに音楽が鳴る。


そして、部屋にいる貴族達が一斉に礼を行なう。


それは、国を救った者に対する感謝のような雰囲気だ。


俺とアリサは周りから捧げられる礼にびっくりだった。




「勇者アリサ!、それと勇者補佐の志郎!、両名は勇者の責を完遂してここに

 帰還する」


取り仕切っている大臣が功績を読み上げていた。


俺はその言葉を聞いて唖然とする。


『完遂』という言葉は『任務を終らせた』ということだ。


俺自身、まだ何もしていない。


ただ、やったことは味方であるはずの領主を攻撃した事だ。


なぜ、これほどの歓迎を受けるのか。


俺には、それが判らなかった。


それから、散々美辞麗句を並べられて終わった時にはホッとしたものだ。


俺とアリサは最終的に国内見回りの任を与えられた。




魔物との折衝は大臣が行う。


そして、平和的に行なうことになった。


一番大きな問題だったのが言葉の件だ。


『言葉が通じる』ということが大きな進展だった。




数日後には、魔界との国境が制定される。


そして、お互い『不可侵』という協定が結ばれた。


唯一の魔界との接点が、王国近傍に出来た魔物による農場だ。


魔物達は、人間よりはるかに上手に農場を運営する。


それは、優秀な家畜を取引に利用していた。


それと、人間が求める鉱石などが用意される。


代価に求めるものは調味料と食材だった。


その他、工芸品も次第に増えていく。


数ヵ月後には魔界との唯一の接点が注目される。


そして、そこに新たなる町が形成された。


それほどの賑わいになっていたのは後日の話だった。



戦争から始まる番外的な内容が終りました。

これで、主人公の二人は国内をあちこちと回れます。

王の依頼の許、国内の治安維持を理由に!

さて主人公の二人はどう動くか?


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