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推し活OLと天然副社長の溺愛勘違いLOVE  作者: 玲宏 優裕
第1章:運命の邂逅と勘違いの始まり
9/22

第9話:推しの動画を見ていたら、本物の(似の)男にスマホを没収されました

「……はぁ。昨日の今日で、社内の視線が痛すぎる……」


 お昼休み。私は副社長室のデスクで、精神を安定させるために『SOLARIS』の新曲MVをスマホで再生していた。

 画面の中で、KYLOカイロ様が濡れた髪をかき上げ、挑発的に微笑む。


(ああ、カイロ様……。あなたの完璧なビジュアルだけが、今の私の救いです……)


 イヤホン越しに聞こえる、吐息混じりの低音。

 その瞬間、背後にどしりとした重圧を感じた。


「――瀬戸さん。休憩中も、そんなに熱心に『俺』を見ているのか」


「ふぎゃっ!?」


 心臓が跳ね上がった。振り返ると、神宮寺副社長が私の肩越しにスマホを覗き込んでいた。

 眼鏡を外し、少しだけ目が据わっている。……供給。……至近距離での「嫉妬に狂う(勘違い)推し顔」の供給。


「あ、あの! これは、その……っ」


「……なんだ、この男は。俺に酷似しているが……動きが軟派すぎるな」


 神宮寺さんは私の手からスマホをひょいと奪い取ると、画面の中のKYLOカイロ様を険しい表情で見つめた。

 ……待って。本物の(似の)男が、画面の中の推し(自分似)を検閲している。この構図、尊すぎてスマホが爆発しそう。


「……なるほど。君は、俺がそばにいない時は、この『紛い物』で寂しさを紛らわせていたのか」


(……ちがう! こっちが本尊で、あなたは実写版なんです……!)


 神宮寺さんはフッと鼻で笑うと、私のスマホを自分のポケットにねじ込んだ。


「没収だ。こんな画面越しの虚像に、君の視線を一秒でも渡すのは不愉快だ」


「えっ、返してください! 私の命の糧が……っ!」


「命の糧? ……そんなものは、俺がいくらでも与えてやる。……こっちに来い」


 神宮寺さんは私の腕を掴むと、強引に自分の方へ引き寄せた。

 私の背中が彼のデスクに押し付けられる。逃げ場のない、いわゆる「机ドン」の状態だ。


「……瀬戸さん。君が愛しているのは、この画面の中の男か? それとも――」


 神宮寺さんがゆっくりと顔を近づけてくる。

 鼻先が触れ合う距離。彼の瞳には、余裕のない「オス」の独占欲がギラギラと渦巻いていた。


「――今、君の体温を感じている、俺か?」


(……無理。そのセリフ、KYLOカイロ様がファンミーティングで言ったら、会場の酸素がなくなるレベルのキラーワード……!)


 神宮寺さんは私の髪を指先で弄りながら、さらに声を低くした。


「これからは、その男を見る時間はすべて俺に捧げろ。……君の瞳に映るのは、俺だけでいい」


(……独占欲が、大気圏を突破してる……!)


 彼は満足そうに私の額に指先で触れると、「午後の会議の資料、用意しておけよ」と、何事もなかったかのように自分のデスクに戻っていった。

 ポケットから少しだけはみ出している私のスマホ。

 神宮寺湊は、自分が世界的なアイドルに嫉妬しているとは夢にも思っていない。

 一方、私は確信していた。


(……このままだと私、推しへの『忠誠心』じゃなくて、この『天然な魔王様』への『恋心』で死ぬかもしれない……っ!!)


 こうして、私のスマホ(推し)は奪われ、代わりに「本物(似)」による、より過激で甘い独占生活が加速していくことになった。

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