第18話:エプロン姿のバックハグ、神宮寺(似)の愛が重すぎて動けません
翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日が、私のまぶたを叩いた。
目を覚ますと、そこには世界で一番贅沢な光景が広がっていた。
(……待って。目の前に、寝起きの、前髪が少し乱れたKYLO様……じゃなくて、湊さんが……)
神宮寺さんは、まだ微睡みの中にいた。
長い睫毛が影を落とし、スッと通った鼻筋が芸術品のよう。……供給。……至近距離での「無防備な朝の推し顔」という、全世界のファンが五兆円積んでも拝めないプレミアム供給。
「……おはよう、花音。……よく眠れたか?」
低く、少し掠れた寝起きのバリトンボイス。
彼は私の腰をぐいと引き寄せ、胸板に閉じ込めた。……熱い。昨夜の「上書き」の記憶が、一気に脳内を駆け巡る。
「あ、あの! 湊さん、もう朝です! 私、朝ごはん作らなきゃ……っ!」
「いいよ。……もう少し、こうしていさせてくれ。……君がここにいる実感が、まだ夢のようで……」
神宮寺さんは私の首筋に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。
……天然。彼はただ幸せを噛みしめているつもりだろうが、その腕の力は、一秒たりとも私を外の世界へ逃がさないという「檻」のようだ。
どうにか彼をなだめてキッチンに立ち、安物のエプロンをつけた私の背中に、すぐに「それ」はやってきた。
ガシッ。
「……っ!? 湊さん、お味噌汁作ってるんですから、危ないです!」
「構わない。……君の背中は、俺が守る」
背後から回された太い腕。いわゆる、伝説のバックハグ。
神宮寺さんは私の肩に顎を乗せ、私の手元をじっと見つめている。
その仕草。KYLO様が料理系バラエティ番組で見せた「不器用なバックハグ」の、1000万倍破壊力が高いリアルな密着。
「……花音。狭い部屋だと言ったが、ここはいいな。……どこにいても、君にすぐに触れられる」
神宮寺さんは私の耳たぶを甘く噛むと、空いた方の手で、デスク代わりにしていたローテーブル上のノートPCを開いた。
「朝食を食べている間に、新会社の登記と、君の『専用口座』への送金を済ませておいた。……これからは、俺が君の人生のすべてをプロデュースする」
(……登記!? 送金!? ……『普通の生活』の定義が、またしても崩壊してる!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「新会社設立」という斜め上の溺愛へと進化した。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『神宮寺湊の専属・副社長夫人(候補)』という、全世界のオタクがひれ伏す聖域へ。
「……さあ、花音。……俺を、もっと満足させてくれ。……仕事も、夜もな」
神宮寺さんは私の指先に深く、誓いのようなキスを落とした。
神宮寺湊の「愛という名の支配」は、もう誰にも止められない。




