第15話:会長登場。私の「推し」は、世界一過保護な守護神でした
CM撮影の大成功から数日。社内は「副社長と秘書の公開キス」の噂で持ち切りだった。
私は、神宮寺さんの執務室のソファで、彼に膝枕をされながら書類をチェックするという、公私混同の極致にいた。
「……あの、湊さん。さすがにこれは、秘書の業務内容を超えていませんか?」
「気にするな。君が近くにいないと、俺の仕事能率が下がるんだ。……ほら、動くな」
神宮寺さんは私の髪を指で遊びながら、満足げに微笑んでいる。……供給。……至近距離での「甘やかしモードな推し顔」の供給。
だが、その甘い時間は、前触れもなく打ち破られた。
バタン! と、無作法にドアが開く。
「――湊! 貴様、何をしている!」
現れたのは、神宮寺グループの頂点に君臨する、湊さんの父――神宮寺 厳一郎会長だった。
私は慌てて飛び起きたが、湊さんは私の腰をがっちり掴んで離さない。
「父上。ノックもせずに失礼ですよ」
「ふん! 撮影現場で不埒な真似をしたと聞いたが、これほどとはな。……その女が、例の地味な秘書か」
会長は、私を虫けらでも見るような冷たい目で見下ろした。
「湊、お前には西園寺家との婚約がある。こんな……何の価値もない女にうつつを抜かして、神宮寺の名を汚すつもりか!」
何の価値もない。
その言葉が、胸にチクリと刺さる。……そうだ。私はただのオタクで、彼とは住む世界が違う。
私が身を引こうと、湊さんの手を振り払おうとした、その時。
「――二度と、その口で彼女を侮辱しないでいただきたい」
室内の温度が、一瞬で氷点下まで下がった。
湊さんが立ち上がり、私の前に立ちはだかる。その背中は、どんな壁よりも高く、絶大な安心感に満ちていた。
「価値がないだと? ……笑わせないでほしい。彼女は、俺がこの人生で唯一見つけた『宝』だ。神宮寺の看板など、彼女の微笑み一つにすら及ばない」
「な……貴様、正気か! 親に向かって!」
「正気ですよ。……父上、勘違いしないでいただきたい。俺がこの会社を支えているのは、彼女を守る力を手に入れるためだ。もし彼女を認めないというなら――」
湊さんは、迷いのない瞳で父親を射抜いた。
その表情。KYLO様が主演映画『反逆のプレリュード』で見せた、愛のためにすべてを捨てる主人公の覚悟と、完全に一致。
「――今日限りで、神宮寺の名も、この地位もすべて捨てて、彼女を連れて出ていく。……俺にとっての『世界』は、神宮寺ではなく、彼女(花音)なのだから」
(……ひ、ひいいいっ! 告白のスケールが大きすぎて、地球が割れちゃう!!)
絶句する会長。
湊さんは振り返ると、呆然としている私の頬を優しく包み込み、全人類に宣言するように言い放った。
「……いいか、花音。君を泣かせる奴は、たとえ親であっても許さない。……君の隣にいるのは、神宮寺の副社長じゃない。君だけに執着する、ただの男だ」
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「無敵の愛」へと昇華された。
私の『推し活』は、もう戻れないところまで来てしまった。
……世界を敵に回してでも私を愛し抜く、この「重すぎる守護神」の腕の中に。




