第14話:推しのセンターを公開処刑(ビジュアルで)してしまいました
撮影スタジオの空気が、一変した。
いよいよ、飲料メーカーのCM撮影。最後のカットは、SOLARISのメンバーが踊る背後から、神宮寺副社長が「絶対的な支配者」として歩み寄るシーンだ。
(……待って。無理。KYLO様が最高にキレキレのダンスを見せてるのに、後ろから歩いてくる神宮寺さんのオーラが……エグすぎる)
監督の「アクション!」の声がかかった瞬間。
神宮寺さんは、ただ歩いただけだった。
けれど、その一歩一歩がスタジオの床を支配し、彼の放つ圧倒的な「王者の風格」が、現役トップアイドルの輝きさえも飲み込んでいく。
「……カット! OK、完璧だ! 副社長、今の表情……冷酷でありながら、誰か一人だけを愛し抜くような、凄まじい熱量でした!」
監督が興奮して椅子から立ち上がる。
撮影の合間、KYLO様が肩で息をしながら、神宮寺さんの元へ歩み寄った。
「……参ったな。……ヒョン(兄さん)、君、本業じゃないよね? 僕、自分のセンターポジションを奪われるかと思ったよ」
KYLO様が苦笑いしながら、私の方をチラリと見た。
「……もしかして、あの秘書さんが見てるから、あんなに気合が入ってたの?」
神宮寺さんは、汗一つかいていない涼しげな顔で、私の腰をぐいと引き寄せた。
そして、KYLO様とスタッフ全員が注視する中、私の耳元に唇を寄せる。
「……当たり前だろう。……俺の有能さを、彼女の脳裏に焼き付けておかないとな。……画面の中の君(KYLO)なんて、二度と思い出せないくらいに」
(……ひ、ひいいいっ! 推しの前で、推しへの宣戦布告はやめてくださいぃぃ!!)
神宮寺さんは、あろうことかKYLO様に向かって、挑発的に微笑んでみせた。
「……君は世界中のファンに愛されていればいい。……だが、瀬戸花音(この女)の『一番』は、未来永劫、俺だけのものだ」
KYLO様は一瞬目を見開いたが、やがて「……ふっ、完敗だね」と肩をすくめた。
「……君の勝ちだよ。……彼女を泣かせたら、僕がいつでも奪いにいくからね」
KYLO様が私にウィンクをして去っていく。……尊い。そのウィンクだけで白米三杯はいける。
けれど、それを許す神宮寺さんではなかった。
「……何をニヤけている、花音。……あんな薄っぺらいウィンクがいいのか?」
神宮寺さんの瞳が、嫉妬でドロリと濁る。
彼は私の顎を強引に持ち上げると、周囲の視線も構わずに、私の唇を荒々しく奪った。
(……んんぅっ!?)
KYLO様との「綺麗な思い出」を、力ずくで塗りつぶすような、熱くて深いキス。
スタジオ中に衝撃が走り、スタッフたちの悲鳴にも似た溜息が漏れる。
「……いいか。君の唇も、視線も、心も。……すべて、俺が『独占契約』済みだ。……忘れるな」
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに世界的人気アイドルをも跪かせた。
私の『推し活』は、今日、本当の意味で終わったのだ。
……目の前の、この「愛が重すぎる男」を推し抜くという、過酷で甘い運命に上書きされて。




