第13話:撮影現場で、本物の(似の)男が私の所有権を主張し始めました
都内近郊の巨大な撮影スタジオ。
そこは、機材とスタッフ、そして熱気で溢れかえっていた。
(……う、嘘。本物。本物の『SOLARIS』がいる……!)
スタジオの奥、スポットライトを浴びてダンスの最終確認をしている7人の男たち。その中心にいるのは、私の人生の光、KYLO様。
生で見ると、その肌の質感、指先の動き、すべてが人間離れした美しさだ。
「……瀬戸さん。鼻血が出そうだぞ。口を閉じろ」
隣から降ってきた、冷ややかな低音。
神宮寺湊――わが社の副社長は、完璧に仕立てられたタキシード姿で、腕を組んで立っていた。
……待って。隣に並ぶと、より一層わかる。
この人、世界的大スターと並んでも、ビジュアルで一歩も引いてない。むしろ、隠しきれない「支配者のオーラ」が、スタジオ中の空気を支配している。
「……あ、あの、副社長。あそこにKYLO様が……っ!」
「……知っている。俺の『出来の悪い弟』のような顔をした男だろう」
神宮寺さんはフンと鼻で笑うと、私の腰をぐいと引き寄せた。
その時。休憩に入ったSOLARISのメンバーたちが、こちらに気づいて歩いてきた。
「……えっ。……ヒョン(兄さん)?」
足を止めたのは、他でもないKYLO本人だった。
彼は神宮寺さんの顔を見て、絶句している。……わかる、わかるよKYLO様。自分と鏡合わせのような男が、超高級スーツを着て立ってたら驚くよね。
「……似ているな。だが、君の方が少し、幼いようだ」
神宮寺さんは、世界中のファンが失神するようなKYLOの至近距離攻撃を、無表情で受け流した。
それどころか、KYLOが私に視線を向けた瞬間、神宮寺さんの瞳に鋭い「剣」が宿る。
「……綺麗な秘書さん。……君、僕のファン?」
KYLO様が、あの甘い「ファンサ・スマイル」で私に微笑みかけ、手を差し出そうとした。
……死ぬ。今、私は推しに認知された。全オタクの夢が叶う――。
ガシッ。
差し出されたKYLOの手を、神宮寺さんが力強く、威圧的に掴み取った。
「……馴れ馴れしく触るな。彼女は、俺の専属だ」
「……おっと。……厳しいね」
KYLOは驚いたように目を丸くしたが、すぐに楽しげな笑みを浮かべた。
二人の「神ビジュアル」が火花を散らす。スタジオ中のスタッフが、息を呑んでその光景を見守っている。
「……湊、さん。……痛いです……っ」
「……黙れ。……君がそんなに彼を見つめるから、俺の理性が限界なんだ」
神宮寺さんはKYLOの手を放すと、全社員……いや、全世界のスタッフが見ている前で、私の首筋に深く、自分の「所有権」を刻みつけるように顔を埋めた。
(……ひ、ひいいいっ! 推しの前で、推し似の男にマーキングされてるぅぅぅ!!)
「……いいか。画面の中の彼に何千回微笑まれようが、君の肌に触れ、君を抱きしめるのは俺だけだ。……わかったな?」
神宮寺さんは私の耳たぶを甘く噛み、そのまま挑発的な視線をKYLOに向けた。
その姿は、どんなアイドルよりも傲慢で、どんなスターよりも輝く「独占欲の化身」だった。
(……ああ。……推し活を応援してほしかっただけなのに。……これじゃ、私が推しの『最大のライバル』に愛されすぎて、世界を敵に回しちゃう……っ!!)
こうして、飲料メーカーのCM撮影は、本来の目的を忘れ、二人の「似て非なる神」による、私を巡る静かな戦争へと変貌していった。




