第12話:推しの仕事(CM)を、彼が「ついでに」引き受けてきました
副社長室でのランチタイム。
私は、神宮寺さんがお取り寄せした最高級の和牛弁当を前に、箸を震わせていた。
「……あ、あの。副社長、さすがにこれは……」
「湊、と呼べと言っただろう。……ほら、口を開けろ。冷めてしまうぞ」
神宮寺さんが、割り箸で丁寧に肉を挟み、私の唇に寄せた。……供給。……至近距離での「あーん(特選和牛添え)」の供給。
断れば、「俺の食事が気に入らないのか?」とあのKYLO様激似の顔で悲しそうにされる。私は観念して、ハムりと肉を口に含んだ。
「……んん、美味しいです……っ」
「そうか。……君が美味しそうに食べる姿を見るのは、どんな仕事の成功より心が満たされるな」
神宮寺さんは満足そうに私の髪を撫でると、デスクの上に無造作に置かれた一通の企画書を手に取った。
「そういえば、花音。例の飲料メーカーから、グループ会社の合同CMのオファーが来ている。……これに、あの『SOLARIS』というグループも出るらしいが」
(……ブフォッ!!)
和牛が喉に詰まりそうになった。
SOLARIS。KYLO様。私の命。
その彼らと、神宮寺さんが、同じCMに!?
「……な、なんですか、それ! 副社長が出るんですか!?」
「ああ。親会社の代表として、最後に一秒だけ映ってほしいと頼まれてな。……君がいつも見ているあの男(KYLO)も来るらしい。……ちょうどいい」
神宮寺さんは、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。
その表情。KYLO様がライブのクライマックスで見せる、あの「獲物を逃さない」挑戦的な笑みと、1ミリの狂いもなく一致。
「……画面越しの虚像と、本物の俺。どちらが君に相応しいか、その男の目の前で証明してやる」
(……証明!? 待って、対抗心が斜め上の方向に爆発してる!!)
神宮寺さんの脳内では、【CM撮影は、花音の心を奪い合う『自分』と『アイドル(虚像)』の最終決戦場】という壮大な物語が構築されていた。
「撮影当日は、君も秘書として同行しろ。……俺がその男を圧倒する瞬間を、特等席で見せてあげるよ」
「……っ、……同行……っ!」
推し(KYLO)と、彼(神宮寺)。
二人の「神ビジュアル」が同じフレームに収まる瞬間。
それは全人類にとっての奇跡だが、私にとっては心臓がいくつあっても足りない「処刑台」への招待状だった。
「……返事は? 花音」
「……は、はい。……お供、します……っ」
神宮寺さんは私の手を取り、その甲に深く、誓いのようなキスを落とした。
(……ああ。……推しに会える喜びより、この『独占欲の塊』な副社長に壊されそうな予感の方が勝ってる……!!)
こうして、私の秘書業務は、ついに「芸能界進出(付き添い)」という未知の領域へと足を踏み入れることになった。




