第11話:上書きされた朝、世界はピンク色の供給に染まっていました
翌朝。私は、自分のデスクで震えていた。
理由は明白。スマホの待ち受け画面が、昨夜の「宣告」通りに変えられているからだ。
(……待って。これ、いつ撮ったの!?)
画面の中で、神宮寺副社長がソファでくつろぎ、少しだけこちらを向いて不敵に微笑んでいる。
……自撮りだ。しかも、本職のKYLO様も顔負けの、完璧な「彼氏感」あふれるアングル。
(……供給。朝から、生身の男による自演供給。……心臓がもたない)
「――おはよう、花音」
背後から、鼓膜を甘く噛むような低音ボイス。
振り返るまでもない。私の腰に、ごく自然に手が回された。
「……っ、副社長! ここ、オフィスです! 誰かが見たら……っ!」
「気にするな。秘書を労っているだけだ」
神宮寺さんは、私の肩に顎を乗せるようにして、デスクを覗き込んできた。
……近い。昨夜のキスの感触が、唇の端に蘇る。
「……ほう。ちゃんと待ち受けにしているな。偉いぞ」
「い、言われた通りにしました! だから、その、離れて……っ」
「……嫌だ。昨夜、君の体温を知ってから、少しでも離れると落ち着かないんだ」
神宮寺さんの声が、甘く、熱く、私の耳を掠める。
……天然。この人、天然でこういう殺傷能力の高い台詞を吐く。
彼の脳内では、【花音は俺の愛を全身で受け止め、独占されることに至福を感じている】という設定が、ダイヤモンド並みの硬度で固定されていた。
その時、副社長室のドアがノックされた。
慌てて彼を突き放そうとしたが、神宮寺さんは逆に私の肩を抱き寄せる力を強めた。
「失礼します……っ、副社長、本日の会議資料を……」
入ってきたのは、営業部の若手社員だった。彼は、密着する私たちを見て、持っていた資料を床にぶちまけた。
「え、あ、……すみません! お邪魔でしたか!?」
「……構わない。瀬戸さんが、今朝は少し体調が悪いというので、支えていただけだ。……資料はそこに置いておけ」
神宮寺さんは、氷のような無表情で言い放った。
……体調不良。……支える。
どう見ても「事後」か「最中」にしか見えないその構図に、若手社員は顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。
(……終わった。私の『清純な秘書』という社会的評価が、一瞬で塵になった……!)
絶望する私を余所に、神宮寺さんは私の頬を指先でなぞった。
「……瀬戸さん。君が、俺以外の男の視線を浴びるのは不快だ。……今日から、昼食も俺の部屋でとれ。一秒も、外に出すつもりはない」
(……監禁!? いえ、独占!? ……供給が、密室限定のプレミアム配信に切り替わりましたぁぁぁ!!)
神宮寺湊の「溺愛」という名の包囲網は、もはや会社という枠組みすらも飲み込もうとしていた。
私の理性は、今日も彼の「天然な熱情」に、跡形もなく溶かされていく。




