そんなはずじゃない
「ニナ・クルア! お前とは婚約破棄だ!」
舞踏会会場に衝撃が走り、誰もがその声の主を探し目線を集中させた。
高らかに宣言したこの国の第二王子、ルーク・ネグロは得意げな顔で言い放つ。
今夜は隣国の貴族が集まる舞踏会。昨今の情勢を鑑みて、手を取り合おうと催された会だ。
先述の声の主、ルークは指を差したまま得意げな顔を崩さないでいた。
さぞばつの悪そうな顔をしているだろうと目線を向けた先には、予想に反して憐れみを乗せた瞳でこちらを見つめるニナがいた。
「本当に、いいんですね?」
「えっ……」
これまた予想に反した返答に、ルークは動揺を隠せない。
「本当にいいのかと聞いたんです。ルーク・ネグロ第二王子」
「えっ、いや、いいというか……。ほ、他に言うことがあるだろう!」
困惑するルークを他所に、ニナは至って冷静だ。
「他に……? 珍しい果実があると喜び勇んで取り入ったものの、何の収獲も得られないどころか霧虫に惑わされ迷子になった挙句、泣きながら討伐してくれと頼んできた時のお気持ちなどですか?」
「違う違う違う! やめてよ、すごくトラウマになってるんだから! それにそれは秘密って言ったじゃん!」
「あとは……私に贈っていただいた絵画、有名な画家であると得意げに語っていたものが、実は贋作で有名な老人絵師の物だと黙っていることへの謝罪?」
「いやいやいや、って……えぇ⁉︎ あれ偽物なの⁉︎ すっごく綺麗だったのに……」
「はい、ですので老人絵師には本人から買い取って来るよう申し伝え、先日新しく本物の有名絵師による作品と差し替えておきました」
「そうかそうかそうか……いや、はぁ⁉︎ 聞いてないから! その絵師だって事情があるのかも……じゃなくて!」
ニナのペースに飲まれそうになりながらも、ルークはやっとの思いで切り替える。
周りにいた舞踏会の参加者たちも、最初は痴話喧嘩かと思い横目で見ていたが、ルークが平静を取り戻したところでまた目を向ける。
「んんっ、改めて……ニナ・クルア! お前の悪行は兄マーレイから嫌というほど聞いている! そのような者と今後添い遂げるなど、言語道断! 父上からも、婚約を破棄するよう仰せつかっている! 諦めてこの城を出るんだ!」
捲し立てるように言い放つルークに対し、ニナは先程よりも冷たく凍てつくような視線を向けた。
「わかりました」
そう一言発すると、ニナはくるっと扉の方へと体を向け、振り返ることなく会場を後にした。
「え、あれ……?」
ざわつく会場内に、呆然とするルーク。
「ルーク様」
そんなルークに、付き人であるヴィルが声をかける。
隣に立ったヴィルに、ルークは情け無く涙を溜めた顔を向け、
「オレ、もしかして間違った……?」
そう問いかけるしかできなかった。




