005 女子たちからの品評会
前世を思えばやはり釈然としないが、傍から見れば真一はいわゆるハーレム状態なのだろう。男子たちの恨めしそうな目つきからも、それが分かってしまう。
5階の会議室へと向かう途中、真一は改めて学校の内装に驚く。大理石の床、シャンデリア、油絵が飾られた廊下。まるで貴族の屋敷のような豪華さだった。
(すげぇ学校だな。おれの親って金持ちなのか?)
リンが腕への力を強めてきた。「━━ねぇ、シン。私の話聞いてる?」
アリスは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、
「シンはリンちゃんに興味ないってさ。やっぱりあたしとデートしたいみたい━━」
「会議室、着いたよ。まずそこへ入ろう」
会議室、という割にはもはや宮殿の一角だが、そう書いてあるのだから会議室なのは間違いない。真一は、半ば無理やり彼女たちを教室へ押し込む。できればもう黙っていてほしいものだ。
席は自由に選べる形式のようだった。どこへ座ろうか考えるが、できればリンとアリスから逃れたい。もう、このふたりの痴話喧嘩に付き合わされるのは嫌だ。
「あ、シンくんだ……」
「写真で見るより格好良い……」
「連絡先、なんとかしてゲットできないかな」
また女子たちからの品評会が始まった。さすがに嫌気が差してきたものの、恐ろしいことに真一はこの状態になってからまだ1日しか経過していない。現在中2とのことなので、年齢は13歳か14歳。性欲という概念が、男女ともに衰え始めるのを40代くらいだと甘く仮定しても、あと30年弱この状態が続くのだろうか。
「はぁ」
そう考えると、溜め息のひとつやふたつ出したくなるものだ。真一は怪訝そうな面持ちになったリンとアリスから腕を解き、男子が集まる後ろの席に向かっていく。
(さすがに男子だったら発情してこねぇだろ……。あーあ。なんでこう極端なんだ? 程よくモテるくらいじゃ駄目なのか?)
「ちょ、ちょっと。シン」リンが止めに入る。
「あとで話そう。男子の友だちも作りたいしね」
男子たちからの目つきは、妬みや恨みで満ちていた。ただ、真一は20代後半で死んだから、今更中学生に睨まれたくらいで怖いと思うこともない。
とはいえ、敵対的な連中の隣に座りたくないのも事実。真一はしばし辺りを見渡し、ひとりだけ自身を敵視していなさそうな子を見つけた。
白みがかった金髪にパーマをかけ、前髪を垂らしている。顔立ちはどこか女性的で、身長はさほど高くなさそうだ。目はエメラルドグリーンのように輝いていて、漫画を読んでいるものの、こちらもチラチラと見てくる。そんな少年だった。
「やぁ」
真一は彼の隣に座り、一言挨拶をしてみる。
「や、やぁ」
「なんの漫画読んでるの?」
「え、あ、少年漫画だよ」
「どんな内容?」
「……ちょっとエッチな内容だよ」
「良いね。読ませてよ」
「あ、うん」
どうやら、このアンゲルス連邦にも日本の漫画が浸透しているらしい。彼の横から漫画を読ませてもらい、内容がこの少年の言う通りお色気な場面にあふれているのを知る。
「良いじゃん。みんな可愛くて」
「シンくん、だよね?」
「そうだけど」
「君、モテまくるのにお色気漫画なんて読む必要なくない?」
「そりゃそうだけど、二次元と三次元は違うだろ。この三次元世界には、醜い嫉妬心で満ち溢れてるんだから」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
「まぁ、あれだな。おれはバトル漫画のほうが好きではある」
「なら、これ読む?」彼は、海賊王を目指す少年の漫画をカバンから取り出す。「バトル漫画好きなら絶対知ってると思うけど、これ最新刊だよ」
「おぉ、ありがとう」
ページをめくると、そこには前世とさほど変わりない世界観が広がっていた。ところどころで異世界ならではの違いはあるのだろうが、自殺してから最新刊を読めていなかったので、自然と口角が上がる。




