29:悪を滅する力
『神々のファンファーレ【29:悪を滅する力】』
ーー神域跡地ーー
ロゼッタは語った。クラマドの過去を。
残るは、自身の原点。これからの作戦だ。
(ロゼッタ)「これが、僕の知る全て。クラマドの記憶を、遡って見てきたもの。」
ロゼッタの語りはそれほど長くなかったが、まるで実体験したかのような濃さだと、ソニア達は思った。
何もない神域跡地でそれくらい、時間の進みは早かった。
(レダリオン)「ラグナロク後。”運命のメイ”は、沈黙したファンファーレへ来たそうだ。そして言ったという。”いつの日か、四人の戦士が現れる。それがクラマドを倒す、兆し”であると。」
長い時を経て、四人の戦士。ソニア達は現れた。
海の化身と、ガラハハの眷属。波動の騎士の、末裔達が。
(ソニア)「まさかだったよ。俺に流れる力が…。いや、本当に。まさかだな。」
ソニア。コールとラペットは、己の原点を知った。
それは恐怖ではなかったが、驚く内容である。
(コール)「神から与えられた力ってわけだろ?なら俺は嬉しいな。」
コールは単純に、嬉しかった。
特別な力があるというのは、かっこいいことだからだ。
ラペットも同じ気持ちだが、驚きの連続で、声を失っている。
(メレキノス)「君はどうだ?”ソニア”。」
メレキノスは少し、ソニアを心配している。
自身に力で苦悩した、過去があるから。
(ソニア)「力の意義を、果たしてみせる。血は薄まらないと、証明する。」
ソニアは熱を感じた。心が震える熱を。
かつて騎士を目指した青年。
彼の心には、波王への憧れと責任が灯ったのだ。
(コール)「ていうか神子達が色々と知ってたのは、”予言の主”だろ?今何してるんだ?神人の力は、借りられないのか?」
未来を知っている発言を、神子達はしていた。
化身達にも、それは当てはまる。
神人の力を借りられたら、クラマド打倒は、より確実なものになる。
(チャリオット)「あまり協力は、望めないだろう。まず天ノ地を開けることは、危険すぎる。"あの地にいる魂が狂気に陥れば、第二の脅威"が出来てしまう。夢の主は、クラマド相手には無力だ。そもそもあれは、眠ることがないのだし。更に下大陸は、”悪魔の王:アルザサ”に支配されている。”冥府”の最下層に幽閉され、永遠の拷問を受ける。それが奴の狙いだろう。今や復讐の炎に取り憑かれ、悪魔達に終わらない苦痛をもたらす、存在になってしまった神。感情の支配が続く以上、根源には気付かない。そしてメイは…。」
運命を予見する力は、とても強力だ。
死の戦いで、その圧倒的力を聞いた。
(ズゥ)「”彼女は消えたんだよ”。ファンファーレへ向かった彼女は、的確な予言だけを残して、どこかにね。今どこにいるのか。そもそも生きているのか。誰も知らないよ。海神が生きていたら、間違いなく協力してくれたんだろうけど…。」
ラグナロクで起きた、大火は広く。被害は広大で、犠牲者は多く出た。
ソニア達の戦力は整っているが、当時と比べたら弱体化している。
それに今やクラマドは、完全たる自身の肉体を取り戻した。
ロゼッタが相当な作戦を話さない限り、希望を見い出せそうにない。
(ソニア)「ロゼッタ。肝心な、クラマドを倒すっていう作戦は?」
ロゼッタが、ここまで秘めていたこと。
重大な作戦と、自身の原点。
(???:ロゼッタ)「僕が、”輪廻転生の木へと至り、一人を昇華させる”。」
かつてガラハハは人へと力を分け、"神化の現象"を引き起こした。
神人ではない存在が、神人へと至る方法。
それは一つではない。
(白木の芽:ロゼッタ)「”生命の神子”として、僕はこの命を捧げる。」
"クラマドを倒すのは、ロゼッタによって神化した者"。
正真正銘、"神人へと生まれ変わった者"。
(ラペット)「それって、どうやるの…?」
作戦の根幹。重要な質問だ。
(ロゼッタ)「"身に流れる全ての力を出し切って、あの人が目指したものになる"。けど重要なのはここから。”今生きている存在を、輪廻へと導くことは出来ない”。”輪廻とは生まれ変わり”。”だから誰かに死んでもらうか、死んでしまう運命の者に、託すことになる”。これがクラマドを倒す、唯一の方法。」
(ソニア)「なら…」
ソニアの口が動いた。
それを決めるには、まだ早い。
神人になることは、生活の変化を意味する。
戻ることの出来ない選択だ。
(ロゼッタ)「ダメだよ。世界滅亡の危機だけど、急ぐ必要はない。その時が来たら、選別する。僕の話は、これで終わり。みんな。覚えておいて。”悪を滅するのは、友情”だよ。」
ロゼッタは、ソニアの言葉を遮った。
これ以上この場で、言葉を出させないよう、素早く畳んだ。
今あるものを捨て去るには、まだ早すぎる。
残された時間は多くないが、その少ない時間で、それぞれの思いを。
旅で得た情を紡いで、悪へと立ち向かおう。
ーー星見の丘ーー
ロゼッタとの対話。
長く続く余韻を残し、夜になったと思う。
以前空は、漆黒のままだ。
(ソニア)「あの日はここで、星を見たか…。」
芝生に身を預ける。けれど星の光は見えない。
心なしか草の感触が、弱々しく感じる。
ーズサッ…!ズサッ…!ー
地面から聞こえる、大きな足音。
まだ聞き慣れないが、昔から知っている。
(ズゥ)「悩んでいるのかい?」
横目で見ても、ズゥは大きかった。
(ソニア)「ズゥか。星が見えるかなって、思ったんだけど…。流石に見えないよな。」
見えるのは、一面の黒。
あまりにも黒しかないため、黒い絵を貼っつけているように見える。
(ズゥ)「ここに来ると、人として生きるようになった、オーティスとの会話を思い出すよ。」
それはラグナロク後。あらゆる傷跡が残った、混沌の時代。
戦いが終わったあと。あまりにも大きなものを、生き残った者達は、処理しなければならない。
何を残し、何を忘れるのか。
その二つを選別して。
(ソニア)「どんな話しだ?」
タイダルの過去を、あまり知らない。
ずっと一緒だったのに、ここ最近で知ったのだ。
彼が歩んできたあらゆる足跡を、友として。
自分を育ててくれた、家族として。
成功も失敗も知って、生きて行きたい。
(ズゥ)「ずっと、思い詰めていたよ。”家族の真似事をしても、上手くいかない”。オーティスの口癖さ。」
今も変わらない、タイダルの形。
強さでもあり、弱い部分。
(ズゥ)「オーティスはあの頃からずっと、ガラハハになろうとしてる。なれないと、言う者もいるかもしれない。けど僕は、いつかはなれると思うよ。でもガラハハは、それを望まない。自分の肩代わりをしてほしいから、救ったわけではないんだ。たまにさ、ガラハハが言ってたんだ。”俺が死んでも、俺になるな。お前達が俺になったら、お前達は死ぬ”。」
ガラハハは、自分らしく生きてほしいのだろう。
きっとクラマドが、”自分らしくやりたいことをして生きている”とは、思えなかったのだと思う。
(ソニア)「二回目のラグナロクが起きたら、どうなると思う?」
聞くべきではないと思いつつも、聞いておきたい。
勝てば明日は、必ず訪れる。
(ズゥ)「多くが死んだよ。それは、人だけじゃない。物や自然。あらゆる全て。僕達化身は、長い時間を生きているけど、死というものは、本当に慣れないね…。」
鎧越しに話すズゥは、きっと悲しい顔をしている。
クラマドを倒しても、多くの出来事が残る。
それは終わることのない、始まりなのかもしれない。
(ソニア)「波動はクラマドの存在を、感じていたんだよな。」
話題がずっと、出てしまう。
恐怖はないが、不安はある。
戦いが始まるまで、ずっと落ち着かなそうだ。
(ズゥ)「そうだね。ソフィーナと君達に目覚めたのは、クラマドの存在を感じて…」
ーバチバチ…!!!ヂュミミミミミ…!!!!!ー
身が震えた。恐怖で震えたのではない。
クラマドの気配を感じたと、余裕で分かる。
今までに類を見ないほどの、波動の唸り。
電撃をくらったかのように、体が震えそうになる。
(ズゥ)「…!?ソニア!!!」
ズゥが特大剣を握り、辺りを見回す。
まだクラマド達の動きは見えない。
(ソニア)「察知でこれか…!!!」
それは本能を超え、力に込められた意思。
ーグオオオオオオオオ!!!!!ー
鳴り響く、血に飢えた者達の声。
ーズドン!!!ズドン!!!ズドン!!!ー
空から数個の禍々しい光が、流星のように降り落ちた。
(悪の神:クラマド)「三度目だ。これで、終わらせる。」
悪の凶星がゆっくりと、空から降りてくる。
手には悪の神器たる、禍々しい魔剣。
クラマドは開戦の合図としてそれを、全力で振るう。
ースッ…。ザオオオオオン!!!!!ー
一瞬光った、断絶の刃。
(ソニア)「何だ…。今の…。」
開戦の合図。それは善の星を襲う、地殻変動。
地は揺れ山は崩れ。
水は波打ち海は渦巻く。
風が吹き荒れ、空に亀裂が走る。
(魔王:クラマド)「全力をもって、私の旅を続ける。」
天から現れた、悪の魔王。
ソニア達は今日を乗り越え、明日を生きるため。
旅で得た友情をもって、魔王に挑む。




