7:化身が棲む山
『騎士のソニア【7:化身が棲む山】』
いつもと違う、少し冷たい風を浴びる。
元気のいい声が森に響き、空が地上を照らし始めている。
(風花)「おはようございます。待ちましたか?」
(ソニア)「いや、さっき来たばっかだ。」
(風花)「そうですか。では行きましょう。"化身の棲む山"へ。早朝は人が少ないですから、少しゆっくり行けますよ。」
昨日、風花が言った"彼ら"とは、"風の化身"であった。
神の創造物と言われる化身に対し、聞きたいことがある。
様々な好奇心を思い浮かべ、ソニア達は同行を決めた。
(ヤチェリー)「化身は山にいるの?」
(風花)「はい。たまに降りてくることはありますが。」
風花は少しゆっくり行けると言っていたが、その足取りは速く。
先頭に出ている。早足で歩くのは、風花にとって日常なのだ。
日常の不便さがどれほど、彼女を縛っているのだろう。
(ソニア)「でかい龍なんだろ?」
(風花)「そうですよ。山から見守る、神たる使いの龍なのですよ。」
ーー天空山ーー
名の通り、雲を越える山である。
上を見ても、頂上が見えない。
体は軽くなったが山は当分、嫌いなままだ。
乾いた目を潤しつつ、雲を越えていこう。
(ポゼ)「ハァ…。きついね…。」
(ソニア)「平気なのか…?」
(風花)「少しきついですよ。昔はよく、登っていましたから…。ほら、もう少しですよ。」
少しきついと言うが、凛としている風花。
そんな風花に引っ張られるように、足を運んでいく。
目が回るほど山を登り、いよいよ雲へ入る。
雲の中は霧のようで、きついと言う怠慢を正さなくては。
ーフォォォ…!!!ー
雲を抜けたとき、空気が変わった。
日の光を反射する、黄金たる神風が吹いている。
神風の先には、円描くように駆ける、番の龍がいた。
(風の化身:風円龍エンク&エンタ)「風花か。」
(エンタ)「人の子もいるぞ。」
"エンタ"が見定めるように、近付いてきた。
単純な少年心で、見惚れてしまう。
一瞬で呑み込まれる程の大きさで、爪一つで踏み潰されそうだ。
(エンク)「珍しいな。山を登り、会いに来るとは。」
エンクはとぐろを巻くように浮き、厳格な目で見つめてくる。
幼い時は軽蔑されているのかと思い、両親の足に隠れていた。
だがそうではないことを、風花は知っていった。
(風花)「はい。知り合った友人達を、連れてきました。天空山から見える景色は、珍しいものですから。」
振り返ると、確かに珍しい。
雲が地面、または海のように広がっている。
昔の自分なら飛び込んでいると、確信するソニア。
現在はこの広大さを、噛み締める力を手にした。
(エンク)「そうか。…。風花、本音を話すといい。遥か昔に生まれた我々だ。人の隠すことなど容易く分かる。」
風花は急に俯き、明らかに言葉を詰まらせている。
(ソニア)「俺からいいか?」
(エンク)「君が?待て…。いや、話していい。」
エンクに見られた時、鋭い目をしていた。
断られると思い視線を外そうとした時、その目が変わって見えた。
何かは分からないが、輝く目をしている。
(ソニア)「父と俺に、発現した力を知りたいんだ。」
ーヂュミミミ!!!ー
ソニアは"波動"を、出して見せた。
エンクとエンタに、蒼き光が映る。
(エンク)「"波動"…。」
絶妙な雰囲気が漂い、エンクが言葉を零した。
波動という言葉を、ソニアは出していない。
(ソニア)「知ってるのか!?この力は一体…!」
感情が高ぶり、思わず声を上げてしまった。
だがそれほど知りたいこと。
旅の意味でもある。
(エンク)「力の源は、そこまで重要ではない。"絆を紡ぐのだ"。波動とは、"生命を繋ぐ力"。だからそう、名付けられた。」
(エンタ)「人の子。力が発現したということは、必要だから目覚めたのだ。」
番がそれ以上、波動について話すことはなかった。
"生命を繋ぐ力"。
巨大な情報は、冷静さを保ち、整理する必要がある。
風花のためにも、下がっていよう。
(エンク)「君は?」
(風花)「予想していませんでした。話したいことがあると言っていましたが…。私の悩みが、軽く見えてしまいますね。」
より言葉が、詰まってしまった。
だがこれ以上、時間は奪えない。
真実を知るというのは時に、恐怖となり得る。
彼が勇気を出したように、恐怖でも得なくては。
(風花)「不安なのです…。私が王になること、知っていますよね?」
(エンク)「知っているとも。見ているからな。」
(風花)「未熟な私が、王になるのが…。」
命は成長し、見た目が変わる。
だが成長しても、変わらないことがある。
エンクが見る風花の弱さは、変わっていなかった。
(エンク)「風花。君には武の力がある。それは王に相応しいものだ。だが力の強さが王の器であれば、私でもいい。けれど人は、それを望んでいない。」
化身として生きてきたエンクにとって、よく知っていること。
前に立つ存在は総じて、同じものをもっている。
(エンク)「私に幼い記憶はない。生まれた時からこうなのだ。だから人の考えを、理解することは難しい。けれど私にも、不安を感じることはある。いつか訪れる別れや、"予言"を乗り越えることは、とても難儀なことなのだよ。」
(風花)「…。時が止まることは、ないのでしょうね…。」
(エンク)「あぁ。時は止まらない。もう止まることは、なくなってしまった。だからこそ、不安の激流の中、成長の糧を見つけるのだ。」
ソニアは一旦考えを止め、風花を見ている。
風花は"大丈夫"とだけ、言われたかったのかもしれない。
エンクの言葉が不安を抱える、一人の少女の背中を支えているのは、答えだろうか。
ーーーーー
すっかり日が、沈む時間になっていた。
会話が終わったあと、エンクの背に乗り、一瞬で下山した。
背中で感じた夕日の風は、悩みを払ってくれるものだった。
この旅を、続けていこう。
絆を紡いだ先に、答えがあると信じて。
(風花)「今日はありがとうございました。」
夜を照らす暖色の街灯は、門前にいるソニア達も照らす。
(ソニア)「いや、俺の方だ。力を知る、きっかけを得られた。」
(風花)「それならよかったです。あの、実は…。」
風花の顔は暖色を弾き、少し赤く見えた。
あまり似合わない、幼い挙動をして。
(風花)「明日、"王式"がありまして…。」
(ポゼ)「王式?」
(風花)「私が、次の王になります。父が歳になりますから…。それで、来てくれませんか?近くでなくとも、見ていてほしいのです。」
風花は子供のような表情で、誘いを投げた。
大人びた彼女には、少し似合わない仕草。
だが大人として育てられた風花を思うと、考えるべきではない。
(ヤチェリー)「見に行くよ。いいでしょ?」
(ソニア)「あぁ。旅を急ぐ必要はない。」
子供として育ったソニア達にとって、風花の背負っているものは、あまりにも重い。
だからこそ、隣にいるべきだと思う。
(風花)「ありがとうございます。」
今日も見えなくなる夕日を背に、それぞれの帰路に着く。
風花を知ると、より思う。
明日はどうか、晴れますように。




