7 : 化身が棲む山
『騎士のソニア 【7 : 化身が棲む山】』
ーファサァァァ。ー
いつもとは違う、少し冷たい風を肌で感じる。
「おはようございます。待ちましたか?」
昨日ソニア達は、風花と共に、山へ向かうことを同意した。
風花が言う"彼ら"とは"風の化身"である。
ソニアにとって、神の創造物と言われる化身に対し、聞きたいことがある。
「いや、さっき来たばっかだ。」
「そうですか…。では行きましょう。早朝は人が少ないですから、少しゆっくり行けますよ。」
和傘をもつ風花を真ん中に、歩くソニア達だが、風花の足取りは早く。
一番前に出て歩いていた。
街を早足で歩くのは、風花にとって日常なのだろう。
だが、昨日よりその一歩は早く出ているように見える。
「化身は山にいるの?」
「はい。たまに降りてくることはありますが。」
「でかい龍なんだろ?」
「そうですよ。山から見守る、神たる使いの龍なのですよ。」
ー天空山ー
名の通り、雲を越える頂をもつ山である。
円を描くように登り、雲へと近づいていく。
ーザッ!ザッ!ー
「ハァ…。きついね…。」
「平気なのか…?」
「少しきついですよ。昔はよく登っていましたから…。ほら、もう少しですよ。」
少しきついと言うが、凛としている風花に引っ張られるように、足を運んでいく。いよいよ雲へ入る時。
雲の中はよく見えず、落ちないように前に進んでいった。雲を抜けたとき…
ーフォォォ…!!!ー
空気が変わった。神風が吹いている…。円描くように駆ける、番の龍が…。
ーズズ!!!ー
(風の化身:風円龍エンク&エンタ)「…風花か。」
(エンタ)「人の子もいるぞ。」
エンタが見定めるように、横目で近付いてきた。
(エンク)「珍しいな。山を登り会いに来るとは。」
「はい。知り合った友人を連れてきました。天空山から見える景色は、珍しいものですから。」
「…そうか。風花、本音を話すといい。遥か昔の時代で生まれた我々だ。人の隠すことなど容易く分かる。」
風花は言いづらそうにしている。
「俺からいいか?」
「君が?…待て。いや、話していい。」
「父と俺に、発現した力を知りたいんだ。」
ソニアは蒼い光を、"波動"を出して見せた。
エンクとエンタは波動を見ている。
何か絶妙な雰囲気が漂い、エンクが話始める。
「"波動"…。」
「知ってるのか…?この力は一体…。」
「力の源は、そこまで重要ではない。…"絆を紡ぐのだ"。波動とは、"生命を繋ぐ力"。だからそう名付けられた。」
(エンタ)「人の子。力が発現したということは、必要だから目覚めたのだ。」
その場にいた全員が、それ以上話すことはなかった。
次にバトンを渡すように、風花とエンクを残し、ソニア達は少し山を下りた。
「…君は?」
「予想していませんでした。話したいことがあると言っていましたが…。
私の悩みが、軽く見えてしまいますね。不安なのです。私が王になること。知っていますよね?」
「知っているとも。見ているからな。」
「未熟な私が、王になるのが…。」
人は成長し見た目が変わり、強くなっても変わらないことがある。
エンクが見て、風花の弱さは変わっていなかった。
「風花。君には武の力がある。それは王に相応しいものだ。だが力の強さが王の器であれば、私でもいい。だが人はそれを望んでいない。私に幼い記憶はない。生まれた時からこうなのだ。だから、人の考えを理解することは難しい。
私にも不安を感じることがある。いつか訪れる別れや、予言を乗り越えることは、とても難儀なことなのだよ。」
「…。時が止まることはないのでしょうね…。」
「あぁ、時は止まらない。もう止まることはなくなってしまった。だからこそ、不安の激流の中、成長の糧を見つけるのだ。」
風花はただ、大丈夫とだけ言われたかったのかもしれない。
だがエンクの言葉が、不安を抱える、一人の少女の背中を支えているのは、答えだろうか。
ーーーーー
すっかり夕日が沈む時間になっていた。
風花の話が終わったあと、エンクの背に乗り一瞬にして下山した。
背から感じた夕日の風は、答えを聞いたあとの悩みを払ってくれるものだった。
「今日はありがとうございました。」
「いや、俺の方だ。力を知るきっかけを得れた。」
「それならよかったです。…あの、実は…。明日、"王式"がありまして…」
「王式?」
「私が次の王になります。父が歳になりますから…。それで、来てくれませんか?近くでなくとも、見ていてほしいのです。」
「見に行くよ。いいでしょ?」
「あぁ、旅を急ぐ必要はない。」
「…ありがとうございます。」
今日も見えなくなる夕日を背に、それぞれの帰路に着く。
明日はどうか、晴れますように。




