6:風の国:風葉亭
『騎士のソニア【6:風の国︰風葉亭】』
ーー風霧谷ーー
霧と強風で息苦しい。高低差も激しく、足が痛い。
だが砂に呑まれた時の苦痛に比べれば、まだ軽い。
霧吹き荒れる谷を越えた先に、緑咲く"風葉亭"が見えると言うのだから、あと少しと思い、体を運んでいく。
―ガサ!ガサ!ファサアアア!!!―
大きな草を、掻き分けた時だった。
視界が広がり、広大な景色と涼しい風が押し寄せる。
昔ヤチェリーと一緒に見た、星々に匹敵するほどの感動だ。
空の光を吸収し煌々と輝く、緑豊かな山々がそびえ立つ。
(ソニア)「下を見ろ。」
(ポゼ)「わぁ…!」
(ヤチェリー)「あれが…。」
巨山たる山々に囲まれた中心に、風葉亭は見えた。
(ソニア)「谷を降りたらだな。」
天は蒼。
山は季節によって素顔を変えるが、蒼に似合わない色はなく。
今はちょうど、桃の残りがよく舞っている。
ーー風の国:風葉亭ーー
風吹くその国は、人の流れが激しいことが、入ってすぐに分かった。
石畳で整備された道から、隅にひかれている砂利の方へと、追いやられてしまうほどの流れ。
ソニア達にとって和の街並みは、新鮮なものであった。
(ヤチェリー)「街を見たいんだけどさ、私は休みたいな…。」
(ソニア)「俺もだ…。流石にそれがいい…。装備もなしに谷を越えたのは、無理し過ぎたな…。」
(ポゼ)「僕も…。」
山を越えてきたのだから、早く横になりたい。
こんな硬い砂利の上では、満足できない。
自分達の欲求のため、流れに抗い、和の街を進んで行く。
(ソニア)「ここにしよう。」
谷越えの疲れを癒したいソニア達は、暖色の明かりが零れる宿へと、吸い込まれていく。
(???)「あの…。」
夾竹桃の微かな甘さが、漂う。
和菓子のように強すぎない、けれど確かな甘さ。
(???)「旅の方ですか?」
(ソニア)「そうだが…。」
(嵐咲風花)「私は、"嵐咲風花"と申します。旅の方。あなた達の、旅の話を聞きたいのです。どうでしょうか?」
宿内でなぜか和傘を差し、顔を隠している彼女。
大人びた立ち振る舞いと、きめ細かい和服だけは、見て取れる。
悪い印象は感じないが、すぐ先の部屋より勝る条件を、感じられない。
(風花)「よろしければ、城の部屋を用意しますよ。」
風花は慣れている声で、その言葉を放った。
一瞬固まり、状況同士を天秤にかけていると、足は風花の方へと動いてた。
(ヤチェリー)「城って…。まさか、"嵐咲家"…。」
"嵐咲"。
風葉亭をつくり、今日という日まで、国を導いてきた名。
(風花)「お静かに…。城から抜け出しているのです…。」
(ポゼ)「偉い人ってことだよね。」
天秤は完全に傾いた。
何ならもう動かないように、固定しておこう。
(ソニア)「断る理由がなくなった。」
(風花)「よかった。では、ついて来てくださいな。少し速く、戻りましょうか。」
傘の合間から、微笑む風花の顔が見えた。
和人形のように整った、白い肌。
身を隠す手段がなければ、一瞬で気付かれるだろう。
風花のためと言いつつ自分達のためだが、重い足を軽くし、城へと向かう。
ーー嵐咲城ーー
城に忍び込んだかのように素早く、部屋の前までやってきた。
峠から見た時でも目立った城は、山越えをしたソニア達にとって強敵であった。
集中を解けばこの震える足は、すぐに折れてしまうだろう。
だから扉を開けるまでは、油断してはいけない。
(風花)「さぁ、どうぞ。」
風花が扉を開くと、想像していた光景はなかった。
(風花)「ご自由にお使いください。」
(ソニア)「まじか…。」
想像など優に超えた部屋が、目の前に広がっている。
芝生のように柔らかい畳が、何畳にも敷き詰められており、散りばめられた金色の装飾や模様が、目を輝かせる。
(ヤチェリー)「凄い…。」
もはや畳で心地よく寝られると確信しているが、布団で寝たらどうなってしまうのか。
(風花)「食べながらで構いませんよ。」
出てきた料理もまた、黄金のように輝いて見えた。
いやきっと、本当に輝いていた。
(ポゼ)「君がつくったの?」
(風花)「はい。頼んでしまえば、バレてしまいますから。」
痛い腰を包む絨毯へと座り、風花がつくった和食を食べながら、今までの旅路を話していこう。
本音は食をすぐ摂り、すぐ眠りにつきたい。
だが風花に感謝を混ぜて、話さなくては。
ソニアは自身の騎士道に従い、欲望を抑えつつ、旅の話を進めていく。
ーーーーー
和食を食べたことが、ほとんどないソニア達。
だが風花の手料理はそんなソニア達に、極上の味を届けた。
美味のあまり溶けた口を戻しつつ、話さなくては。
(風花)「マリアではそんなことが…。」
(ソニア)「俺たちが嘘を言ってるかもしれないが、それでも信じるか?」
(風花)「そうですね。面白い話をするという、話の達人が、私に話してくれたことがあります。ですがそのどれも、虚偽の話。旅の方々から聞いた話には、どれも芯がある。実際に経験しなければ、語ることなど出来ません。」
風花は虚偽と本当を、見分けられるようだ。
ならば自分達の態度は、筒抜けだろうか。
(ヤチェリー)「風花はどうして、旅の話を聞くの?」
(風花)「憧れです。外国には出れませんので。」
王の血を流していると、身勝手に動けないものだ。
タイダルも時々、退屈そうにしていた。
だがその日遊んだ内容を話したら、両親のような表情で、微笑んでくれていた。
(ポゼ)「辛くないの?」
ポゼは強さを求め、ソニアについて行った。
ポゼ達は、やりたいことが出来ない風花の境遇を、耐えられそうにないと思った。
話を聞いているだけでも体を、無性に動かしたくなるほど。
(風花)「話を聞いているときは、とても楽しいです。ただしばらくすると、日々に退屈してしまいます…。」
楽しそうにしていた風花の表情が、考え事をする形に変化した。
その時ソニア達に、昔の記憶が過る。
両親や周りの大人達と同じ顔を、風花がしている。
大人達が考え事をしている表情は、嫌いではなかった。
きっとそれは自分達の未来を、想像していたものだから。
でも今の風花の表情は、嫌いだと感じる。
(風花)「このくらいにしましょうか。夜も遅いですし。」
このまま黙っていたら風花のその後は、どうなるのだろうか。
(ソニア)「風花。俺達はまだ、風葉亭にいる。」
風花の表情が、楽しそうな形に戻った。
今自分がどんな顔をして、風花に見られているか分からないが、嫌いなものではないと嬉しい。
(風花)「なら、山を登りませんか?」
(ソニア)「山?」
足はその言葉に恐怖したが、そんなことをしている場合ではない。
(風花)「はい。あなた達となら、"彼らに本音を話せるかもしれません"。」
高く聳え立つ山。その頂上には、"何か"がいる。
足を言いくるませて、今日は寝よう。
風花の本音を、見るために。




