12:未だ燻る鋼鉄の灰
『魔女のアリス【12:未だ燻る鋼鉄の灰】』
悪の神:クラマドの使徒、影軍:ソーンにより影に呑まれたアリス達。
目を覚ますと、目を疑う光景が広がっていた。
(アリス)「ここは…。」
(ソニア)「起きれるか?アリス。」
「えぇ…。…!」
広大なクルサン。
広がっていたのは、地平線であった。城だけを残して。
(コール)「さっきのは、幻だったのかよ…。」
「影に見せられていたんだろう…。景色も、人も…。」
建物は崩れ、地面は割れ。
ボロボロになった、鋼鉄の塀。
遠目でも分かる、人と魔物の死体。
酷く臭う、鉄と火の匂い。
―ドロドロォ…!!!―
付近の影が消え、形を形成し始めた。
「どうだ?これが本当の、クルサンの姿だ。」
「ッグ…!!!」
―ビュオン…!!!―
アリスは怒りに満ち、魔法を放った。
―ドオン…!!!―
放った魔法はソーンの肉体をすり抜け、地面に命中し爆発した。
「攻撃出来るわけがないだろう!体をもたない影に!!!」
(ラペット)「それって…。た、倒せるの…?」
(コール)「弱気になるなラペット…!このチビ吹っ飛ばす…!!!」
(ソニア)「全員、落ち着け!!!敵は目の前!相手をよく見ろ!」
「利口だな。名も知らない騎士。」
―ガラガラ…!!!―
また地鳴りがする。
(アヤ)「門の音…?いや、地震?」
「いいや違う!これを集めていた!」
―ガシャン…!!!ガコン…!!!―
ソーンは飛び、鉄の塊へと飛び込んで行った。
次第に鉄の塊は形を変え始め、走行兵器として完成した。
「それは、メルセデスの…!!!」
現れたのはメルセデスが鋼鉄の魔法で作り操っていた、鋼鉄兵器。
「死体では魔法を使えなかった!ならば模倣するのみ!」
ピザカッターのような巨大で鋭利な前輪が二つ、手のように生えている。
後ろにも同じように、後輪が二つ。
「来い…!城の頂にて待つ!」
―ガラガラ…!!!―
そう言い残し、ソーンは城へと走っていった。
―グオオオオオオオ…!!!―
魔物の雄叫びだ。
ソーンに惹かれ、あるいは影が解けたからか。
(ソニア)「魔物だな...!」
(コール)「全部本物か!?」
(アヤ)「本物じゃなくても殺されるよ…!」
「アリス様…。気を確かに…。」
―ググッ…!!!―
アリスは杖を折る勢いで、力を込めている。
「えぇ!向かうわ!城まで!仇は討つ…!!!」
目的地はすぐ分かる。
広大な土地の中、唯一立つあの城へ。
―鋼鉄王城:屋上―
魔物との和解という、不確かだが理想溢れる幻想は、
怒りの前には無力であった。
魔物を薙ぎ倒し、ソーンの待つ城へと赴いた。
(アリス)「待ったかしら…!やって来たわよ!!!」
兵器は止まっており、一体のソーンがこちらを見ている。
「早いな。では…」
―ゴゴゴ…!!!バゴン!!!―
鋼鉄兵器は動き始め、前輪を叩きつけた。
(ソニア)「…アリス!空を飛べたりするか!?」
「ハハハ!!!もはや、あってもなくても変わらない城を破壊し、平坦な地面で戦うとしよう!小細工などできない、蹂躙の下地で!」
「みんな近くに来て!!!」
―ドゴオン!!!―
歴史をもつ鋼鉄の城は、崩れ去った。
「皆、無事か!?」
煙が立ち込め、視界が悪い。
―ガガガ!!!ガガガ!!!―
「この音…。…!」
―ブオン!!!―
黒野助の真横、ソーンの操る鋼鉄兵器が横切った。
「この姿で相手をする!整地といこう!!!」
(ソニア)「ラペット、コール!波動を滾らせろ!!!三人を守るのは俺達だ…!」
―――――
―ガガガ…!!!―
ソーンは遊んでいる。
不必要に回転をし速度をあげ、突撃する。
その繰り返しである。
―ブオン!!!―
「ハハハ…!!!奴はこれに乗り、魔物を蹂躙していたのだ!さぞ楽しいだろうな!当たればもっと、楽しめるだろう!!!」
―ブオン!!!―
「ッグ…!次攻めてきた時、俺が斬りかかる!!!…誰かが動かなければ、ここで死ぬ…!」
―ガラガラ…!!!―
「くるぞ!!!隙はつくる!!!」
「まずは一人!利口ではなくなったな、騎士!!!」
―ヂュミミミ!!!―
当たる僅か数秒前、ソニアはギリギリまで自分に引き寄せ、神回避を見せた。
「な!?"波動"…!!!」
「知っているのか!なら、よく分かるだろう!!!」
―ザザザ…!!!―
「斬れると思うな!」
「(こいつ相手に、俺の火力は必要ない。ただこの兵器が壊れた時のため、試せることは試しておく!!!)」
―ヂュミミミミ!!!ズザン!!!―
兵器を斬ることは出来なかったが、兵器内のソーンへと波動の光は命中した。
「中には入り込んだ!効くかどうかだが…!」
「ッチ!!!波動は未知数だ!効くのか効かないのか…!」
―ドゴン…!―
片方の前輪が、突如として止まった。
「効果は、あるようね。」
―ビュオン!!!―
アリスの放った魔法は、片方の前輪を外し火をつけた。
「片方くらいか…!燃えては使い物にならない!次を持ってこい!鉄なら無限にある!」
―ダダダダダ!!!―
影から影をつたり、短い手足を高速で動かし、鉄を集めに行くソーン達。
「前輪の片方を失ったが結局の所、我々を倒せていない。であれば!いつかは死ぬ!その時まで、遊び続けるとしよう!!!」
―ガガ…!ガガ…!―
片方の前輪を失った以上、先程より速度が落ちている。
(アヤ)「ねぇ。」
アヤは、円を描くように回るソーンに話しかけた。
「何体か捕まえてたんだけどさ。」
(捕まえたソーン)「や、やめろ!!!」
―バオオオオ!!!―
アヤは手から闇を放出した。
掴んでいたソーンは消えていた。
「同じような性質でも、相性は最悪なんだね。」
「倒された…?一体、今確かに…!だがなぜ殺せる!なぜ掴んでいられる!!!」
「掴んでないよ。呑み込んでるだけ。影がなければ死ぬんでしょ?なら、"闇は全てを呑み込むよ"…。」
呑み込むという観点では、影より闇の方が上なのだ。
「(二回目だ…!我々を殺せる奴など…!何故、この星にそこまで集中している…!!!)」
(ラペット)「ソニア…!勝てるよね!!!」
「ああ。このまま行けばな。だが待っていれば、前輪は修復される。その前に仕留めよう…!」
「今度は、私達が追う番よ!!!」
―ダッ…!!!―
アリス達は、ソーンの元へと走り出した。
「向かってくるのか…!!!なら奴を殺す…!そうすればこちらは無敵だ!」
―ガガ…!ダッ…!ダッ…!―
両者接敵。
―ギュイーン…!!!―
ソーンは残った前輪を回転させ、振り上げた。
(ソニア)「二人とも!下に潜れ…!!!」
―ザッ…!―
ソニア、コール、ラペットは鋼鉄兵器の下に潜った。
「なら踏み潰す!振り落とし殺す!」
―ヂュミミミミ!!!―
蒼い光が、下から発光している。
「下は脆いんだな!マヌケ!!!」
「あの人より、扱いに慣れてないよ!ただ模倣しているだけ!」
ソニア達は役目を終え、下から出て走っていく。
「ッグ…!まだだ…!!!」
ソーンは前輪を加速させ、一人に焦点を当てた。
「…コール!前輪はまだ動いてるぞ!!!」
「なっ…!!!」
―ザシュ…!!!―
コールは避けたが、片腕が巻き込まれていった。
(ソニア&ラペット)「コール!!!」
「ッ…!動かん…!」
「満は持した!!!」
―スチャ…!バチバチ…!!!―
前輪を振り上げた状態で三人の波動によって、以前より長く停止したソーン。黒野助は剣を構え、抜刀の姿勢をとっている。
極限まで溜めた魂の魔法は電撃を引き起こし、今かとその時を待っている。
「これは私の私情だ。私情をもって、貴様を斬る!魂が震えるぞ!!!貴様を倒すという、私の鼓動が!!!」
―バキバチ…!!!―
「抜刀!!!」
―ズオオオオオオオオオン!!!!!―
轟音たる雷。
そのような輝きが、鋼鉄兵器を斬り伏せた。
「何をされた…?兵器が二つに、割られたのか…?ッグ…!全軍、退避せよぉぉぉ!!!」
ソーンは威勢を捨て全力で別れ、散り散りに走っていく。
「ソニア達は瓦礫の上に乗っているな。さて、私も上に行こう。」
―ダッ…!ダッ…!―
「一体だけ逃げられればいい!影があれば、増殖はできるのだ…!クソ!竜王め…!話が違うぞ!魔女も、何をしてくるか分からない…!相性さえ良ければ、倒されることなどないのだ!必ず、逃げ延びなくては…!」
「あなた、どこへ行くの?」
「…ッ!?」
一体のソーンは、上を見た。
自分を見下ろす、魔女の姿を。
魔女の使いたる、闇の者を。
―バオオオ…!!!―
「は、離せ…!!!」
アヤに足を呑まれ、空中にぶら下がる。
「ハハ…!殺してみろ…!例え影を呑める力をもっていようと、軍を壊滅させる力はないだろう!もう終わりだ!鉄を集めに行った者達は、より遠くにいる!必ず逃げ延びられる!お前達の負けだ、魔女!!!"くだらない理想を掲げたあの女のように"、"傀儡"と成り果てるがいい…!」
ソーンは喋る合間もつくらず、罵声を浴びせた。
「お母様の夢は、偉大なものよ。不確かだけれど、叶えられたらとても良い事。…ずっとこの旅で、この戦いで、考えていたわ。人は死んで、戦いを望んでいないという魔物を殺し尽くして、何が得れるのかしら。」
「理想はくだらないと言っただろう...!」
「私は結論を得たわ。人の心をもたない存在だと、追放されても構わない。私は"あなたを殺して、理想を創る"!!!」
「哀れな魔女め!死んでいった同胞が報われないな!!!」
「そうかもしれないわね。だから"彼らの命と引き換えに、未来の命を生み出すのよ"。」
アリスは語った。
不確かな思いでいた、母セレスティアの理想郷。
眷属の一人メルセデスは死に、鋼鉄の城は滅んだ。
怒りに呑まれ理想を踏みにじり、無惨に魔物達を殺し、
ソーンの元までやって来た。
そして今得た、この旅の結論。
「そうか。ならば、破壊してやる!理想を目指すと言うのなら、その夢ごと!貴様は呑気に喋りすぎた!影を渡り移動できるなら広大な土地など、すぐに脱出できる!さらばだ魔女!理想の道中、また会おう!!!」
「確実に殺せるから、夢を語っていたのよ。それに私は、あなたに二度と会いたくないわ。」
―ギュイン!ギュイン!ギュイン!―
地に巨大な魔法陣が展開された。
そしてアリスに流れる、昔の記憶。
―――――
「ねぇ、お母様。魔法ってなに?魔法って、どうやってつくるの?」
幼いアリスが母に甘えていた、星降る夜。
(大魔女:セレスティア)「"魔法とは理想"。これがやりたい、あれをしたい。その結晶よ。例えばね…」
―キラ…!―
星が一つ、二つ、短く降る。
流れるまでの間隔は長く。
「もっと、星を見たいなら…」
―バッ…!―
母は空に手を伸ばし…
―フアアアアアア!!!!!―
流星の如く、眩い星が降り注いだ。
「詳しいことは、これから教えるから。ただイメージとしては、何でもいいのよ。あなたがやりたいように、考えるといいわ。」
―――――
「お母様。必ず、迎えに行くわ。」
―バオオオオオオオオ!!!!!―
魔法陣から突如溢れ出す、闇の波。
クルサンの広大な土地を、一瞬にして呑み飲んだ。
「なんだ、これは…。」
「今のクルサンに影はないわ。ところであなた、あと何体残っているのかしら?」
分かっている。自分という存在があと何体存在し、何があれば生み出せるのか。
「なっ…。」
ソーンは絶望した。逃げ場などない。
知っている。
何かに頼らなければ力を振り払えない、影の特性を。
「手、疲れたでしょう。私が持つわ。」
―バオオオ…!―
アリスは手を闇で纏った。
「なぜ、その力を扱える…。」
「"何でも出来るからよ"。あなたより器用に、より正確にね。それじゃあ、最後に言い残すことはあるかしら。」
「ッグ…!この裏…」
―ブオン…!ドオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!―
投げられ空中に舞うソーンは、アリスが放つ魔法に身も言葉もかき消されていった。
「あなたとは、分かり合えそうないわ。…覚えておきなさい。光は、闇を払うのよ。」
滅びたクルサン。
影は消え、瘴気は晴れ、雲を穿ち、晴天の光が大地に立ち込めた。
「みんな…。さようなら…。」
「アリス…。」
空を長め涙を流すアリスを、アヤは見守った。




