5:流砂
『騎士のソニア【5:流砂】』
砂の城は轟音を奏で、煙を撒き散らしながら崩壊した。
その衝撃は静止していた国土を、地震のように揺らす。
(正義感の強い男)「こっちだ!!!"ゴーレム"はいないのか!!!」
そして民は土砂のように、崩壊した砂の城前へと集まった。
砂へと踏み入れるが、救助どころではない。
集まった人全てを呑み込めるほど、積もった砂は山のように大きい。
(屈強なゴーレム)「任せろ。」
男の数倍大きいゴーレムが、砂の中へ躊躇なく入る。
ゴーレムが進んでいる証拠だ。積もる砂が低くなり、広がってきた。
周囲の人々は息を殺しながら、安全な場所へと後ずさる。
ーバサッ!!!ー
砂山の頂点から、ゴーレムの後ろ姿が現れた。
背中が少し丸まっており、両腕の肘が曲がっている。
(正義感の強い男)「無事か!?」
(屈強なゴーレム)「そのはずだ。喋れるか?砂を飲み込むのは、危険だが…。」
どのくらい、寝ていたのだろう。
目を開けると空の光が眩しく、口の中がジャリジャリする。
(ソニア)「あぁ…。ありがとう…。ヤチェ。」
ゴーレムの腕や胸は安心するが、少し痛い。
様々な痛みに襲われつつも、ヤチェリーが心配だ。
(ヤチェリー)「ヅゴホ!」
ヤチェリーが大量の砂を吐き出したが、ポゼも心配だ。
(ソニア)「大丈夫か?」
(ポゼ)「うん…。ソニア達も、大丈夫そうで…。」
ソニア達は、マリア国民に救助された。
ひとまず助かったことで、息を吐ける。
(細身のゴーレム)「…。これは…!」
もう一体のゴーレムが砂の中から、人を引き上げた。
その姿は国民の視線を、釘付けにする。
国民にとって喜びであったか。
魂を乗っ取られた王に対しての、哀しみであったか。
思う感情は、人それぞれあるはずだ。
(民)「ディアノス王!!!」
強い声量が、王の名を呼ぶ。
様々な感情が入り混じった、通りの良い大きな声。
(ポゼ)「どうなるかな…。」
(ソニア)「何かあったんだろう…。あの男の言葉を聞いたら、ディアノス王が私欲のために、杖を取りに行ったとは思えないな…。」
咳き込みそうになったが、何とか話せた。
日の下に現れたディアノスを見て、起きていようと思ったが、民達を信じよう。
ソニアは静かに、瞼を閉じた。
ーーヤチェリーの家ーー
砂の城崩壊から、数日後。
体が少し痛むため、ソファーに寝っ転がっていると、ヤチェリーが紙束を持って、外から戻ってきた。
(ヤチェリー)「来たよ。」
時が止まっていたマリアに、"情報紙"が届くようになった。
大きな紙が数枚構成の、世界情報を知るための物。
ーここ近年での、土砂の国:マリアの噂。
タイダル王、ディアノス王との対談後、砂が活性化していた影響であったと報告。
結果は噂通りであった。現在、砂の活性化は収まっている。ー
(ソニア)「真相には触れられてないな。」
"時の杖"。"黒鎧の男"。
結局あの男は、何者だったのだろう。
数日経った今でも考えるが、何も思い浮かばない。
(ポゼ)「でもディアノス王は、戻ってきてるよね。」
(ヤチェリー)「タイダルが協力して、戻せるものは戻していくらしいけど。」
失った時間。
概念を戻すことは、王であるタイダルでも難しいだろう。
(ソニア)「まぁ、マリアに真実が伝わってるのは、いいことだと思うが。」
時が止まっていたという話は、情報紙には載っていない。
その事実を知るのはマリア国民と、国を救った旅人達。
(ヤチェリー)「本当のことを知ってるのは、私達とディアノス王だけ。いや、本当に全てを知ってるのは、タイダルだけなんだろうけど。」
黒鎧の男。
光を通さないあの黒鎧を、数日経った今でも鮮明に思い出せる。
民達は知らない。
あの異質さを知るのは、城内にいた者だけだ。
ーーーーー
情報紙が配られた、同日。
事の詳細をディアノス自身が、民の面前で語る場を設けた。
盛大な祭りが始まる前かのような大勢の人々が、崩壊した砂の城前へと集まっている。
緊急設置された台へとディアノスが、登っていく。
ディアノスは少し俯きながら重い足を上げていくが、国民達はディアノスを凝視している。
登りきった時、それを痛感した。
前には声を待つ民達が。後ろには自らが崩した城跡が。左右には民達の家々が。
全てが目を見開き、彼を見る。
(ディアノス)「事の真相を、話していく。全て私の責任だ。"時の秘宝"たる噂を聞きつけ、そのような力があれば、国を良い方向へと導ける。そう思ったのだが、現実は厳しいものだった。タイダル王や、"風葉亭の次期王"。"火の王"や、"雷鳴たる名の家系"のような強さは、私にはなかった。身を知った…。本当に、貴重な時間を奪ってしまった。すまないと、思っている…。」
ソニア達も、国民も、それを隅で見るタイダルも。
誰も言葉を発さず、ディアノスを見ていた。
正直ディアノスは、辞退してもよかったのだろう。
だが彼はこの場に立ち、言葉を放った。
ディアノスは王を、続ける覚悟でいる。
(人)「なら!あなたが動かすんだ!それが王の、責任だろう!」
誰も責任を取れないとき、人は誰かに投げるのだ。
それはディアノスにも言えること。
(土砂の王:ディアノス)「もう一度、チャンスがあるならば…!!!」
だがディアノスは、それをしない。
故に王の器。
深々と頭を下げるその姿を、国民達は見守った。
ーーーーー
崩れ落ちた砂の城。そこに建てられた、仮地点。
木の棒を地面に突き刺し、布を四柱の先端に巻き付けただけ。
(タイダル)「見事だった。」
軋みが酷い椅子に足を組んだ状態で、座るタイダル。
ガタガタな机に腕を乗せ、頬杖をつく。
(ディアノス)「あなたのように、本当はなりたいが…。」
理想と現実は程遠かった。
今のタイダルのように格好つけることが、ディアノスには出来なかった。
(ポゼ)「僕はいいと思うけど。ディアノス王には期待を背負って、決断をする力があると思うんだ。」
(ヤチェリー)「それが王の器なんでしょ。特殊な力は必要ない。」
王に求められるもの。
それは絶対的力ではなく、人の前に立ち、思いを背負える器。
格好つけなど、必要なかった。
(ディアノス)「励ましをもらえるとは…。君達にも、迷惑をかけた。特に若い時間というものは…。」
(ソニア)「正直あなたを止めようとしたけど、俺達にその力はなかった。止めたのは、"あの男"だ。」
正体不明。目的不明の、黒鎧の男。
颯爽と現れては杖を持ち、逃げた。
(タイダル)「存在が分からない相手に盗まれるとは、厄介だな。」
(ソニア)「あの杖は何だ?」
人智を超えた、不思議な杖。
加速、停止といった、時に関する事象を引き起こした。
(タイダル)「特別な武器だ。人があれらを、扱えることはない。本質を引き出せるのは、"もっと上だ"。」
タイダルとの話は、いつも謎が深まる。
結局何だか分からないまま、タイダルと別れた。
ーーブラック・ロワーー
霧深い地。
その場所に建つ、何の変哲もないボロボロの家。
(黒鎧の男)「…。載ってはいないか。」
木目が剥げ、丸みと傷が目立つ、椅子と机。
鎧を脱いでいる男は椅子に座り、情報紙を読んでいる。
(???)「見つかっていなければいいですね。」
水の入った容器が、目の前に現れた。
容器も年季が目立つが、気にせず男は飲む。
(黒鎧の男)「それは難しいな。あの場にいた全員を生かし、逃げるにはあれしかなかった。存在は知られた、ここからは早さだ。」
水滴だけが残った容器と情報紙を机に置き、男は立つ。
(???)「次の準備は出来ているようです。」
(黒鎧の男)「あぁ。少ししたら出る。お前も準備しておけ。"移動都市"からの目的に、俺は関われない。」
ーーーーー
マリアの日々が、落ち着き始めた朝。
いつもより早く支度を済ませ、門の外で待つ。
(ヤチェリー)「行こう。マリアでは、足止めをくらってたから。だから行く。私、まだ強くなってない。」
旅を始めた理由は、時が経っても消えていない。
ヤチェリーは拳を突き出し、自信満々に鼻を高くしている。
(ソニア)「そうか。」
そんなヤチェリーの手を引き、隣へと移動させる。
(ポゼ)「じゃあ次は…。」
ソニア、ヤチェリー、ポゼ。
横一列で、新たな場所へと。
<"風の国:風葉亭">




